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第4章 チバファクトリー


          1


「ねぇ、どこに行くの」

 日がすっかり落ちた新浦安駅前のバス停でアマンダが訊いた。


「着くまで内緒だ」

「でも、こんな時間に新浦安からバスに乗って何するの」

「渉たちと現地集合することになっている」


 バスが停車場に入ってきた。

 夜のバス停は埋立地のマンションに帰る人たちで長い行列ができていた。


 僕とアマンダは一番後ろの席に座った。一〇分ほど行ったところでバスを降りた。


 住宅地の真ん中だった。さっきまで見えていた高層マンションは姿を消し一戸建てが並んでいた。


「家ばかりね。でも日本じゃないみたい」

 ワシントンヤシの街路樹が植えられていて西海岸の雰囲気を出していた。

「ねぇ、カリフォルニアってこんな感じなのかな」

「ああ……」

 行ったことがないので答えようがなかった。

「こんなところに来てどうするの」

「目的地はここじゃない」


 僕はスマホを取り出した。マップに目的地を登録していたからだ。

「こっちだ」

 スマホのアプリのガイドに従って歩き始めた。


 住宅街の十字路を一つ曲がると潮の香りが押し寄せてきた。その道の先には夜空と何もない空間が広がっていた。足元には漆黒のうねりがあり、そこから音が湧き上がってきた。


「この音は何?」

「潮騒だよ」

「シオサイ?」

「潮が立てる波の音だよ」

「なんだかすごく気持ちがいい」

 アマンダが僕の腕にぶら下がるように腕をからませてきた。アマンダと日の出海岸沿い緑道を海岸線に沿って歩いた。


「ねぇ、この先、真っ暗よ」

「墓地だからな」

「お墓?」

「ああ、浦安の墓地公園だ」

 体を寄せてきているアマンダが少し震えた。

「怖いか」

「うんうん」

 アマンダは首を振った。

「流司と一緒だから」


 そこから海岸の遊歩道の終着点まですぐだった。遊歩道の先は東京湾を見渡せるデッキになっていた。

「おーい、ここだ」

 青白い光が左右に揺れた。

 蓮がスマホの画面を振って合図をしていた。僕は手を上げて近づくと渉たちと拳を合わせて挨拶を交わした。


「揃ったから始めよう」

「ねぇ、何をするの」

「あれを見に来たんだよ」


 淳が東京湾の対岸を指差した。


「綺麗」

 アマンダが驚きの声を上げた。海の向こうには極色彩の電飾の街が輝いていた。

「ディズニーランド?」

「ディズニーランドは反対側だ。あそこは千葉市だ」

 淳が答えた。

「それがあんな風に輝いて見えるの?」

「ドローンで空中から計測したら歌舞伎町や六本木より明るいそうだ。羽田にランディングする旅客機の窓から夜に見ると圧巻だそうだ」

「じゃあ、あれが……」

「そうだ。あれがチバファクトリーだ」

「あれがチバファクトリー……」

 アマンダが呟いた。


「アマンダちゃんはチバファクトリーのことをどれだけ知っている?」

 渉が訊いた。

「お酒が飲めてエッチができる大人の遊園地みたいなところ」

「それだけ」

「うん」

 渉は少し呆れたような顔をした。

「淳、アマンダちゃんにも説明をしてやれ」

「アマンダちゃん、チバファクトリーが刑務所だっていうことは知っている?」

「刑務所? 何それ」

「罪を犯して有罪になった人が服役する施設だよ」

「それは知っている。そうじゃなくて、どうしてあんなにネオンで輝いている街が刑務所なのよ」

「あれが新しい形の刑務所だ」

「言葉で説明するよりも、あの動画をアマンダちゃんに見せた方が早いんじゃないか」

「そうだな」

 淳はスマホを取り出すと動画を開き、再生をオンにした。

「まずはこれを見て」

 淳が手にしたスマホをアマンダに向けた。僕もアマンダの後ろから画面を見た。


           2


「ようこそ、チバファクトリーのまとめ動画にいらっしゃいました。この動画が気に入ったら称賛ボタンを押してね。チャンネル登録もお願いね」

 アイドル風のアバターがウィンクをした。

 そして、海に囲まれたリゾート地のような人工島が映し出された。


「ことの始まりは千葉市内にあった千葉刑務所の移転問題です。明治四〇年に千葉市の貝塚町に建てられた千葉刑務所は老朽化して建て替え等の必要があるとともに千葉市の中心部にあったことから移転を求める声がありました」


