偽りの夫婦 -夫の証言-
僕の仕事は、自動車整備士だ。
「車のお医者さん」という全国のどこにでもある店で働いている。
僕には、妻がいる。さおりだ。
幼稚園の頃から親同士の仲が良かった。世間一般でいうところの、幼なじみだ。
彼女は、思い込みが激しい性格なほうだと僕は思う。
中学の時、さおりはバレーボール部だった。
彼女は、レギュラーメンバーだったし、バレーチームは地域の学校の中ではわりと強くて、部活も厳しかったと思う。そうだな、あのいつも大声で熱血指導する体育の先生が指導してたんだから当然か。
僕は、卓球部員で、いつも体育館の隅のほうで活動してた。
僕は卓球をするよりかは、体育館の外通路で友達と流行りのゲームの話をするほうが好きだった。
さおりと付き合うことになったきっかけは、今でもはっきりと思い出せる。
「なあ、お前は、どっち派?」
その流行りのゲームは、主人公がふたりの女の子のどちらかを選んで結婚するのだ。そのふたりの女の子は、清純なお姫様と、元気いっぱいな幼なじみだ。はっきりいってどちらも可愛い。
僕は正直に答えた。
「一緒に旅をした幼なじみのほうを選んだけど、僕は、見た目の好みは完全にお姫様なんだよなぁ。なんであっちを選んじゃったんだろうなあ。」
僕はその時、クラスに一人はいる、マドンナ的な女子の優子が好きではあった。サラサラとした長い髪、都会的な少し大人っぽい、けれども可愛らしい顔立ちは、田舎では目立ったし、男子はみんな憧れていた。僕は少し好きではあった。
「やっぱり、お前もお姫様派かぁ。じゃ、クラスの中で言ったらやっぱり、優子派?」
と、友達がからかってきた。周りに聞こえている。これじゃ、優子が好きと公言するようなものじゃないか。
僕は、むきになって、
「優子なんか好きじゃない。幼なじみのほうを選ぶって言ってるだろ。」
と、大声で言ってしまった。
女子バレーボール部員が休憩していた。
「ゆきまさが、さおりに告ってるよー。」
と、クラスの女子がからかった。
さおりは、顔を赤らめていた。
高校卒業後、僕は就職し、さおりと結婚した。
さおりは、事務の仕事をしていたが、結婚を機に専業主婦になった。寿退社が憧れだと、さおりから何度も聞かされていた。僕は、正直、生活できれば良かったから、さおりが働こうが家にいようがどっちでも良かった。
でも、さおりは、憧れの寿退社をして、毎日休日のように家にいるのにも関わらず、僕が帰宅すると疲れたと言った。
新婚の頃は働いてくれてありがとうと言ってくれたが、そんな期間は半年も無かった気がする。
だんだん化粧もしなくなって、おしゃれもしなくなって、可愛らしさもなくなった。
優しかったはずのさおりの性格は変わっていった。
長くなってしまったため、続きます。