魔獣討伐へ
あれから月日が経ち、10歳だったセインとイヴは12歳となっていた。
この世界での成人年齢とされる15歳まで残り三年……つまり二人がここから旅立ち、魔王討伐へと向かうまで残り三年という事だ。
一昨年から魔物討伐を始めて、今ではオウル達のサポート無しに討伐を行える程成長していた。
〝お二人の成長っぷりは刮目する程です〟と、オウルがそう言っていたのが懐かしい。
ならばいよいよ魔獣討伐へとステップを進めるべきか。
この世界において魔獣とは魔物や、下手をすれば魔族よりも凶悪で強い存在であるらしい。
巷では魔獣が飛竜を食い殺したなんて話もあるくらいだ。
竜種と並ぶほどの存在……それが魔獣である。
そうそう、ちなみにだが二人が俺に対しての呼び方が変わった。
それこそ出会った時は〝タケルさん〟と呼んでいたのに、今ではセインは〝師匠〟と、イヴは〝先生〟と呼ぶようになったのである。
やめてくれと頼んでも二人は頑なにそう呼ぶことをやめようとせず、結果俺の方が折れてそう呼ぶようになった。
そして今日もまた二人は元気よく俺の方へと駆け寄ってくる。
「師匠!僕達二人だけでオーガを倒しました!」
オーガとは日本で言うところの鬼の一種で、その巨体と怪力で有名な魔物である。
それをたった二人だけで倒してしまったというのだから脱帽ものである。
しかし俺は簡単に褒めることはしない……何故なら二人がこれから戦うであろう相手はオーガよりも強い存在達なのだから。
俺は暫く考えたあと、二人をリビングへと呼んだ。
向かい合う中、俺の真剣な表情に二人が固唾を飲み込む。
「二人でオーガを倒したのは凄いことだ。だからお前達にはそろそろ次のステップへと進んでもらう。それは……」
「「それは……?」」
「魔獣討伐だ」
「「────!」」
〝遂に来たか〟という顔になる二人。
二人だけでなくヨミを含めた五人も同様に真剣な面持ちとなった。
「お前達も知っての通り魔獣は強い。俺は一人で難なく倒せたと思ってるようだが、実際はそんなに甘くはねぇ。ヨミが死にかけたところを見たなら分かるだろ?」
「「はい……」」
「だから魔獣討伐の際は俺やヨミはもちろん、オウル達も同行する。しかしサポートは主にオウル達だ。俺とヨミは本気でヤバいと思ったら助けに入る。それでいいな?」
「「はい!!」」
良い返事だ……なまじ魔獣の強さを分かっているだけに油断は無さそうだ。
ちなみに事前にレイヴンに頼んで周辺にいる魔獣の中で比較的弱そうな奴を探して貰っていたので、今回はそいつを相手してもらうことにしている。
だとしても油断は禁物であるが……。
「よしっ、今日は魔獣討伐に向けての稽古と準備だ。いつもよりビシバシいくからな」
「「はい!!」」
セインとイヴはいい返事をしたが、オウル達はまたもや顔を青ざめさせていたのだった。
そこまで俺の稽古は嫌なのだろうか……解せん。
────────────────────────
そして更に数日後、今日はいよいよ魔獣討伐を行う予定だ。
今回の相手は跳躍獣である。
ウサギのような見た目だがこちらも普通のウサギよりも大きく、例えるなら牛くらいの大きさだ。
その名の通り跳躍能力に優れ、その強靭な脚力で繰り出される蹴りは木をも易々と薙ぎ倒す程である。
こちらは肉食ではないが、十分に脅威といえる存在だろう。
何せ奴の縄張りに入ってしまった商人の馬車がその一蹴りで粉々に砕け散ったという話があるくらいなのだから。
「お前ら、今回は魔獣の中でも比較的に弱い奴だが決して油断すんなよ?」
そう声をかけてみたはいいものの、レイヴンの案内で来た場所に跳躍獣の姿は無かった。
「あれ?いねぇじゃねぇか」
「おかしいですな……昨日までの調査でここが奴の根城である事は確かなのですが……」
「餌でも探しに行っているのでは?」
「じゃあ待つか」
しかし待てども待てども奴が戻ってくる様子は無い。
「お前……場所間違えてんじゃねぇか?」
「そんなはずは……」
間違えてないとすると、もしかしたら跳躍獣は住処を移してしまったのかもしれない。
より豊富な餌場に住処を移すのは何もおかしな事ではないからな。
仕方なく後日仕切り直そうかと思っていた矢先、オウルが何やら神妙な面持ちで空を見上げていた。
「どうした?」
「いえ……何やら森が騒がしいような気がしまして……」
そう言われて周囲に意識を向けてみると、確かに森の中が何やらザワついている。
俺はこの感じを前に経験した記憶がある……あれは確か神金突獣が現れた時だった。
「全員臨戦態勢!どこから来てもいいよう最大限の警戒をしろ!」
俺がそう言いながらヨミ達に顔を向けると、彼女達は一点を見つめて固まっている。
おいおいおい……これじゃあまるっきりあの時と一緒じゃねぇか!
振り返ればそこには木々の間からでもハッキリと分かるような大きなシルエットが浮かび上がっており、そいつは木々を薙ぎ倒しながらのそりと姿を現した。
黄金のたてがみ……口から覗く鋭利な牙……全てを抉りそうな爪……そしてこちらを真っ直ぐ見据える黄金の瞳……。
先程仕留めたのだろう跳躍獣の死体を咥えて現れたそいつは、〝獅子〟と称すべき魔獣であった。
「黄金……皇獅獣……」
誰が発したか分からないその言葉を聞きながら、俺は全身の鳥肌が立つのを感じていたのだった。




