女王の能力
「それでは改めて、私はこの国の王にして歴代初の女王であるオリンフィア・アーネスト・ルイ・ルノワールよぉ、よろしくねぇ♪︎」
「改めてタケル・ヤマトです」
お茶を出し、一息ついたところで改めて挨拶をし合う俺とオリンフィア陛下。
彼女は俺の名前を聞くと、何やら理解した表情で俺を見据える。
「名前の感じからして極東の国である〝東和皇国〟の出かしらぁ?」
ふむ……どうやらこの世界での日本は〝東和皇国〟という名前らしいな。
とは言っても流石に転生者などとは言えないので、俺は無言で答えをはぐらかした。
「その東和皇国の貴方がいったいどうしてこんな所にいるのかしらぁ?」
「色々あるんですよ……」
「隠さなくてもいいわよぉ。と言うか私の前で隠し事なんて出来ないんだからぁ」
「それはどういう意味────」
「あっ────!!」
何かに気づき慌ててオリンフィア陛下の視界を遮ろうとするヨミであったが、時すでに遅くオリンフィア陛下は急に目を大きく見開いて俺を凝視していた。
そしておもむろに立ち上がったかと思うと突然、俺の前で片膝をつきその頭を下げたのだった。
「まさか、かの崇高なる天人族であらせられたとは……今までの御無礼、どうかご容赦下さい」
「は────?」
俺はもちろん、エドワーズや彼の妻にしてヨミの義母だというレイラ・スプリングス、そしてセインとイヴもオリンフィア陛下の態度の変貌ぶりに目を丸くしていた。
ただ一人、ヨミだけは〝あちゃ〜〟という表情で額に手を当てている。
どういうことか訊ねてみると、彼女は苦い顔をしながらある事を教えてくれた。
「先に言っておくべきだったわね。タケル……女王陛下はこの世にたった数人しかいないと言われている〝鑑定〟のスキルの持ち主なの。つまり今しがた陛下は貴方のことを〝鑑定〟したのよ」
「つまり?」
「つまり貴方が天人族という事がバレたという事よ」
俺はその場で頭を抱えた。
なんてことだ……あれだけひた隠しにしようとしていた秘密をまさか今になってバレてしまうとは────
ともかくエドワーズ達も驚いているから、オリンフィア陛下をどうにかしなければならない。
「頭を上げてください陛下!」
「いいえ、そういう訳には参りません。天人族はかつてこの世全ての種族の頂点に君臨していた種族……神に最も近い種族なのです。ですから私がこのように頭を垂れるのは当然の事なのです。将軍、それにレイラも頭を下げなさい」
オリンフィア陛下に言われ同じように頭を下げようとするエドワーズとレイラ……俺はそんな彼らを慌てて制止する。
「本当にやめてくれないか?俺は天人族という事を隠して暮らしてるんだ……だからあんたらもいつも通りにしてくれると助かる」
「左様でございますか。それでは……いつものように接するわねぇ」
やれやれ……いったいどちらが素なのやら。
俺はこのオリンフィアという人物の事がよく分からなくなってきた。
「でも私の事は〝オリンフィア〟と呼んで頂けると助かるわぁ。流石にかの天人族に〝陛下〟と呼ばれるのは、逆に心が痛むものぉ。それと敬語も不要よぉ?でないと……今からずっとこのように接する事に致しますから」
「分かった分かった。あんたの言う通りにするからその口調をやめてくれ」
「了解よぉ♪︎」
やれやれ……女王を呼び捨て及びタメ口とは悩みの種が一つ増えてしまった。
とりあえずは俺が天人族である事を口外しないよう釘を指しておくか。
「オリンフィア様……「様付けもやめて頂きたいですね」……はぁ……オリンフィア、俺が天人族という事は口外しないでくれると助かる」
「あら、どうしてぇ?貴方が天人族であると言うことを認知させれば、世界各国の王達が貴方の平服するのよぉ?」
「あのなぁ……俺はここで悠々自適にのんびり暮らしたいんだよ。だからそういった面倒事は極力避けてぇんだ」
「そうなのぉ?それならぁ……貴方の言う通りにするけどぉ……」
オリンフィアは納得がいかないという様子だったが、渋々俺の要望を受け入れてくれた。
と言うか前世で一社会人であった俺が、世界各国の王の上に立つとかプレッシャーがヤバすぎて吐き気がするわ!
「ちなみにもし口外したら……」
「口外したらぁ?」
「俺はこの国を出てゆく」
その言葉に目を見開くオリンフィア。
そして数秒の後に観念したのか大きくため息をついて再度口外しない事を約束してくれた。
「分かったわぁ……必ず口外しないと、約束するわねぇ」
そう言って手にしたお茶を一口啜り〝本当に美味しいわぁ〟と感想を漏らすオリンフィア。
彼女の表情がどことなく悲しそうなように見えたのは俺の気のせいだろうか?




