作戦会議
「さてと……腹ごしらえがてら作戦会議といこうか?」
ヨミと協力して作った食事をテーブルへと並べながら、俺は皇獅獣討伐の為の作戦会議を開いた。
「先ずはどうやって奴を倒す?」
「真正面から向かってもまた返り討ちになりそうね」
「奇襲をかけるのはどうですか?」
「セイン……お前、意外と策士家みてぇな事を言うな?」
「えっ?だ、駄目でしたか?」
「いや?別に構わねぇよ。ただちょっと意外だったなと思っただけだ」
料理を口に運びながら意見を言い合う俺達。
セインが出した案が有効かと思ったが、オウルがそれを否定した。
「駄目ですね。奴はかなり鼻が利きますし耳も良いです。奇襲をかけようと待機しても直ぐに見つかってしまいますよ」
「振り出しに戻ったな」
「それでしたら……」
話が振り出しに戻った事に頭を悩ませている中、おずおずと手を挙げて声を発したイヴに俺達が注目する。
「耳と鼻をどうにかすれば良いんですよね?」
「えぇ、それならば希望は見えてきますが……」
「それでしたら大きな音を出したり、強い匂いで私達の匂いを消せば良いのではないでしょうか?」
「なるほど!それならば奇襲も容易と思われるな」
「しかし音と匂いはどう致しましょう?」
「鍋などで鳴らせば良かろう?」
「そうするとその分人手が取られて戦える人が少なくなってしまうわ」
再び頭を悩ませる俺達……その時、俺はふとある事を思い出し、それをオウルに訊ねてみた。
「オウル。お前、俺がまだフクロウだったお前と山に散策しに行った時のことを覚えてるか?」
「それはいつ頃でしょうか?」
「ヨミと出会う前。お前の案内で砕牙獣を討伐しに行った時の事だよ」
「あぁ、あの時ですか。もちろん覚えておりますが……それがどうかしましたか?」
疑問符を浮かべ、首を傾げながら俺を見るオウル。
俺は彼女に向けて更にこう続けた。
「その時に色々と珍しい物を見つけてはお前に聞いて、そして拾ってきてたろ?」
「あぁ、確かにそんな事がありましたねぇ」
「その中に一つだけクッソヤバいもんがあったの覚えてるか?青と緑が入り交じった、所々黒い斑点があるあのキノコの事」
「あぁクサリダケですか。あれはここ一帯に住む動物達の間では耐えられない匂いとして有名でしたよ……────っ、ま、まさか……」
「そのまさかだよ」
一気に顔が引きつるオウルに俺はニヤリと口角を吊り上げる。
俺が何を言おうとしているのか察したオウルは青ざめた表情で首を横へと振る。
「ねぇ……その〝クサリダケ〟って何なの?私は名前すら聞いた事が無いのだけれど」
「僕もです」
「私も……」
何も知らないヨミ達三人を他所にオウル達使い魔四人は冷や汗を流し始めていた。
そしてヨミはどうしてもクサリダケの事が知りたかったらしく、丁度目が合ったレイヴンに問いかけていた。
「レイヴン、クサリダケって何なのかしら?」
「と……とても臭いキノコに御座いますれば。その匂いで気を失う者もおるくらいでして、特に胞子がとても臭いので御座るよ」
レイヴンはその事を想像しただけでも気分が悪くなったようだ。
俺は一旦奥へと向かうと、倉庫に置いてあった小瓶を手に取り戻る。
「それ……」
ヨミが顔を引き攣らせながら小瓶を指差す。
そう……一見、何の変哲もない粉のように見えるが、これはそのクサリダケを粉末状にしたものだ。
〝防臭〟と〝密閉〟の魔法を施していなかったら部屋の中がやばい事になっていただろう。
「これはクサリダケを粉末状にしたやつだ。今は小瓶に〝密封〟の魔法をかけているから匂いは漏れないが、蓋を開けたら……」
言い切らずとも全員がその続きを察し、ゴクリと唾を飲み込む。
「ど、どれ程臭いのかしら……」
ヨミが若干興味ありげにそんな事を呟いたので、俺は外へと連れ出し匂いを嗅がせてやった。
ヨミはそのまま勢いよく茂みの中へと走り去っていった。
「ヨミさんは?」
「聞いてやるな……乙女の尊厳を損ねる」
「あぁ……」
俺も一瞬吐き気を催したが、〝状態異常無効〟のスキルにより直ぐに回復したのだが、ヨミは虹を作りに行ってしまった。
「さて……こいつを使って爆弾を作ってみようと思う」
「爆弾に御座るか?」
俺がイメージしているのは前世にあった〝音響閃光弾〟である。
文字通り轟音と閃光で相手の動きを封じるものだが、今回作るのは名付けるなら〝音響激臭弾〟といった所だろう。
一度爆発すれば辺りに轟音と激臭をもたらす……前世であったならば確実に凶悪と称される武器だろう。
「まぁ爆弾については俺が作るとして、今は奴の耳と鼻を封じたあとの事を考えるか」
その後、ふらつきながら戻ってきたヨミも含めて意見を出し合い、俺達は入念な作戦を練ったのだった。




