第6章 冒険の始まり
「ここも無いか」
蓮ががっかりしたようにホームセンターの棚を見て言った。
渉たちと北葛西のドンキホーテから始めてディスカウントショップやホームセンターを回ったが、五人で乗って人工渚まで漕いで行けるようなゴムボートは売っていなかった。売っているのは小学生がプールで遊ぶためのような小さいビニール製のものしかない。
「どうする?」
「お台場のマリンスポーツの専門店に行ってみよう」
「あそこは高いんじゃないか」
「この際、仕方ないだろう」
「とりあえず、行ってみないことには分からないし」
「じゃあ、お台場までゆくか」
僕はヘルメットをかぶると、渉の後ろに乗った。そのまま湾岸道路を三台のバイクで走りお台場まで行った。
「ここまで来たのに、変わらないな」
マリンスポーツの店に行っても同じだった。
手頃な値段で欲しいサイズのゴムボートは売ってなかった。
「あれならどうだ」
淳が天井から吊り下げられている大きな細長い風船を指差した。
「あんな飾りを買ってどうする」
「飾りじゃないよ。あれもボートだよ」
僕はあらためて見た。巨大な黄色い楕円形をしていた。
「バナナボードだよ」
「バナナホード?」
「南の島のリゾートの浜でよくビキニの女の子があれに跨ってキャーキャー言いながら海で遊ぶのをドラマとかアニメで観たことないのか。あれなら安そうだし、五人でも乗れるんじゃないか」
「あのバナナボートはいくらですか」
渉が店員に訊いた。
「12万円になります」
「そんなにするのか!」
「はい」
「だめだ。帰ろう」
「今日は成果なしだったな」
帰りは僕がハンドルを握り渉が後ろだった。
渉はすっかり意気消沈していた。
「なあ、流司、ボートが手に入らなければ計画は終わりだな」
「他に方法はないのか」
「淳と何度も話したけど、侵入経路は海しかない」
「そうか」
「なあ、諦めるしかないのか」
「……」
その晩、僕が寝ようしているとスマホが鳴った。
蓮からの連絡だった。
「どうした?」
「見つけた」
「何を?」
「ボートだよ」
「どこで」
「浦安のリサイクルショップだ。あの後、中古でもいいから安いゴムボートがないか、一人でリサイクルショップを回っていたんだ。四軒目で見つけた」
「どんなボードだ」
「お台場で見たのと同じようなバナナボートだ」
「それで幾らだ?」
「九八〇〇円だ」
時計を見た。午後一一時だった。
「よし、明日買いに行こう」
「いや、もう買った」
「渉には?」
「渉にも電話した。喜んでいた」
「ありがとう、蓮!」
「これで行けるな」
「ああ」
「明日の放課後に空気を入れて試してみよう」
「分かった」
電話を切るとベッドに仰向けになった。さっきまでは、チバファクトリーを諦めかけていた。だが、ボートが手に入ったことでチバファクトリー行きは急に現実味を帯びてきた。
(後はアマンダだ。アマンダのことをどうしたらいいのだろう……)
そんなことを考えているうちにスマホを握りしめながら眠りに落ちた。
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