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真実 002



 ミアが昼間のうちに取ってくれたという宿を目指し、僕とレヴィは夜のサリバを歩いた。

 ちなみに、道案内をするべきミアさん本人は、僕の背中で熟睡中である。


「何と言うか、凄まじいお方ですね、ミアさんは」


 先程まで間近で酔っ払いの圧を感じていたレヴィは、しみじみと呟いた。

 そんなところで感心されるとは、僕の仲間も可哀想な人間である……まあ、自業自得以外の何物でもないが。


「……」


 お前の周りに酒癖の悪い人はいなかったのかと訊きかけて、言葉を飲み込む。

 いい加減、僕も失言をし過ぎだ。

 レヴィが記憶を無くしているのだと、ともすれば忘れそうになる……それだけ、彼女の振る舞いに違和感がないということなのだろう。

 まだ子どもなのに、大した肝の座り方である。


「……その、イチカさん」

「ん?」

「……改めてお礼を言わせてください。今日一日、本当にありがとうございました」


 言って、レヴィは深々と腰を曲げた。

 彼女にとっての問題は何一つ解決していないというのに、律儀な奴である。


「僕としちゃ、全然役に立てた実感はないんだけどな……まあ一応、感謝は受け取っておくよ」

「はい。日当たりの良いところに飾って、水やりは一日一回まででお願いしますね」

「お前の感謝、成長すんのかよ」


 しかも光合成で。

 何か嫌だな、おい。


「もちろん冗談ですけれど……でも、私のことを少しでも覚えていてくれるなら、それ程嬉しいことはありません」

「……何だよ、その言い方。まるで、どっかに消えちまうみたいじゃないか――」


 と。

 何の気なしに後ろへと目をやった僕の視界には――闇。

 暗く粘っこい、纏わりつくような暗闇が広がっていた。

 つい数秒前まで、一緒に歩いていたレヴィの姿はなく。

 ただ、まばらな街灯が頼りなく灯っている。


「……」


 眼前の状況を消化できない僕は、つい身体の力を抜いてしまい……結果、背負っていたミアを地面に落としてしまった。


「いったぁい……ちょっと、ここはどこ? 私は誰?」

「いや、お前まで記憶喪失になられても困るんだけど……」


 我ながら鈍い返しをしてしまったが、それも致し方あるまい。

 僕は来た道を戻り、路地の奥や物陰の裏などを確認する。

 そんな奇妙な様子を不思議に思ったのか、ミアがゆっくりと近づいてきた。


「何してるの、イチカ? 私たち、宿に向かってたのよね?」

「あ、ああ……そうなんだけど……」

「……レヴィちゃんはどこにいるの?」


 遅れて、ミアも異常事態に気づいた。

 いくら暗いと言っても、街灯に照らされている道だ……あいつがイタズラで隠れているなら、すぐに見つけられるはずである。

 にもかかわらず、見つからない。

 影も形も見当たらない。


「……」


 レヴィ・コラリスは。

 僕らの前から、完全に姿を消してしまったのだ。


「手分けして探そう!」

「ええ!」


 僕とミアは二手に分かれ、レヴィの捜索を開始する。

 とは言っても、心当たりなんてあるはずもない。

 しゃにむにに、ただ街を駆けるだけだ。


「くそ……」


 焦りが募っていく。

 一体彼女の身に何が起きたのか、想像もつかない……いや、違う。

 想像はついているはずだ。

 ただ、それを認めたくない自分がいる。


「……」


 あそこまで突然の消失となると、考え得る可能性は二つだ。

 一つは、何者かの悪意によって攫われたという最悪のパターン……この場合、僕らは一刻も早くレヴィを見つけ出さなければならない。

 そしてもう一つは。

 レヴィが――自分自身の意志で姿を消した可能性だ。

 スキル。

 彼女が何らかのスキルを用いたという、そんな可能性。

 だとするなら、その目的は?

 僕らの前からいなくなる理由がわからない……くそ、考えるのは後だ、イチカ・シリル。

 今はとにかく、あの蒼い髪の少女を見つけないと……。


「……」


 と、そこで思い当たる。

 何の根拠もない直感。

 が、それ故に無視することはできない。


「ダメで元々か……」


 僕は走らせていた足を反転させ、とある場所を目的地に設定する。

 目指すのは、サリバの北。

 レヴィと初めて出会った、あの墓地だった。



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