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異世界転生の天人族《ハイランダー》〜異世界の山奥で悠々自適なスローライフ〜  作者: SIGMA・The・REVENANT
第一章・第七話:女王来訪
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一悶着

「「…………」」



 オリンフィアがエドワーズ夫妻に連れられ訪問してきたその翌朝。


 夫妻と共に帰っていったはずのオリンフィアが鎧をまとった姿で、これまた数人の鎧姿の男達を連れたエドワーズと共にやって来た。


 それを見た俺とヨミは共に唖然とする。



「昨日の今日ですまない……どうしても陛下がヴィヴィアン様に会いたいと言って聞かなくてな……」



 疲れきった表情のエドワーズ……どうやら城ではその事で一悶着あったのだろう。


 しかしこうして連れてきたという事は、どうやら彼は押し切られてしまったようだ。



「いや、まぁ……苦労してるんだな……」


「なに……いつもの事だ……」



 いつもそれなら本当に苦労人だなエドワーズは。


 しかし武装してまで来たのだからこのまま帰すのは可哀想だ……もちろんエドワーズ達の事だが。


 なので俺は仕方なしにヨミ共に準備をする事にした。


 しかしここでまた一悶着が起こる。


 それは、いざ出発しようとした際にエドワーズと共に来た一人の男がこんな事を言い出したことによる。



「貴様!なにを当然のように我々を指揮しようとしているのだ!しかも子供を連れていくなんて馬鹿にしているのか?」



 その男は他の奴らに比べ少し凝った装飾がされた鎧を身につけていた。


 いや、指揮も何もヴィヴィアンがいる湖の場所を知ってるのは俺かヨミしかいない。


 そしてセインとイヴはそのヴィヴィアンにも認められた勇者と聖女だ……彼らが会いたいと願えば連れていくのは普通のことだと思うが?



「じゃああんたは湖の場所を知ってるんだな?それならあんたに案内を任そうか?」


「女王近衛騎士団長であるこの私、アレクセイ・フォン・アルデライトに向かってなんて物言いだ!無礼な貴様はここで己の立場というものを分からせなければならないな!」



 常時偉そうなアレクセイの主張に俺がエドワーズに顔を向けると、彼は無言で首を横へと振った。


 次にオリンフィアに顔を向けると、彼女はニッコリと笑うだけだった。


 しかしその笑顔に〝存分にやってしまいなさい〟という意思が滲み出ている。


 若干青筋がたっていたのは見なかった事にしておこう。


 俺はため息をつくとその場で都牟刈を抜いた。


 まぁ実力を示せばこいつも納得してくれるだろうしな。



「いいぜ、来なよ?こっちは手加減くらいはしてやるから」


「貴方ねぇ……」



 ヨミが呆れ顔で額に手を当てているが、こういう輩は一度懲らしめてやらないと分かってくれないのである。


 それに俺の言葉を挑発と受け取ったのか、アレクセイも憤慨しながら腰に差していた剣を勢いよく抜きはなったことだしな。



「殺す!」



 分かりやすい程の殺気だなぁ。


 そんなに殺る気満々なら、お前が俺に勝てることなんてないのにな。



「死ねぇ!」



 うわぁ……馬鹿みたいな大振り……。


 こんなんじゃ〝避けてください〟と言ってるようなもんだと気づかないのかね?


 こんなのが近衛騎士団の長とか程度が知れるな。


 まぁ、相手もこんな調子だし、ここは是非俺の〝技〟の練習相手になってもらおうかな?



「大和一刀流、〝斬流(きなが)し〟」


「はぇ?」



 上段からの大振りを軽くいなされたアレクセイはそのまま体勢を崩し、無様に地面にヘッドスライディングする。


 ここで奴の首筋に刀を当てて勝負を終わらせる事も出来るが、せっかくの機会だからもう少し付き合ってもらうことにしよう。



「ほれ、どうした?そんなところで寝っ転がってねぇでさっさと起きたらどうだ?」


「くそっ!」



 アレクセイは恥ずかしさに顔を赤くしながらも猛然と挑んできた。


 しかしどれもが大振りで技も何もあったもんじゃない。


 例えるならば格ゲーが得意な奴が、自分よりも格下と思っていた相手にいいようにされて、ムキになった挙句にガチャプレイしているような感じだな。


 俺はアレクセイのそんな単調な攻撃を全てかわし、いなし、受け流しながら自らも攻撃を放った。



「大和一刀流、〝撃鉄(うちがね)〟」


「うぐぉっ……!」



 刀の石突による突きはアレクセイのみぞおちに刺さり、それを受けて奴はその場に崩れ落ちる。



「大和一刀流、〝流転(るてん)斬り〟」



 しかし次に放った縦回転を利用した斬撃は辛うじて避け、そのまま後方へと飛び退いた。



「なんだ……まだ動けたか」


「舐めるなぁ!」



 激昂したアレクセイはその場で剣を構えると、何やらぶつぶつと唱え始める。


 おいおい……いくらムキになったとはいえ、魔法の使用は反則じゃあねぇのか?


