さようなら、好きだったはずの人
――自分で殺しといて皮肉なものだ。
悲願とも言える目標を達成した今になって、この想定外で衝撃的な事実が身体中を駆け巡っている。
それは、まるで思いもよらぬ閃きのように突然訪れたが、妙に納得がいく。
そう、君への深い憎しみ、そして周りから異常だと言われるほどの執着。なんだ、すべては愛情や独占欲の裏返しだったのか。
これも二人の立場がこうじゃなけりゃもっと、違う形で君の目にも写っただろうに。君の両親を殺した時から僕は君の仇となった。
出会った瞬間よりもずっと前から敵同士では、心も身体もこれが愛だと伝えられなかったのだろう。
まあ、それならそれで、今になってから伝えるのではなく、僕が死ぬまで黙っていてほしかったね。ほかにもっとマシなタイミングがあっただろうに。
殺した瞬間、命が消えた瞬間に、まるで堰を切ったように溢れ出してきやがって。
ここに至るまでの長い年月。僕はこの幸せな瞬間を待ち望んでいたのに、悲しいくらい台無しだ。
……どうせ返事がないのは分かっているけど、ねぇ、君にとって僕はどういう存在だったんだろう?
単なる敵だったのかな? それとも、僕のように、単なる悲哀や憎悪とは言い切れない、拗らせて複雑な感情を抱いていたのかな?
もしこれが逆の立場だったら、君は僕のように思ってくれただろうか? 君が僕を殺して喜ぶ姿は何となく想像できるよ。
でも、今の僕のような気持ちを抱いている君の姿を見たことがない。僕が知らないだけで、他の人には見せてたのかもしれないけど。
うわ、今更嫉妬するとか虚しくてたまらないね。
初めて彼女の頬に触れる。数分前まで生きていた彼女の肌はまだほんのりと温かい。
撫でるようにじっくり触れると、へぇ、意外にも滑らかで綺麗な肌だ。
こう見ると何だか眠っているみたいだね。そんな関係じゃなかったから、君の眠っている姿なんてこれまでも、これからも見ることはないけど。
もし、君が眠りから目を覚ましたとき、僕が告白したら、一体どんな顔をしただろう。想像してみる。
……君ならきっと馬鹿にされたと思って、まず顔を怒りで赤く染めるだろう。
「二人の間にそんな面倒なものは微塵もない。元からおかしいと思っていたが、とうとうそこまで頭がおかしくなったのか!」みたいな感じで僕がとうとう狂ったと思って、怒りに満ちた目で僕を睨み、突き飛ばして殺そうとするだろうね。
僕も同じ状況になっていたら、きっと同じようにしただろう。まあ、ほんの数分前までなら、ね。
眺めているうちに、こうするのが当たり前だったかのように自然と唇を重ねる。
その瞬間、涙が彼女に落ちると同時に現れた生温かい感触に、薄ら寒い興奮を覚えた。