 赤煉瓦の東京駅のような建物が映し出された。


「同時に千葉港の目の前にある広大な埋め立て地にあった工場も県外に移転することになりました。ただし工場の跡地ということで、住宅地にするには慎重に判断すべきという意見が多数出ました。そんな中、その工場跡地を利用して時代の先端を行く開放的な準社会内処遇的矯正施設を建てようというプランが浮上してきたのです」


 記者会見の絵柄になった。スーツ姿の恰幅のいい男性が話を始めた。画面の下には藤原法務大臣というテロップが流れた。


「新千葉刑務所には塀はありません。金網のフェンスがあるだけです。それも脱獄を防止するためでなく、子供などが間違えて中に入ったりしないように外からのアクセスを制限するためです。また新千葉刑務所には鉄格子の部屋もありません。収監者は自由に街の中で生活をしています。街の中ならどこにでも一人で歩いて行け手錠も腰縄もありません」

「脱獄の恐れは無いのですか」

「ありません。まず収監者は全員ナノチップをつけています。これは特殊な道具がないと外せません。そして二四時間、セキュリティのドローンが収監者を監視していて収監者は外には出ることができないようになっています。ドローンは高度なAIを搭載した自律型警戒機で、人間が操作する必要はなく二四時間三六五日休まずに働いてくれます」


「一般人がその刑務所内に立ち入れるというのは本当ですか」

「そのとおりです。新千葉刑務所は、大人のアミューズメントパークです。入場料を最初に入り口で払えば、中ではお金はかかりません。飲み放題、食べ放題で、宿も無料で泊まれます」

「アルコールの提供もありますか」

「もちろんです」

「お金は使えるんですか」

「いえ中では一切お金を使うことはできません。財布を始め手荷物の一切はゲートの手前で預け、中には何も持ち込めません」

「囚人と一緒で危険はありませんか」

「収監されているのは凶暴性の無い者に限定されています。さらに二四時間完全に監視されています。なので、ご心配なく」


「囚人は中で何をしているんですか」

「ご承知の通り懲役刑に服している囚人は刑務所内で刑務作業に従事します。これに対してチバファクトリーの収監者はこの街の接客業に従事します。料理人、バーテンダー、ホステスなど本人の適正に従いエンターティメントビジネスに従事します」

「そのエンターティメントというのはどんなコンセプトですか」

「古き良き日本の歓楽街の再現です」

「具体的には?」

「昔の新宿歌舞伎町やゴールデン街などです。他にも渋谷や六本木、秋葉原や熱海や京都の再現もあります。アニメの舞台の再現もあります。このサイバーパンクな世界観の街に、世界中から観光客が押し寄せて来ています。まさに大人の夢の国です」


「大臣、チバファクトリーでは管理売春が行われているのではないかという疑問もありますが」


 藤原法務大臣は厳しい目でその質問をした記者のことを見た。


「何を言っているのですか。売春などありません。そもそもチバファクトリーにはお金を始め私物の一切は持ち込み不可です。中にいる収監者も中で一切お金を使うことはできません。衣食住は全てフリーです。何らかの対価を得て性的行為をすることなどありえません」

「しかし、政府が風俗営業の規制を強化して、今、繁華街でも風俗店を見かけることはありません。また道徳令により不倫や不純異性交遊について締め付けも厳しくなっています。それとの整合性についてどのようにお考えでしょうか」

