ヨミside・彼の元へ
オウル達を任せて走ってゆく彼の背を見つめながら、私は届くことのなかった言葉を何度も繰り返していた。
あの時と同じ……私は置いていかれ、彼だけが先へと進む。
追いかけたかった……でも、また神金突獣の時と同じような事になれば、彼は自分自身を許せなくなってしまうだろう。
けれど追いかけなければ彼がこのまま遠くの方へ……私の手が追いつけない所まで行ってしまいそうで怖い。
私はなんて弱い存在なのだろう。
彼を失うのが怖いのに、彼の足でまといになるのも怖いと感じてしまう。
後悔したくないのに、どんな選択を選んでも後悔してしまいそうだと思ってしまう。
そんな風に尻込みしてしまった私の肩を叩く人がいた。
顔を向けてみればそこにはオウルが微笑みながら私を見ている。
そして彼女は私にこう言った。
「ヤマト様を追いかけたいのでしょう?ならば行くべきです」
「でも……」
「お一人だけでは不安ですか?大丈夫……私達も一緒に行きますから」
「え……?」
ポカンとする私を他所にアルクトスやウォルフ……レイヴンどころかセインとイヴまで彼の後を追おうと歩き出していた。
「ちょっ────貴方達?!」
「僕は……いえ、僕達は行きますよヨミさん。置いてけぼりにされ、何もせずに後悔だけはしたくないですから」
「でも、相手はあの黄金皇獅獣よ!?」
「そうですね……正直に言ってとても怖いです。イヴなんて死にかけてたのですから尚更でしょう。でも……それでも僕達は師匠と共に戦いたいんです」
「……」
「それに、いくら相手が強いからと言ってここで退いてしまえば、僕はきっとこれから戦うことになるだろう相手にさえ逃げてしまうでしょう。それじゃあ僕を勇者として選んでくれたヴィヴィアン様やアルテラ神様に申し訳がたちません。だから僕達は行きます」
いつの間にもこんなに逞しく成長したのだろう……私の前に立ち笑顔を向けているセインにはあの頃の幼さはなく、立派な一人の男性のような精悍さを持っていた。
私は一気に恥ずかしくなってきた。
私よりも若いこの子達が心を奮い立たせて彼の元へ向かおうとしているのに、二人よりも一緒にいた私がこのように怖気付いているのは情けなさすぎる。
その途端、嘘のように恐怖心が消え、私は気合を入れるように自身の頬を叩くと、自分の足でその場に立ち上がった。
もう震えは無かった。
「情けない姿を見せてごめんなさい。私も行くわ!」
「はい!一緒に師匠の元に急ぎましょう!」
私はセインの言葉に〝えぇ〟と返すと、彼らと共にタケルの元へと駆け出したのだった。