 見ればエドワーズもオリンフィアもアレクセイを止めようと動き始めている。


 俺はそんな二人を手で制すると、都牟刈を低く構え、そして自分も低姿勢の構えをとって奴の魔法を迎え撃つ事にした。



「そろそろここらで終いにしようか?」


「ほざくな!それはこちらの台詞だ!炎撃魔法、〝火燕(フレアスワロウ)〟!」



 そう唱えた奴の手から飛び出してきたのはツバメを象った炎……それは俺に向かって真っ直ぐに飛んで来ており、これを喰らえばたちまち炎に焼かれるだろう。


 まぁ、焼かれねぇけどな。



「大和一刀流、〝飛燕斬(ひえんざん)〟」



 低姿勢のまま都牟刈を振り上げると、炎のツバメは真っ二つとなってその場で霧散した。



「なっ……はっ……?」



 混乱しているアレクセイに向かって地面を蹴り、低姿勢での縮地で一気に奴との距離を詰める。



「縮地……〝飛燕曇天(ひえんどんてん)〟」


「ぐっ……くぉおぉぉぉ!」



 曇天に飛ぶツバメのように低空での縮地……いきなり目の前まで迫ってきた俺にアレクセイは剣を振り下ろそうとするが、俺は都牟刈を持ち替えて峰打ちで奴の剣を握る手を払い飛ばした。



「あっ……!」



 勢いよく回転しながら吹き飛ばされてるくアレクセイの剣は宙に弧を描き、そして遥か後方へと突き刺さった。


 そして俺が振り上げた都牟刈を更に持ち替えてアレクセイの首筋に寸止めした事でこの勝負は完全に決着したのだった。



「そこまで!」



 オリンフィアの声がその場に響き渡る。


 そして彼女はおもむろにアレクセイの前へと立つと、冷めた目でその場に片膝をついている彼を見下ろしながら、低い声音でこう言った。



「今ので貴方と彼の差が分かったでしょう?確かに貴方は王国の騎士達の中でもトップを争うほどの騎士です。しかし貴方は近衛騎士団長になった途端に驕り始めてしまいましたね?」


「……」



 オリンフィアの話を静かに聞くアレクセイ……奴が冷静であればまた結果は違ったのだろうに。



「〝上には上がいる〟……まだ一人の騎士であった頃、貴方はよくそう言っていました。しかし今はどうでしょう?貴方はそれを忘れ、あたかも自分自身が最強だと思い込んでしまった」


「仰る通りにございます……」


「最初、将軍から貴方を同行させると聞いた時は私は最初反対しました。何故だか分かりますか?」


「それは……」



 オリンフィアの質問に口ごもるアレクセイ。


 そんなアレクセイにオリンフィアは深いため息をつきながらその理由を述べた。



「必ずこうなると予測出来ていたからです。正直に言って今の勝負は必要としていませんでした。しかし将軍は貴方の目を覚まさせるために必要な事だと言っていたのですよ?なので同行を許したという事です」


「しかし陛下……近衛騎士としての威厳を保つ為には、このような何処の馬の骨かも分からぬ輩に舐められる訳には────」


「まだ言いますか!!」



 オリンフィアの怒声。


 初めて見る彼女の怒気に思わず俺でさえも萎縮してしまう。


 故に怒りの矛先を向けられているアレクセイはその場でガタガタと震えだしていた。



「まさか貴方は私の話を聞いていなかったのですか?私は言いましたよね……彼はかの天人族だと。天人族が我々人族よりもどれだけ優れているか知らなかったのですか!」


「し、しかし……」


「アルデライト近衛騎士団長……貴方はまだ私の指示に反するおつもりですか?」


「めめめめ、滅相もございません!このアレクセイ・フォン・アルデライト……これより陛下のご意志を尊重し、この方の言うことに従うことに致します!」


「…………そう?それじゃあよろしくねぇ♪︎」



 アレクセイの言葉を聞いたオリンフィアは途端にいつもの口調に戻り、そしてニコニコしながら彼の肩を叩いた。


 まぁそのアレクセイ本人は肩を震わせてたが……。


 オリンフィアはアレクセイに背を向けて歩き出すも、途中で俺にそっと謝罪の言葉を耳打ちしてきた。



「ごめんなさい……私が至らないせいで貴方には不快な思いをさせてしまいました」


「気にするな。たいして気にしてねぇからよ」


「本当に貴方は優しい方ですね」



 それだけの会話だったが、オリンフィアは困り顔をしながら微笑んでいた。


 まぁこれで文句を言ってくる奴も不満を持つ奴もいなくなるので、結果オーライと言えば結果オーライだな。


 一悶着を終えた俺はそう思う事にし、オリンフィア達を連れてヴィヴィアンのいる湖へと向かうことにしたのだった。


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