「チバファクトリーでは金銭を払っての性的なサービスの提供は一切ありません」

「でも入場料は取っているではないですか」

「それは飲食代と施設の維持費です」

「中での性行為については黙認するんですか」

「黙認とかではありません」

「でも実際、セックスが目当てで行く人が大勢いますよね」

「個人のプライベートな行為について政府がコメントすることはありません」

「他に質問がなければ記者会見はこれで終わります」


 司会が質問を打ち切るようにして記者会見の終わりを告げた。


 画面には男女のアバターが出てきた。

「なかなか面白い会見だったね」

「ねぇ、記者が質問していた管理売春って何のことなの」

「実はチバファクトリーは性の解放区でもある」

「じゃあ、やっぱり売春とかあるの」

「それはちょっと違うな。自由恋愛って感じかな」

「どいういうこと」

「まず、法規制で性風俗とラブホテルの新規開業の許認可が下りなくなり、次第に廃業に追い込まれていった。ところが普通のホテルに泊まるとなると携帯電話やカードでの決済が不倫カップルには足かせになった」

「どうして?」

「シティホテルは事前に予約してクレジットカード決済のみのところが多い。本名と住所が特定されてしまうし、クレジットカードの利用明細でいつどこに泊まったかが明らかになる。だからホテルを利用して不倫や密会することが難しくなったんだよ」

「でもチバファクトリーに行っても入場料のカード決済でばれちゃうでしょ」

「チバファクトリーは大人のテーマパークとして世界中から観光客が来る。昼間から営業していて健全な見どころが一杯ある。行ったことが判明しても大きな支障はない」

「でも密会の写真とか撮られたら、言い訳できないんじゃない?」

「チバファクトリーは一切のディバイスや私物の持ち込み厳禁だから、興信所の調査員が尾行しても写真も取れないし録音もできない。密会の証拠は残らないんだよ」

「そうなんだ」

「だから不倫相手とチバファクトリーで会う人が結構いる」

「じゃあエッチなことをしているのは不倫カップルだけなの?」

「いや、客同士がその場で意気投合して一夜だけの関係を結ぶ場合もある。こっちの方がはるかに多いかな。街は昔の六本木や歌舞伎町のレプリカのサイバーパンクな街になっていて雰囲気を盛り上げてくれるからね」


「ホテルはどうなっているの」

「もちろん用意されている。アミューズメントパークにふさわしく、昔の有名どころのラブホテルのレプリカも多くある。もちろん料金は取られないし、避妊具も各部屋に置いてある」

「いたれりつくせりなのね」

「そうだ」

「でも相手を見つけられない人はどうするの?」

「その場合には接客している囚人にお願いすればいい」

「囚人がそんなことをするの?」

「客が求めてきたら大半の囚人は応じるらしい」

「どうして」

「お客様をおもてなしして満足度を上げて帰すと、その囚人のポイントが上がり仮放免を得やすくなるシステムらしい。それに暇だから」

「そうなんだ……」

「でも囚人と個室で二人きりになって危険は無いの?」

「心理テスト等をして少しでも危険性のある者は、チバファクトリーには収監されない。安全な者しかいないそうだ」


「どんな罪を犯した人なの」

「常習累犯窃盗、薬物中毒者、小児性犯罪者、後は常習的な不正アクセスをした人などだ」

「なんか聞くと危ない人たちみたいだけど。特に薬物中毒者とか平気なの」

「大丈夫だ。薬物中毒者も比較的まだ軽症の人が収監されているらしい。収監されているのは危険性が無い人たちばかりらしい」

「どうしてその罪状の人が選ばれたの」

「まずチバファクトリーはお金が使えない。しかもなんでもフリーだ。ただで使えるし、持っていっていい。だから病的に万引をしてしまう窃盗犯は、万引しようにもできないから矯正するのにいいらしい。それから二二歳未満お断りで子供が存在しない街だから小児性犯罪者も悪さができない。薬物も一切持ち込めないから薬物中毒者も同様だ」

「その不正アクセスとかいうのは」

「ああ、クラッカーのことか」

「クラッカーって」

「スナックじゃない。悪質なコンピューターハッカーのことだ」

「ハッカーもいるの」

「そうだ。あれも常習犯は中毒患者みたいなものだ。セキュリティホールから侵入することそれ自体が快感でやめられない。そういう人間はあらゆるデバイスが無くネットにつながらない世界に収監すればいいということになったらしい。とにかく安心して遊べる街だ」

