破れたページ
人工知能が書き出した小説に加筆してみた。
静かな図書館の一角で古びた書物に囲まれた図書館。柔らかな光が差し込む静かな空で、栞を挟んだ本のページをめくる音が響いていた。読書好きな大学生の陽菜は、いつも通りの午後を過ごしていた。
ふと、視界の端に動く影が見えた。本棚の陰から現れたのは、見慣れない顔の青年だった。彼は、少し緊張した様子で、陽菜に声をかけた。
「すみませんが、この本を探しているのですが…」
青年は、古びた本のタイトルを告げた。陽菜はその本を良く知っていた。図書館でもっとも古い蔵書の一つで、誰もが手にすることのできない貴重な本だ。
「それは…」
陽菜は言葉を詰まらせた。そもそも、どうして自分に聞くのか。ナンパか?
青年は、なぜ陽菜が言葉を詰まらせるのか、不思議そうに彼女を見つめた。
「その本は、とても貴重なもので、普段は閲覧が制限されているんです」
それを知っていたのは、仲良くなった司書のお姉さんに聞いていたからだ。
「そうですか…」
青年は肩を落とした。
しかし、陽菜は彼の熱意を感じていた。彼の瞳には、本の知識に対する強い探究心と、それを得たいという切実な願いが宿っていた。
「でも、もしよければ、一緒に探してみませんか?」
陽菜の言葉に、青年の目が輝いた。
二人は、共に図書館の奥深くへと足を踏み入れていく。古びた書物に囲まれながら、二人は本の知識を共有し、時には意見を交わし合った。
次第に、二人は本の世界だけでなく、お互いのことを知り始めた。
静かな図書館の中で、二人の距離は少しずつ近づいていく。
「ヒナっち」
不意に届いた声に、陽菜は振り返る。司書の夏海だ。
「なにしてんの?」
「夏海ちゃん。彼が…」
陽菜が青年を紹介し、彼が探していた本について話そうとすると、
「彼? 脳内彼氏?」
夏海は怪訝に眉を寄せ、そんな彼女の手には、
「あった! それぞれ!」
陽菜がはしゃぐように振り返ると、青年の姿は消えていた。青年の消失に息を飲む陽菜に、
「どうしたー?」
夏海は怪訝な声音に声をかける。
◆◇◆◇◆
興奮気味にことの顛末を語る陽菜に、
「ほんとうにござるかぁ~?」
夏海は懐疑的な眼差しを向け、
「ほんとうに居たの! あたしも最初はナンパかと思ったけど」
「自己評価高いよね~ヒナっち」
贔屓目に言って、陽菜は地味系女子だ。服のチョイスもチト痛い。何故に原色選択? 今日も赤い原色なカーディガンを着ている。地味系女子にナンパはない。あるのは詐欺か宗教の勧誘だ。
「どゆいみ?」
「ピキるなピキるな。コーヒーあげるから」
夏海は宥めるようにコーヒーを注いでやり、
「今夜、ちょっと残業しなくちゃいけなくってさ。ヒナっちも残んなよ。古書読んでて良いからさ」
ポツリと提案。陽菜は苦笑、
「怖いんでしょ? 夏海ちゃん」
揶揄するように陽菜が言うと、
「べべべ別にぃ~。大人ですし~」
夏海はわかり易く狼狽えた。夏海は取り繕うように、
「ヒナっち、実はこの図書館、ただの図書館じゃないのよ」
いつも通りの明るい笑顔を浮かべながら、真顔で告げた。
「この図書館には、ある秘密が隠されているの」
古ぼけた本棚の一冊を取り出し、裏表紙をそっと撫でた。すると、
「いっ痛ぁ~ッ!」
陽菜は夏海の頭に強めの手刀。
「偽情報を発信するんじゃない」
夏海は息をのんだ。そして、そのとき、消えた青年が再び現れる。
「あ、さっきの人ッ! 急に居なくなるとかひどくない?」
陽菜が捲し立てると、
「ページが、足りないんだ…」
青年は泣き入りそうな声で訴えた。
古書を捲ると、
「「や、破られている…」」
貴重な古書のページが破られている。閲覧制限があるのに何故に?
陽菜と夏海が青年に目を向けると、
「待てい!」
青年の姿は消えており、異常検知に陽菜は脱兎。それを夏海が捕まえる。怖いからだ。
「はなじてっ! クリーミーマミの再放送があるノォ~!」
「サブスク入れや貧相服飾!」
うん。陽菜の服装は薄幸と言う言葉がよく似合う。
夏海は、遠い目をして語り始めた。
「昔、この図書館の地下で、恐ろしいものを目撃したの。それは、まるで怪物のような影で…それから、私は夜になると悪夢を見るようになった。図書館の呪いだと、みんなは言うけれど…」
「それ前に聞いた」
語り出した夏海の言葉を陽菜はぶったぎる。薄幸言われたことは根に持っている。
「だって怖いじゃん! 独りじゃ怖いじゃん!」
ここで陽菜が、
「そんなんだから、オヒトリサマ…」
禁句を口にし、
「その先言ったら戦争な」
夏海は冷たな声音に牽制。
ふたりはコーヒーを一口、
「誰が破いたんだろう?」
「あたしらじゃ、ありませんからね」
古書に向き合う。青年が消えたことを受け入れ、冷静に話し合う。
「古書の君は、ページを取り戻したいんだろうけど…」
「ヒナっちの中身って大正だよねー」
「うっさいわ。令和に迎合してんじゃねえわ」
「そんでたまに昭和が入って時代に反骨だ。そこは嫌いじゃない」
ビスケットを一口かじり、
「破られたページの前は…」
「菓子食いながら、稀少古書に触れない…白紙…」
咎めながら、陽菜がページを捲っていくと、
「絶筆の寄贈本なのよ…」
いつまでたっても文字が出てこない。
「じゃあ、別にいいじゃない…」
「ヒナっちが寿命を何日か盗られたら嫌でしょ? 青年は可能性を奪われたんじゃない? 絶筆なんだから、物語の人物は好きに進める。でも…」
「ページが足りなくて、理想の結末に到達できない?」
陽菜もポッキーを一口かじり、
「チョコはダメだからね?」
夏海は咎め、
「館長の受け売りだけどねぇ~」
窓の外に目を向ける。なんとなく、誰がページを破いたのか、検討がついた。
「再放送見に帰っていい?」
「いいよ。もう怖くなくなった」
陽菜は家路につき、夏海は仕事に戻った。
ここだけの短編。