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異世界転生の天人族《ハイランダー》〜異世界の山奥で悠々自適なスローライフ〜  作者: SIGMA・The・REVENANT
第一章・第五話:使い魔と討伐訓練と
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衝突

 縮地で駆け抜けながら奴の姿を探す。


 怒りで普段では出ないような力が出続けており、周囲の景色すらその姿が見えていない程に……それこそマッハで飛ぶ戦闘機以上の速度で駆け抜けても、〝神天眼〟を持つ俺の目は行く手を遮る障害物をしっかりも捉え、それ故に何もぶつからずに駆け抜けられている。



(殺す!無惨に殺す!生きているのを後悔するくらい殺す!この世全ての苦痛を与えながら殺す!)



 今まで考えなかったようなドス黒い感情が、言葉が俺の脳内で流れ続ける。


 そうしてやっと見つけた奴の土手っ腹に、俺は縮地での勢いそのままに飛び蹴りを食らわせた。


 速度は重さ……普通ならば砕け散ってもおかしくない衝撃だが、ただ吹き飛んだだけで済んだのは皇獅獣の頑丈さによるものだろう。


 好都合だ────


 あの一撃で簡単にくたばって貰っては、ヨミ達の分のお返しが出来ねぇからな。


 凄まじい殺気が溢れて止まらず、奴もそれを感じて震え上がっていた。


 だが震え上がっていても威嚇することはやめず、〝隙あれば噛み付いてやる!〟という思いがひしひしと伝わってくる。


 だが、こちとらテメェに反撃する権利は与える気はねぇンだよ。



「ただ首を切り落とすだけでは済まさねぇ……先ずは斬り損ねたその右前脚からか?」



 俺はそう言って都牟刈を振り上げながら奴へと突撃する。


 奴がニヤリと笑ったような気がした……。


 その直後────



「危ない!」



 そんな言葉と共に俺の身体は浮くような感覚に襲われ、そして気づけば先程までいた場所に炎の塊が落ちていた。



「なん────」



 言葉を言い切る前に俺はそのまま何者かに茂みの中へと連れていかれる。


 炎の塊が落下した衝撃で辺りは土煙に囲まれ、どうやらそれが目隠しになったのか皇獅獣はキョロキョロと俺を探し始めた。


 ポカンとする俺────


 するとそんな俺の顔が何者かに無理やり向きを変えさせられ、目の前にヨミの顔が映る。



「大丈夫!?怪我は無かった?!」



 そんな言葉をかけてくれたが、俺はいきなりの事で脳の処理が追いつかず返事をする事が出来ない。


 しかしそれもほんの数秒間の事で、直ぐに我に返ってはヨミに言い寄った。



「お前……家に戻ってろっつったろ!」



 そう言いながら見てみると、なんとヨミだけでなくセインやイヴ、オウル達全員が来ていた。


 俺は思わず怒鳴った。



「馬鹿かテメェらは!なんでここに来た!あとは俺が一人で相手するっつったろうが!」


「貴方を助けに来たに決まってるじゃない!」


「今のテメェらに何が出来るってんだ!」



 心にもないことが勝手に口から出てくる。


 しかも厄介なことにそれは自分では止めることが出来ず、俺は捲し立てるようにヨミ達を罵倒した。



「六人がかりでも奴に返り討ちにされたお前らが俺を助けるだと?俺は砕牙獣(セイバートゥース)を倒した!神金突獣(ミスリルノート)も倒した!たった一人でだ!だから助けなんて必要ねぇ!それに……それにまた俺を惨めな目に遭わせる気か!」


「惨め……?」


「そうだ!ヨミ……お前が神金突獣に殺られかけた時、俺はお前を護れなかった事を後悔した!完全治癒があったのも、こうして無事なのも結果論でしかねぇ!もし俺が完全治癒を使えなかったら、お前は今頃ここにいなかったンだからな!」


