歓迎会
「日本円にすると分かりずらい」というご意見を頂きましたので、その辺りを変更しました
さて……今日は昨夜考えた金稼ぎをヨミが実践しに行ってくれているので、俺の方は〝とあるイベント〟の為の準備をする事にした。
そのイベントとは勿論、ヨミの歓迎会である。
こうして共に過ごしてくれることになったのだから、思う存分歓迎してやらねばなるまい。
何がいいか考え、最終的にバーベキューをする事に決めた。
なにせ肉も玉ねぎもピーマンも……バーベキューではお馴染みの材料は十分に揃っているからな。
そして俺は野菜倉庫の中からある物を見つけた為、自家製の焼肉のタレを作ることにしたのだった。
ある物とは〝白ゴマ〟そして〝ごま油〟である。
天照大神の気配りなのか、何故かそれらがあったので俺はさっそく焼肉のタレの作り方を全世界知識で見つけたのだった。
材料は、
・醤油
・砂糖
・酒
・ごま油
・ニンニク
・ショウガ
・白ゴマ
である。
全世界知識でとりあえず10人分の必要量に基づき、それらを混ぜていき、そして最後にレンジで加熱────そのレンジがないので魔法で温め、そして冷やして完成である。
試しに味見をしてみたら最高の出来であった。
まさに〝全世界知識〟と〝万能〟様々だな。
次はバーベキュー用の肉と野菜を切り分け、そのいくつかを鉄串へと刺してゆく。
鉄串の方は塩コショウでいいだろう。
あとはバーベキューコンロの用意だが、何故か鉄串と金網はあるのにバーベキューコンロ自体は無かった。
流石にそこまでは用意してくれなかったらしい。
まぁ無い物ねだりをしても仕方ないので作ることにした。
薪を割り、それらを焼いて木炭にする。
あとは石を積上げ竈を作り、そこに金網をセットしてバーベキューコンロの方は完成。
するとそのタイミングでヨミが帰ってきた。
「ただいま〜……って、何を作ってるの?見たことの無いものね?」
「ん〜?それは夜のお楽しみってこった」
「何それ。まぁ、そんな事よりも聞いて!実は持っていっお肉……全部買い取って貰えたの!」
「マジか!それで幾らになった?」
「聞きたい?」
ドヤ顔で勿体ぶってくるヨミ。
そんな姿も可愛いのだが、まぁここはあえて乗ってやるとしよう。
「頼む!教えてくれ!」
「ちょっ────教える!教えるから土下座はやめて!!」
流石に土下座はやり過ぎた。
土下座して懇願する俺に、ヨミは狼狽しながらそれを止めようとしていた。
「まぁ冗談はここまでにしておいて……ンで、いくらだったんだ?」
「まったくもう……心臓に悪いわよ。でもいいわ。実はあの砕牙獣の肉を持ってったら、肉屋の店主ったら凄く驚いてたの」
「そんなに珍しいものだったのか?」
「まぁ砕牙獣は魔獣の中でもかなり強いから、その肉を持ってきたってだけでも驚きだったんでしょうね」
「そうだったのか」
厳密に言えば俺はこの世界の人間では無いので、その辺りの事は無知同然。
なので今後はそれを基準に魔獣について考えておいた方がいいのかもしれない。
おっと……そんな事はさておき、今聞きたいのはいくらで売れたかだな。
「そんなに珍しいものだったなら、買取金額もかなりのものだったんだろうな」
「当然よ、なにせ金貨1000枚で売れたんだもの!」
そう言って興奮するヨミ。
相場が分からんので全世界知識で調べてみる。
全世界知識によると、この世界の通貨は下から鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、そして星金貨の6種類からなり、鉄貨10枚で銅貨1枚、その銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚となるのだが、白金貨1枚は金貨100枚とその価値が高い。
さらに星金貨は隕石から採れた金で作られている為に希少価値が最も高く、白金貨にして1000枚、金貨にして1万枚の価値があるらしい。
そして今回は金貨1000枚……つまり白金貨10枚の儲けが出たということだ。
その事を理解した俺は、そこで思考回路が緊急停止してしまった。
「タケル、どうしたの?タケル?タケル?」
「あぁ……いや……すまん……あまりの大金に思わず意識が遥か彼方へ飛んでたわ」
「無理も無いわ……私だって一度にそんな大金を貰ったことが無いもの」
「冒険者でもか?」
「依頼の相場なんて最高でも金貨10枚程度よ。その千倍なんて、ドラゴンを討伐したとしても有るか無いかくらいよ。おかげで帰りは襲われないか心配だったわ。まぁ、この子が付き添ってくれていたから良かったけれど……」
そう言ってそばにいたウォルフの頭を撫でるヨミ。
ウォルフはそれを喜んで享受していた。
本当に仲良くなったものだ……。
「しかし予想外の金額とはいえ、これで当面の金の心配は無くなったわけだ。これならその肉屋での品数が少なくなってきた頃合でまた持っていけばいいだろう」
「肉屋の店主によると、今までの倍の安値で売れそうだって」
「手の届かない食材から、お祝いごとや自分へのご褒美として買える食材となったわけだ」
