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異世界転生の天人族《ハイランダー》〜異世界の山奥で悠々自適なスローライフ〜  作者: SIGMA・The・REVENANT
第一章・第六話:皇獅獣討伐へ、そして予想外の客
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エドワーズ・スプリングス

 エドワーズ・スプリングス……そう名乗った男は部下達に指示を出し、あれよあれよという間に皇獅獣を綺麗に解体していった。


 それを見届けてから再び彼は俺の元へと来る。


 そして俺の膝で眠るヨミを見て目を見開きながらこう言った。



「何故ヨミがここに?!」


「知り合いか?」



 少しぶっきらぼうになってしまったのは、俺がまだこの男を信用していないからに他ならない。


 どうやらヨミと何かしらの縁があるようだが、それでもいきなり現れたコイツに簡単に心を許すことは危険である。


 まぁ王国軍の兵士なのだからヨミを不当に解雇したギルド連中とは無関係なのだろうが、警戒しておくに越した事はないだろう。


 しかし、そんな俺の失礼な態度にもエドワーズは気にする様子もなく……逆にその態度をとられて当然だとばかりに低姿勢で俺に話しかけてきた。



「確かに警戒する気持ちも分かる……〝信じて欲しい〟という言葉だけでは、我々が君の信用に値するという証拠にはならないからな。それでも、私はヨミの味方であるという事だけは信じて貰えないか?」


「それは……」



 〝直ぐには無理だ〟と答えようとしが、どうやらエドワーズはその返事すらも予測していたようで、ふっと笑っては、まるで愛おしい者を見るような目でヨミへと視線を落とす。


 まぁヨミに対して危害を加えるような男ではなさそうという事だけは分かった。



「さて……色々と聞きたいことがあるようだが、先ずは安心して話が出来る所へ移動しよう」


「あぁ、それならここから少し進んだところに俺の家があるから、そこで話をしようか」


「家……だと……?」



 見るも明らかに驚きの形相をしているエドワーズ……ヨミもそうだったが、王都の奴らは俺がここに住んでいる事を知らないらしい。


 いや、〝知りえない〟のか……なにせ俺が住んでいるこの山は滅多に人が立ち入らぬ危険な土地らしいからな。


 俺は静かにヨミを抱き上げると、彼女は身動ぎしながら、寝ぼけ眼でこう言った。



「う〜ん……どうしたの……?」


「家に戻るだけだ。だからまだ寝てろ」


「そうする……」



 寝ぼけているからか俺にお姫様抱っこをされていることに気が付かないヨミ。


 そんな彼女を見てエドワーズは更に驚きを隠せないでいた。



「まさか……この子がこんなにも他人に心を許しているとは……」



 意味深な事を言っているが、詳しい話はこの後聞けるだろう。


 俺達は部隊を率いるエドワーズと共に家へと戻ったのだった。






 ────────────────────────






 家に戻りヨミをベッドに寝せたあとに優しくその頭を撫でると、彼女は幸せそうな笑みを浮かべた。


 それを見て微笑む俺は静かに部屋のドアを閉め、エドワーズが待つリビングへと降りる。


 既にオウルがお茶とお茶菓子を出してもてなしており、エドワーズは出されたそれらに舌づつみを打っていた。


 しかし俺がリビングに入ってきたのに気がつくと、直ぐに姿勢を正して頭を下げ、感謝の言葉を述べ始めた。



「この度は我々の代わりに皇獅獣を討伐して頂き、本当に感謝する」


「いいって。セインとイヴの魔獣討伐訓練の際に偶然出くわしたから倒したってだけだからさ」


「勇者様と聖女様への御指南についても感謝せねばなりませんな」


「ほぅ……二人がそういう存在だって事を知ってたのか?」


「選定の儀に参列していたのでな」



 確かに……王国の兵士ならばそういった儀式や行事に参加するのは当たり前か。


 ならエドワーズが二人を知っていたとしても何もおかしい事では無いな。


 と言うかそれよりも先ずはヨミとの関係性について聞かなけりゃならなかったな。


 俺はエドワーズの向かい側に座ると、オウルに差し出されたお茶を一口啜ってから本題へと入る。



「そういやヨミの事についてなんだが……」


「そうでしたな。ふむ……いったいどこから話せば良いのやら……」



 エドワーズは暫く悩んだ後、こんな事を聞いてきた。



「あの子が孤児院の出だというのは知っているかな?」


「まぁ、本人から直接聞いたからな」


「なるほど……あの子はそれ程までに君を信用しているようだ。うむ、あの子は元々孤児院に住んでいた。しかしある日、あの子はその孤児院から抜け出してしまったのだよ」


「抜け出した?いったい何で……」



 そう聞いた途端、エドワーズは表情を落とし、その時の事を思い返すかのようにこう言った。



「すまない、詳しい事情は私の口からは言えないのだよ。それはあの子が最も気にしている事でね……私達夫婦もあの子が自らその事を明かすまでは話さないと誓っておるのだよ。一つ言えることといえば、あの子はその事情により施設を抜け出したということだ」