「ふーん」


「それに現在ではこちら側の普通の街は、夜一〇以降は飲食店でのアルコールの提供が制限されているが、チバファクトリーでは、アルコールは二四時間提供していて、しかも飲み放題だ。料理もとても美味いらしい。サイバーパンクな街並みを観光して飲み食いするだけでも元は十分に取れるぞ」

「なら私も行ってみたい!」

「次の週末に行こう」

「でもどうやって行ったらいいの」

「東京駅から直通バスが無料で出ている。もちろん千葉駅からも無料送迎バスがある。バスが一番おすすめだ」

「車では行けないの」

「もちろん大丈夫だ。駐車場も完備されている」

「じゃあ、週末はチバファクトリーに行こう」

「皆も、チバファクトリーに行こうね。この動画がよかったら高評価をポチしてね。あとチャンネル登録も忘れないでね」


 そこで動画は終わった。


         3


「アマンダちゃん、分かったかい」


 アマンダは淳のスマホの画面から顔を上げると不思議そうに対岸のネオンの輝きに包まれた不夜城を見つめた。


「あそこが大人の夢の国なの」

「そうだ」

 渉が言った。


「どんな夢があそこにあるの」

「分からない」

「じゃあ、どうして行くの」

「来年の春には俺たちは卒業する。卒業したらバラバラになるから最後の夏に四人で何かやろうってことになった。けど俺たちは家庭環境や学力に問題のある生徒ばかりが集められた学校の中のさらに底辺だろ。卒業旅行に行く金も無いしって話をしているうちに、大人の夢の国に行って大人になろうってことになった」


「そうだったんだ」

「でもアマンダちゃんはまだ卒業するわけじゃない。本当に一緒に来るつもりかい」

「来年の春になったら皆とお別れしなきゃならないのは一緒だよ。それに……」

 アマンダは俯いた。

「どうしたんだい」

「流司は卒業して就職したら施設を出なくちゃならない。もう一緒に住んで同じ学校に通うことはできなくなる。だから私も流司と特別な思い出を作りたい」

 そう言うとアマンダは泣き出した。

「分かった。一緒に行こう」

 蓮が言った。

「なあ、流司、いいだろ」


 児童養護施設は原則として一八歳までしかいれない。卒業して就職したら施設は出なければならない。だが、春になったらアマンダとは別々の暮らしになるということを今まで意識していなかった。僕は、渉たちと馬鹿をやって遊び歩き、アマンダと一緒に暮らす生活がいつまでも続いて行くような気持ちでいた。


(また、一人ぼっちになるのか……)


「流司、どうなんだ」

「アマンダも一緒で構わない」

「もっとやさしい言葉をかけてやれよ」

 淳が言った。


(何と言えばいいんだ)


 アマンダが泣き顔を上げて僕を見た。


 僕は頷いた。


「ほんとうにいいの?」

「もちろんだ」

「邪魔じゃない」

「そんなことない」

 アマンダが抱きついてきた。


 渉が咳をした。

 アマンダは皆の前だということに気が付き体を離した。

「でも、チバファクトリーは二二歳未満お断りでしょ。どうやって入るの?」

 アマンダが渉に訊いた。


「忍び込む」

「そんなことして大丈夫?」

「大丈夫だよ。それに中に入ってしまえば、すべてがフリーだからお金の必要はないし」

「でも、どうやって忍び込むの? 外からの侵入を防ぐためにフェンスで囲まれているんでしょ」

「侵入経路を見つけた。淳、皆に話してやれ」

「チバファクトリーは人工島で陸地とつながる橋の周囲には高いフェンスが立てられている。けれども海側は景観を重視してフェンスの無い場所がある。特に人工渚にはフェンスが無い」


 淳はスマホの画像を見せた。


「だから海から人工渚に上陸する」

「そんなことが可能なら皆お金を払わないで海から入ってこない?」

「いや、今ではどんな舟もGPSを搭載してコンピューターで制御されてネットワークにつながっているから、許可なく近づいて上陸しようとすればAIを搭載したドローンにすぐに見つかる」

