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レベル1の転生者 001

 お世話になります、いとうヒンジです。


 長編五作目になります。また、執筆開始から一年が経ったということで、思い入れのある作品になりそうです。


 よしなに。





「イチカ。俺たちのパーティーから出ていってくれ」


 村にある唯一の酒場。

 久しぶりにパーティーのみんなと食事を始めた矢先、そんな言葉が耳に飛び込んできた。


「……えっと」


 僕は食事の手を止め、声の主――キリスの方を見る。

 キリス・デイン。

 このパーティーの前衛を担当する剣士で、僕の幼馴染の一人。

 キリスは眉間にしわを寄せ、不機嫌そうに腕を組んでいた。


「もう勘弁ならねえ。お前とパーティーを組んで七年、我慢の限界だ」

「……」


 嫌な汗が頬を伝う。

 じわりと、掌が湿り出す。


「キリスとガジと私、三人で決めたの。私たちは村を出て、もっと上のランクを目指す……あなたは邪魔なのよ、イチカ」


 隣に座るエレナの声が、酷く冷たく聞こえた。

 向かいに座るガジは無言で頷き、僕と目を合わそうとしない。

 エレナ・スカーレット、魔術師。

 ガジ・スカルノ、回復師。

 二人とも、僕の幼馴染だ。


「いつまでたってもレベルが上がらないお前が悪いんだぜ。これまで一緒にいてやったことに、むしろ感謝してほしいくらだ」

「今日の依頼だって、あなたの所為でどれだけ私たちが苦労したか……ちゃんとわかってるの?」


 キリスとエレナは呆れたように僕を責める。

 僕は何も言い返せず、ただ黙っているしかなかった。


「いくらレベルの上がり方には個人差があるっつっても、お前は異常過ぎる。ハッキリ言って無能だ。お前はこの世界に生まれてくるべきじゃなかったんだよ」

「あなたが近くにいると、その異常な体質がうつってしまうかもしれないわ。ほんと、迷惑って感じ」


 二人はここぞとばかりに畳み掛ける。

 物心ついた時から一緒にいて、十歳の頃からパーティーを組んでいた幼馴染に対して随分な物言いだが……反論の余地はない。

 彼らの主張はもっともで。

 僕はパーティーの邪魔者でしかないのだろう。

 けれど。

 一つだけ、言いたいことがあった。

 胸の奥につっかえているこの気持ちを、言わずにはいられなかった。


「……でも僕たち、友達だよな?」


 片田舎の小さな村で共に育った幼馴染。

 僕はみんなのことを友達だと思っているし。

 みんなも、そう思ってくれていると信じていた。

 前(・)の(・)人(・)生(・)で(・)は(・)手(・)に(・)入(・)れ(・)ら(・)れ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)、本当の友達というやつを。

 今度こそ――作れたと思っていたんだ。

 だが。

 僕の問いに対し、キリスは小さくため息をつき、


「昔はな。今は違うさ」


 短く端的に、否定した。






 こうして僕は、幼馴染三人と決別することになったのである。

 どうしてこんなことになったのか、理由は明確だった。

 嫌になる程単純で、スッキリする程明快だった。


 僕のレベルが――1だから。


 生まれてこの方、一つだってレベルが上がっていないから。

 魔物やスキルなんていうものが当たり前に存在するこの世界で生きるには、僕は無能過ぎたのだ。

 できることなら、人生をやり直したい……なんて思う資格は、僕にはない。

 現在進行形で二度目の人生を歩んでいる僕が、そんな甘えた考えをしていいはずがない。

 僕は思い出す。

 このゲームみたいな世界に転生した、あの日のことを。



◇



 十七年前。


 僕ことイチカ・シリルは、ここルッソ村で産声を上げた。

 今は亡き父と母の元に、元気一杯男の子の誕生である。

 が、産まれたてほやほやの僕が最初に感じたのは、両親の愛情ではない。


 違和感。


 あの時の感情を一言で表すのなら、その言葉が一番しっくりくるだろう。

 何かがおかしい。

 僕は一体――何をしているんだ?

 ベビーイチカくんがそう思ったのも無理はない……なぜなら僕は、いつものように最寄りの駅で出勤の電車を待っていたはずなのだから。


 高野(こうの)一夏(いちか)。

 それが、僕の名前だった。


 決して0歳児の赤ん坊なんかではない。

 二五歳の立派な成人男性である。

 社会人三年目、世間の荒波に揉まれて転覆しかけていたはずだ。


 と、そこまで思考を巡らせたところで、僕の意識は一旦途切れる。


 次に目が覚めたのは、ふわふわなゆりかごの上だった。

 奇妙な状況、説明のつかない異常。

 僕はとりあえず、夢を見ていると思うことにした。

 というか、誰だってそうするだろう。

 まさか自分が、今までとはまるっきり違う人間として異世界に転生したなんて、いきなり考えつくはずもない。


 実際、僕がその結論に辿り着いたのは、この世界に生まれて一週間が過ぎた頃だった。

 どうしてそんなとんでもない結論に至ったのか、要因はいくつかある。


 一向に夢から覚めない違和感とか。

 あまりにも現実的すぎる実感とか。


 中でも決定的だったのは、あ(・)れ(・)を思い出したこと。


 僕、高野一夏は。


 電車に飛び込んで、自殺したのである。


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