いざ洞窟へ
ヴィヴィアンから魔物氾濫が起こるという話を聞いたその翌日────
俺はあの後レイヴンに指示を出し北西の森〝アルティム大森林〟を調査させた。
そしてレイヴンはカラス達に調査を指示……今はその報告を待っているという状況である。
「御館様……カラス達から報告が御座いますれば」
「どうだった?」
俺がそう問いかけると、レイヴンは返事をしてから報告の内容を話し始める。
「どうやら森の奥にある洞窟にて不穏な空気ありとの事……魔力こそ感知出来ぬものの、何かしらある可能性は高いとの事らしく、森に住む動物達も非常に騒いでいる状況に御座る」
「なるほど……どうやらそこで魔物氾濫が起こる可能性は高そうだな」
「いかがなさいます?」
「ん〜……レイヴン、お前はオリンフィアにこの事を伝えろ。あと付近の村や街に兵を派遣して貰うよう頼んでおいてくれ」
「御意。ちなみに御館様は?」
「俺はヨミやオウル達とその洞窟に行ってみることにする。レイヴンも報告したら合流してくれ」
「セインとイヴはどうしましょうか?」
「あまり危険な場所に連れていきたくはねぇが……本人達の意思による」
「左様に御座いますか」
「それじゃあ頼む」
「御意に……」
レイヴンはそう返事をすると直ぐにその場から飛び立つ。
俺はそれを見送ってからヨミ達に話をする事にした。
話をしてみるとヨミ達は直ぐに快諾してくれたが、セインとイヴも同行したいと言い出したので話し合いに話し合いを重ねて二人をどうするか考えることに。
その結果二人はアルクトスのそばを決して離れないという条件で連れていくことになった。
そして俺達はアルティム大森林へと出発────
休憩を挟みながらも険しい道のりを越え、例の洞窟があるアルティム大森林の目の前にある村へと到着した。
そしてそこで驚く光景を目の当たりにする。
「到着したか」
「なっ……!」
そこにいたのは兵を引き連れたエドワーズに、アレクセイ達近衛騎士団を連れたオリンフィアだった。
彼らは当然のように武装しており、いつでも行けるという雰囲気を放っている。
「おいおい……まさかついてくるつもりじゃあねぇだろうな?」
「私と数人の兵は同行するつもりだが、陛下と近衛騎士団、そして残りの兵はこの村に残っていて貰うつもりだ」
「村の人達を不安にさせない為に色々とやらなきゃならない事があるのよねぇ。それにもし魔物氾濫が起こった時、ここを守る人がいなければならないしぃ、彼らを指揮する人もいなくちゃ駄目よねぇ」
「それがオリンフィアって事か?」
「そうよぉ♪︎」
まぁ確かにそういう役目を担う奴がいるのは心強いな。
俺は村に残るオリンフィア達に後を任せ、エドワーズ達をも連れて洞窟を目指すことにしたのだった。
とは言っても直ぐに到着出来る距離ではないため、所々で休憩を挟むことに……。
その休憩中、俺は木の根元で武器の状態を確かめていた。
するとそこへヨミとエドワーズの親子が俺に話しかけてくる。
「状態は万全か?」
「言わずもがな、いつでも戦える状態だよ」
「それは心強い」
俺の状態を確かめたエドワーズが満足そうに頷く。
「ところで勇者様や聖女様はもちろんだが、君の使い魔達は非常にコミニュケーションが良いな。直ぐに私の兵達と打ち解けたよ」
「元より人に対して恐怖感とか無かった奴らだからな。それに使い魔になった事でああやって会話出来るようになったんだから、人と話すのが楽しいんだろ」
そう言いながらオウル達に目を向けると、彼女達は兵士達と談笑をしていた。
とても今から危険な場所に行くとは思えないほどの穏やかな雰囲気……その事にエドワーズがふとこんな事を呟く。
「魔物氾濫が起きるとは思えぬ程の穏やかさだな……」
「その中に小鳥のさえずりも、動物たちの気配も無いのは如何なものかと思うがな」
俺の返しにエドワーズが途端に表情を張り詰めさせる。
「嵐の前の静けさってのはこんなもんだ。くれぐれも気を抜くなよ?まぁ気を張りつめすぎるのも疲れっちまうから程々にな」
「流石……強力な魔獣を相手しただけの事はあるな」
都牟刈を鞘へと納め俺は立ち上がった。
「そろそろ行こう……いつ魔物氾濫が起こるか分からねぇからな」
「そうだな……」
そうして俺達は再び洞窟へと歩き出した……この先には鬼が出るか蛇が出るか分からないが、俺は最悪のケースも想定して気を引き締め直すのだった。