「じゃあ、どうやって近づくの?」

「アナログな方法でやる」

「アナログ?」

「海水浴場で遊ぶためのゴムボートで接近して上陸する。そして服は防水のパックに入れて持って行き中に入ったら街で着替える」

「そんな方法で本当に大丈夫なの」

「やってみないと分からない。でも他に方法は無い」


 渉が皆を見回すようにして続けた。

「もし誰か一人でも反対なら、この話は無かったことにする」


 沈黙が続いた。


「どこからそのゴムボートで出るの?」

 アマンダが訊いた。

「隣接する千葉港の公園の渚から出るつもりだ」

「ゴムボートはどこで調達するの」

「とりあえずドンキを物色してみる」

「他に質問はあるか」


 誰も質問しなかった。


「じゃあ、今日はこれで解散だ」

「流司たちはバスで来たのか」

「ああ」

「ほらこれ」

 僕は渉が投げたキーをキャッチした。

「何だ」

「俺のバイクに二人で乗って帰れ。予備のメットもある」

「お前はどうする」

「蓮の後ろに乗る」

「いいのか」

「ああ。蓮と後ろをついてゆく。ホームの近くで返してくれればいい」

「アマンダちゃんは俺の予備のメットを使えよ」

 蓮がシートを上に上げて、中から予備のヘルメットを取り出すとアマンダに渡した。僕は渉の一二五CCのスクーターに跨った。免許は渉たちと一緒に取った。自分のバイクを買う金は無いので、いつも渉に貸してもらっていたので扱いは慣れていた。


           4


 アマンダが後ろに乗ると僕の体に腕を回した。


 エンジンをかけた。


 蓮のバイクが先に出て、次に淳の原付きが後に続いた。

 

 夜の墓地公園は人気が無く走る車も無かった。


 広い道を並んで走った。


 夜風が気持ちよかった。


 そのまま新浦安駅方面に向けて走り京葉線のガード下を抜けると湾岸道路に入った。湾岸道路に入ると車の数が増えて流れも速くなった。

 僕はアクセルを絞るように回してエンジンの回転数を上げた。加速する力に後ろのアマンダが強くしがみついてきた。


 湾岸道路は首都高湾岸線の下を走っているがディズニーランドカーブのあたりから首都高湾岸線と並走する。ディズニーランドカーブに入る上り坂になった。


 坂の上は舞浜大橋だった。


 舞浜大橋に入ると防音壁も無くなり、景色が三六〇度見渡せるようになって、ディズニーのオフィシャルホテルの電飾や葛西臨海公園の大観覧車の大輪の花火のようなイルミネーションが視界に飛び込んできた。


「素敵!」


 アマンダが歓声を上げた。


 かん高い轟音が上から響いてきた。


 見ると大型旅客機が高度を下げて並走するように飛んでいた。羽田空港へのランディングの体勢を整えているようだった。


 僕はさらにアクセルを絞った。


 エンジンが唸る。


 このまま加速してゆけば自分たちにも翼が生えて、天に向かって飛ぶことができるような気持ちがした。


「風になったみたい」


 アマンダが耳元で叫んだ。


「ああ」


「流司!」


「何?」


「愛している!」


 舞浜大橋を渡ると、左にウインカーを点滅させ、側道から下に降りた。


 葛西臨海公園前の信号待ちで蓮や淳と並んだ。


 淳とはここでお別れだった。


 手を振って別れの合図をした。


 僕はゆっくりと右折して環七に入った。そして、ホームの近くの公園まで来るとバイクを止めた。後ろからついてきた蓮のバイクも止まった。


「ありがとう」


 僕はバイクから降りると鍵とヘルメットを返した。


「じゃあな」


 渉と蓮が帰った。


「すっかり遅くなったな」


 公園の時計を見ると一〇時の門限を過ぎていた。


「いそがないと」


「待って」


 アマンダが僕のシャツの裾を引っ張った。


「どうした」


 アマンダが抱きついてキスしてきた。





【作者からのお願い】


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