閃光女王
午後になってもオリンフィアは今も俺の家にいる。
エドワーズとレイラはヨミとの再会により家族水入らずで会話を楽しんでいるので、俺がセインとイヴの稽古をしてやっているのだが、興味があるのかオリンフィアも近くでその様子を観察していた。
「技とか型とかは教えないのねぇ?」
「ん?あぁ……俺自身、技ってもんに興味が無いんだよ。実戦において必要なのは立ち回りや動きだと思ってるからな」
「そうなのぉ?」
「そうだろうよ。いくら技が豊富だからといって動きが悪けりゃ意味ねぇからな」
「ふぅん……だから貴方の動きは洗練されてるのねぇ」
「まぁな」
セインの猛攻をいなしながらオリンフィアとそんな会話をする。
とは言っても二人への指導を疎かにしている訳では無い。
必要な時には必ずアドバイスをしているのである。
「ほれ、足が疎かになってるぞ」
「うっ……!」
どうにもセインは途中で腕の力に頼ってしまう傾向にある。
いくら腕力があろうとも、それを支えるための土台である足腰が駄目ならば、それは剣に振り回されているということ以外に他ならない。
「足を止めるな、常に動かせ。足が止まった瞬間、絶好の餌食だぞ」
「はいっ!」
「イヴも途中で迷うな。〝こうだ〟と思ったのなら直ぐに実行しろ。それで失敗したのなら、それはちゃんと次への糧となる」
「はいっ!」
「やっぱり……教える人によって人の成長速度というのは大きく変わるものよねぇ」
俺とセイン、イヴの稽古を見て意味深なことを言い始めるオリンフィアは、しみじみとした表情で手をヒラヒラさせていた。
「どういうことだ?」
俺がそう問いかけると、彼女はウンザリとした表情となってこんな話を始めた。
「実はねぇ……この子達の教育係はこちらで用意していたのよねぇ。でもいつまでたっても成長している様子がなくて……別の人を用意しようかと話し合っていた矢先に二人がどこかへ行っちゃつたのよぉ。まぁここに来てくれていた事で、それが良い結果をもたらしたのかもしれないわねぇ」
「二人はヴィヴィアンとアルテラ神に導かれたと言っていたが?」
「あら、そうなのぉ?タケルは随分とあのお二方に信頼されているのねぇ。それにしても湖の最高位精霊であるヴィヴィアン様を知ってるなんて驚きねぇ」
「偶然、この山の奥地で出会ったからな」
「あらあら、まぁまぁ!それは是非とも案内してもらいたいわぁ!」
目を輝かせてそんなお願いをしてくるオリンフィアに嘆息しながらそれは無理であることを告げる。
「駄目だ」
「いいじゃないのぉ」
「この山には魔獣がうろついてやがるからな。ヨミやオウル達ならともかく、あんたを連れていっても守りきれる自信はねぇよ────っと……今のは良かったぞセイン」
冒険者だったヨミでさえも致命傷を受けるほどの魔獣……そんな奴相手にオリンフィアが立ち回れる可能性は皆無に等しいし、エドワーズ達も連れていったとしても無傷でいられるかどうか分からない。
しかしそんな心配など他所にオリンフィアはニッコリと笑ってこう言った。
「あらぁ、心配は無用よぉ?なにせ────」
その瞬間オリンフィアが目の前から消え、俺は即座に自分の背後の地面に都牟刈を突き刺した。
その直後に響き渡る刃がぶつかる音────
見れば背後にはオリンフィアが長剣を手に俺に斬りかかっていた。
「あらぁ?初見でこれを防ぐなんて流石ねぇ。〝閃光女王〟の名が泣くわぁ」
驚いたことにオリンフィアはその容姿からは想像出来ないほどの実力の持ち主らしい。
咄嗟だったから良かったものの、反応できていなければ今頃俺の身体は真っ二つだっただろうな。
「〝閃光加速〟が使えるのはそうそういないからぁ、初見で対応出来る人なんて非常に珍しいのよぉ」
〝閃光加速〟はそれを知らない俺から見れば縮地のようなものだ。
それに対応出来たのは〝神天眼〟と長年の鍛錬の成果だな。
やれやれ、自分の実力を示すためとはいえ、いきなり斬りかかってこられるとたまったものではないな。
まぁここは一つお返しといこうじゃないか?
俺はニヤリと笑うとオリンフィアの目の前から瞬時に消え、そして彼女の背後からその頭に軽く手刀を落とした。
「流石だが、まだまだだな」
「────っ!」
俺が消えたのと自身の頭に手刀を落とされたのがほぼ同時だったからかオリンフィアは驚いた顔でこちらに振り返ってくる。
まぁオリンフィアももう少し修行を積めばこれくらいはできるようになるだろうけどな。
「今の……貴方もまさか〝閃光加速〟を使えるのですか?」
「これは〝縮地〟という歩法の一つだ。それと口調が戻ってるぞ?」
今のでこっちがオリンフィアの素だと分かった。
それと彼女の〝閃光加速〟は発動してから僅かなラグがある。
それさえ改善出来れば彼女のソレはもっと強力なものになるだろう。
そう教えてやったらオリンフィアは暫く何かを考え込み、そして名案とばかりに手を叩いてこう言った。
「それならぁ、私も貴方の稽古に混ざることにするわぁ!そうよ、それがいいわぁ!」
「はい?」
こうして何故かオリンフィアも稽古に混ざることになったのだった。




