秋花恵
プロローグ
ある平日の午後、少年、秋花恵は学校から家に向かい帰っていた。
ルックス平凡、運動能力平凡。学力はちょっと良い、それが彼だ。
あとは見事に普通な高校一年生。
そう、アニメに例えれば、学校の廊下で主人公とほんの一瞬すれ違う程度の存在だ。
例えるなら、いや例えずとも、彼はモブだ。
主人公でも、主人公の仲間でも、そして主人公のライバルでもないモブ。
しかしそれで良かった。異世界転移ができなくても、異世界転生ができなくても、ラブコメが始まらなくても、生きていられればそれで良い。
生きているのが重要なんだ。
好きなものがいっぱいある。
小説が好きだ、漫画が好きだ、アニメが好きだ。
好きだから、それらにのめり込むように生きている。
それに、夢もある。
ライトノベルの新人賞に応募してラノベ作家になる、それがケイの夢だ。
異世界転移モノ、大好き。
今日放送されるアニメが楽しみだ。なんて考えているうちに、家に着いた。
そして好きなものについて考えるうちに思う。
ーーしかしあれだ、この若さで何を言っていると言われるかもしれないが、好きなモノというのは、意外に急に現れたりするものだな。
ケイもつい数ヶ月前、高校に入るまではラノベだのアニメだのには興味なかった。
同じクラスになった友人に勧められて、そしてそこからのめり込んだ。
ーー出会えて良かった。ありがとう、ヲタ友。
それにこれからだって、好きなものにどんどん出会えるだろう。
そう思うと、ウキウキできた。
「さて、じゃあ今日もヲタの世界に飛び立つとしますか」
ケイは今日はこれから、今期一推しのアニメを観る。
「フンフフ〜ン♪」
そうしてケイが鼻歌交じりに部屋のドアを開けると、強烈な光を浴びた。
「ん?夕日ってこんなに眩しかったっけ?」
そう思った次の瞬間、ケイの視界に広がったのは見慣れたヲタク部屋ーーではなく暗く、岩だらけの洞窟のような場所だった。
ケイは一瞬で理解する。
「いや、現実には求めてねーよ!異世界転移!」