「そうなってくれたら嬉しいな。でも、それもこれもタケルが思いついてくれたお陰だね♪︎」
面と向かってそう言われると照れてしまう。
ヨミはそんな俺を見て〝してやったり〟という表情をしていた。
その後、町では今までよりもかなり安くなった魔獣の肉に町の人達はとても喜んでいたのだと、後でオウルからそう聞かされた。
もし山の中で珍しい植物などもあったら、それを持っていってみるのもいいかもしれない。
何はともあれ備蓄もまだあるし、金も沢山手に入ったので当面の生活は大丈夫だな。
「それでね、帰りに美味しそうなお酒を見つけたから買ってきたの。今夜は飲まない?」
「そいつは嬉しいお誘いだけど……急にどうした?」
酒があるのはありがたい。
どうやってヨミに酒を買ってきてもらうか悩んでたんだよな。
だって今回の歓迎会は完全にヨミには内緒にしてたし。
「だって、こうして出会って、そして一緒に暮らすんだもの……お祝いくらいはしたいじゃない?」
その言葉に俺は思わず笑い声をあげてしまった。
そしてキョトンとしているヨミにネタばらしをする事にした。
「ははは……いやぁすまんすまん。考えてる事は一緒だなって思ってよ」
「どういう事?」
「いや実はさ……俺も俺でヨミの歓迎会をしようと思ってたんだよ」
「えっ!?」
驚くヨミ。
それが更に可笑しくて、俺はもう笑いが止まらなかった。
「まさか……まさかヨミも同じような事を考えてたとはさ……あはは……思いもしなかった……あはははは!」
「もう!そんなに笑わなくたっていいじゃない!!」
「いや、だって……ククク……お前に内緒で準備してたってのに……あはは……」
膨れっ面になるヨミ。
それでもなかなか笑いが収まらない俺。
こんなに笑ったのはいつくらいだろうか?
まったく……異世界に転生してからというものの、本当に色鮮やかな日々を送ってるよ、俺は。
「はは……まぁこうしてネタバレもしっちまったし、せっかくだからヨミも準備を手伝ってくれよ?どうせなら二人で準備した方が楽しいだろうしな」
「うん♪︎」
年齢の割には大人びていると思っていたヨミだが、こうして嬉しそうにしている姿は年頃の娘のようであった。
その日の夜は予定通り歓迎会を行い、バーベキューを楽しみながらヨミが買ってきてくれたお酒を酌み交わした。
ヨミの今までの冒険者生活の話を肴に酒を飲み、時折二人で様々な議論を繰り広げたりと、とても楽しい一時であった。
星空も綺麗だし、酒も肉も美味い……まさに最高のスローライフだと実に思う。
ただ一つ────ヨミがベロンベロンに酔っ払っているということを除いては……。
「あぁぁぁモフモフさいこぉぉぉぉ♡」
片っ端から動物達に抱きついてはそんな事を言い続けるヨミ。
犠牲となった動物達は苦い顔をしていたが、逃げ出さないのはせめてもの優しさなのだろう。
「おいおい……もうその辺にしとけ。な?」
「やらぁぁぁ!もっとモフモフするのぉぉぉ!!」
酔っ払い過ぎて幼児退行してるのではないかと、心の底からそう思った。
しかしなまじ冒険者だったので力は強く、引き剥がそうとしてもしっかりと抱きついていて離れそうもない。
そのうち酔い潰れてしまったのか、ヨミはアルクトスの背に抱きつきながらスヤスヤと眠ってしまった。
「よし、この辺でお開きだな?お前らも気をつけて帰れよ〜?アルクトスは申し訳ねぇけど、そのままヨミの寝室まで運んでってくれねぇか?」
『分かりやした……』
『主はどうします?』
「俺は少しだけ後片付けをしてから寝ることにするよ」
『かしこまりました』
そうしてヨミの寝室へと向かうウォルフとアルクトス。
俺はそれを見送ってから後片付けを始めた。
暫くしてある程度片付け終えた俺は、寝る前にそっとヨミの様子を見る。
丁寧に布団までかけられていたのを見るに、アルクトス達がやってくれのだろう。
それを見て少し安心した俺が静かにドアを閉めようとした時、突然ヨミが俺の名を呼んだ。
「タケル……」
「……?」
起きたのかと思って振り返ればヨミはまだ寝ていた。
しかしその口がモゴモゴと動いている……どうやら寝言のようだった。
「そう……タケル・ヤマトって言うの……とっても優しい人……シスター……私……頑張って生きてるよ……シスターの言う通り……素敵な人に出会えたよ……ねぇシスター……私……」
暫くの沈黙の後、ヨミは微笑みながら最後にこう言った。
「私……今すごく幸せ……」
身寄りの無い彼女を家に招いたのは、せめて俺くらいは心の拠り所でいようと思ったからだ。
だがその一方で俺は彼女の心の傷を癒せるのだろうかという疑問も抱いていた。
しかし実際は……どうやら俺は彼女の心の拠り所となれていたらしい。
不思議なもので、彼女とはまだ出会って三日ほどなのだが、それでも大切にしたいと思えるようになっていた。
あぁなるほど……これが〝惚れた〟ってやつか。
さて……明日は何をしよう?
いったいどんな事をしてみようか?
まぁ何でもいいか……だって、彼女が喜んでくれるなら、彼女が楽しんでくれるなら、俺はそれだけでいいのだから……。