「それ……本気で言ってるの?」


「本気だ!当たり前だろ!」



 嘘だ────


 本当はそんな事を思っちゃいないし、神金突獣の事は本当にそう思ってはいるが、それでも口から出た言葉の大半は嘘である。


 ただヨミ達には安全な場所に避難していて欲しかった……目の前で死にかける姿を見るのは二度とごめんだ。


 例え今の発言でヨミ達が俺から離れていこうとも、それでも無事で生きてさえいてくれればそれで良かった。



「だから足でまといのお前らはさっさと戻っ────」



 ──パァン……──



 〝戻れ〟と言い切る前に、ヨミの平手打ちが俺の頬にヒットする。


 突然の事で何も言えず呆気に取られていると、ヨミは俺の両肩を掴んで声を張り上げた。



「そんなの……そんなの私が……私達が一番分かってるわよ!!」


「────!!」



 涙を流しながら、悔しそうな表情でそう言い放つヨミ。


 その後ろではセイン達も同じような表情をしていた。



「でも……でも私達は安全な所で何もせずに、貴方に頼りきったまま待っているのは嫌なの!例え足でまといだろうと、それでも貴方の力になりたいのよ!」



 ヨミはそう話すと肩から手を離し、そして涙を拭いながら更に続ける。



「ねぇ……私達は貴方の隣に立っていちゃいけないの?私達にはその資格が無いの?そんなに私達は頼りない?」



 小さな声で発せられたその問いかけに、俺は頭を殴られたかのような衝撃を受けた。


 まるで寝ぼけている時に冷水をぶっかけられたかのような……正に目が覚めたかのような感覚であった。


 俺はいつから彼女達の事を信じていなかったのだろう?


 信頼関係というのは決して一方通行のものでは無い……お互いにお互いが信じ合う事で作り上げられてゆくものだ。


 何故、今の今までその事を忘れていた?


 俺は暫く無言のままヨミ達を見渡し、そして勢いよく自分で自分の顔を殴った。



「ちょっ、何を────?!」


「はぁ〜〜〜〜……あ〜、目が覚めたわ」



 大きく息を吐いて、そして爽やかな朝を迎えたかのような言葉を発する。


 その時にはもう、先程までの怒りの感情は無かった。


 ただただ冷静さだけが残り、俺はいつもの調子に戻ったのである。


 そしておもむろに両手を伸ばすと、そのまま目の前のヨミを抱きしめる。



「へ?!ちょっ?!な、何?!」



 困惑するヨミと、それを見てポカンとしているセイン達。


 俺はヨミの頭を撫でながら感謝の言葉を述べた。



「ありがとうヨミ。そう……そうだな。確かにお前の言う通りだ」



 もう少し抱きしめていたかったが、これ以上はヨミも混乱し続けてしまうので惜しみながらも彼女から離れる。



「あ〜本当に……マジで目が覚める言葉だったよ。お前らがいてこその俺なのに。まったく……情けねぇったらありゃしねぇ」



 幸いにも皇獅獣は未だに俺達を見つけられていないようで、それを確認した俺はヨミ達を真っ直ぐ見ながら謝罪をした。



「すまん!我を失っていた。あんな言葉を言った分際で調子がいいと思うが、奴を倒すのに協力してくれると助かる」



 その瞬間、ヨミ達の表情が明るくなった。


 なんだろう……今この瞬間に俺達の絆が強くなったような気がする。



「まったくよね。こっちは涙まで流しちゃったのだから、これが終わったら美味しい料理を振舞って貰おうかしら」

「そうですね。師匠の料理は美味しいですから!」

「私も!先生のお料理食べたいです!」

「やれやれ……意外と手のかかる主ですね。あっ、美味しいお料理期待してますね?」

「うむ……しかし主の新たな一面が知れて良かったと思っている。料理も美味いしな」

「オラはまったく気にしてないだよ。料理も楽しみだでよ」

「御館様の料理は天下一品ですからな!」


「お前らなぁ……」



 二言目には料理と言い出す七人に、俺は思わず吹き出してしまう。


 しかし直ぐに真剣な表情に戻ると、全員に向けて指示をしたのだった。



「よしっ、一旦戻るぞ。奴を倒す為の作戦を練らねぇとな」



 〝おぅ!〟というヨミ達の声が揃う。


 しかし直ぐに〝クキュウ……〟という可愛らしい音が聞こえ、見ればヨミが一人腹を抑えて顔を真っ赤にしていた。


 そういやちょっとだけ腹が減ったな……ふむ、作戦会議がてら腹ごしらえといこうかね?


 腹が減っては戦ができぬ……俺達はこうして食事と作戦会議の為に一度家へと戻るのであった。


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