 ヨミは俺達も知らない事情があるようだが、まぁ俺は彼女が自ら明かすまでは自分から聞こうと思わない。


 どんな事情があるにせよ、ヨミはヨミという事には変わりないしな。



「分かった。その事情とやらは追求するつもりは無い」


「助かる。まぁとにかく孤児院を抜け出したあの子は途中で行き倒れてしまっていてね。そこを偶然通りかかった私が保護したのだよ」


「それで?」


「実は当時、私と妻の間には子供が出来ていたのだが、不幸な事に妻は重い病に犯され、その病は治ったものの、お腹にいた子供はそのまま……」



 エドワーズの悲痛そうな表情から察するに彼ら夫妻の実の子は流産してしまったのだろう。



「その悲しみに暮れていたところにあの子と出会った。私は何か運命のようなものを感じてね……それであの子を娘として引き取ったのだよ」


「そうだったのか……ん?ならなんで苗字が違うんだ?」


「ミョウジ?ミョウジとは?」



 しまった……つい前世の調子で〝苗字〟なんて言葉を使ってしまった。


 いや、その言葉はあるにはあるのかもしれないが、え〜と……確か海外では別の言葉があったよな?


 確か……そうそう、確かコレだったかもしれん。



「ファミリーネームの事だ」


「あぁ、そういうことか!確かに我が家のファミリーネームはスプリングス……対してあの子はアステールだものな。それについてはちゃんと理由がある。あの子のファミリーネームは当時の孤児院に勤めていたシスターから貰ったものらしい」



 そういやそんな話をヨミから聞いていたな。



「ヨミはどうしてもそのシスターにつけてもらった名前を捨てたくなかったらしくてね……妻と相談した上であの子の意思を尊重したんだ」


「だからファミリーネームが違うのか」


「そうだね。しかしあの子は私達の可愛い娘である事には変わりはない。しかし不思議なのは王都の冒険者ギルドにいるはずのあの子がどうしてこんな所にいるのかなのだが……」


「あぁ、それについてはちゃんと説明するよ」



 俺はエドワーズにヨミと出会ってから今に至るまでの事を包み隠さず話した。


 もちろん俺が転生者でしかも天人族である事は明かさなかったが、エドワーズは静かに俺の話を聞いていた。


 しかしヨミがギルドを追放されたと知るや否や、眉を吊り上げて烈火の如く怒り始めた。



「仲間を死なせた責任として解雇など聞いた事が無い!」



 ドンッと激しくテーブルを叩くエドワーズ。


 彼の反応から察するに、やはりギルドの対応はありえない事らしい。



「私は冒険者という仕事について理解はしているつもりだ。我々兵士や騎士達と比べ、常に死と隣り合わせの仕事だ。それは彼ら自身もよく分かっている事だろう。故に死なせた責任などたった一人に負わせる必要は無いのだ」


「しかし現にヨミは解雇されているが?」


「それについては城に戻り次第、国王陛下に報告するとしよう。その上で相談し、ギルドの責任者達からも話を聞かねばなるまいな」


「頼むぜ?理由をはっきりさせて貰わにゃ、ヨミが不憫でならねぇ」


「血は繋がってないが父としてそこは厳正に対処させて頂く」



 ヨミの解雇についての真相についてはエドワーズに任せることにしよう。


 俺が出てもいいが騒ぎになることは目に見えている……なれば〝餅は餅屋〟という事で彼らに任せておいた方が穏便に済むのである。


 そんなわけでエドワーズと握手を交わしたところで背後から〝ガチャン!〟という、何かが落ちて割れたような音が耳に入ってきた。


 振り返るとそこには落ちて割れたカップやポットを前にして、両手で口元を覆って目を見開いているヨミの姿があった。


 彼女は数秒驚いた顔をしていたが、次第にその目から涙が滲み始め、そして震える声でこう呟いていた。



「お……お義父さん……」


「ヨミ……」



 義父(ちち)と娘の感動の再会であった。


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