終幕、そして新たな事件???
その日の朝、俺はヨミとアルクトスと共に奴らの居場所を強襲した。
突然の襲撃に奴らは完全に混乱し、中にはアルクトスを見て腰を抜かす奴までいた。
向かってくる奴らを薙ぎ倒しながら奥へと進み、そして遂に囚われていた親方を見つけ出し救出した。
中にはあのバッカスという男やアカネを脅迫していた三人組の姿が無かったが、まぁアジトは壊滅させたので良しとしよう。
そうして親方を連れて鍛治屋へと戻ってきたのだが、そこでは思わず唖然としてしまう光景が広がっていた。
「ひぃぃぃ!許して!許してくれぇぇぇぇ!」
「いてててて!か、噛むな!噛むなぁぁぁぁ!」
「アトラスのアニキィ!こ、このガキも強すぎやすぅぅぅ!」
ウォルフ達から逃げ惑う金髪の男と太った男。
その傍らではモヒカン頭の男がセインにボコボコにされていた。
ちなみにあのバッカスもその場にいたのだが、奴は既に伸びていて、しかもウォルフ達にボロボロにされたのだろう……もはや全裸としか言いようのない程哀れな姿だった。
「親方ぁぁぁ!」
「アカネ!」
横では親方とアカネが再会を喜び感激の涙を流しているのだが、どうにも目の前で繰り広げられている光景が酷すぎて全然感動出来なかった。
その後、俺とヨミはボロボロになったバッカス達を縛り上げ、あの宿屋に吊し上げておいた。
隣家の屋根で行く末を見ている中、騒ぎを聞き付けたドルッセルがバッカス達の姿に驚き、エディソンもその隣で愕然としていた。
そのタイミングで武装した兵士達が現れ、暫くドルッセル達と言い争っていたが、兵士達を率いていた隊長らしき人物が突きつけた書類を前に遂に陥落。
二人仲良くその場で両膝から崩れ落ちて項垂れ、兵士達にしょっぴかれていったのだった。
「あっはっはっ、これにて一件落着。悪は栄ねぇって事だな」
『本当にその通りですな』
とまぁこんな感じでこの事件は幕を閉じ、俺とヨミは本来の目的を果たす事が出来た。
しかし、いざ親方であるゴウエンに神金突獣の外殻を見せたところ、豪胆そうな見た目では想像出来ないほど情けなく白目を向いて倒れてしまったのはここだけの話である。
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その日、神金は買い取ってもらったのだがそれを支払える金は無いとの事らしく、俺とヨミは相談した結果、無料でその神金を使った武器や防具を作ってもらえることになった。
そして、それが完成したとの事で今こうして取りに来ているのである。
「そこの兄ちゃんには軽量かつ頑丈な防具だ。兄ちゃん程の奴なら直ぐに使いこなすことが出来るだろうて。それと頼まれてたモンも出来てるから確認してみてくれ」
そう言われ防具と共にある武器を手渡される。
それは俺が自作したボーガンなのだが、違うのはトリガーなどが取り払われ、少し小型化したものであった。
それにももちろん神金が使われている。
「なにせボーガンを篭手の形に改良するなんざ初めてでな。機能とか確認して欲しいんだが」
ゴウエンの説明を聞きながら俺はボーガンに付けられたフックを引く……すると一瞬で弓が開きボーガンの形になった。
そして肘側にあるツマミを引くと弦が弾かれ、拳を握ると射出される仕組みだ。
いやぁロマンだね。
「いい出来だ。難しい注文だったはずなのに、感謝するよ」
「いいってことよ。こっちにとっても貴重な経験だしよ」
そんな会話をして握手を交わす俺とゴウエン。
ヨミについては盾を作って貰っていた。
スモールシールドと言って片手で持てる盾である。
というのもヨミは元々そのスモールシールドを持っていたのだが、俺と出会ったあの日に砕牙獣によって破壊されてしまったらしい。
という事で今回作って貰ったスモールシールドは鎧を着た天使の装飾が施されたもので、なかなかどうして彼女に良く似合っていた。
「嬢ちゃんは〝戦乙女〟だって聞いたからよ。だからデザインもそんな感じにしてみたんだがどうだ?」
「とっても嬉しいです!」
そう言ってスモールシールドを抱きしめるヨミ。
彼女はずっとその盾を大事にしてゆくんだろうなと思った。
ちなみにセインとイヴのも作ってやると言ってくれたのだが、それはまた今度にしてくれと頼んでおく。
二人にはまだ神金装備は早すぎるからな。
そうして俺とヨミは鍛治屋を後にし、我が家へと戻ったのだった。
それと町では主に三つのニュースで持ち切りになっており、一つが〝ドミドレーク伯爵、汚職により爵位剥奪及び領主解任。事件判明は謎の手紙か?〟……これはドルッセルが捕まり、またそのきっかけである資料やら財宝やらを含んだ手紙を送った事を記したニュースだ。
二つ目は〝ヘクトールの町の憲兵隊長逮捕。ドミドレーク伯爵との共謀により〟……王国の兵士の捜査でバッカス達の犯罪を黙認していたことまで判明したらしく、それらの罪で逮捕されたらしい。
ちなみに隊員達も共犯として処罰を受けたのだとか……ヘクトールには新たに憲兵隊が組まれ配置されるらしいが、町民達からの信頼を回復するにはかなりの時間を要するだろう。
最後は〝犯罪組織・山犬の牙が壊滅。違法な地上げや強盗、奴隷売買の他、様々な罪が明るみに〟……バッカス率いる犯罪組織は地上げ屋の他にも奴隷売買も力を入れていたらしく、奴隷売買を禁じているこの国ではかなりの重罪となるらしい。
まぁこれらのニュースで町には平穏が訪れ、町民達も今よりも安心して生活を送れることになるだろう。
しかしその一方で我が家ではちょっとした事件が起こっていた。
それは────
「「「「…………」」」」
「この姿では初めましてですねヤマト様。私はあのオウルに御座います」
「同じくウォルフ」
「アルクトスですだ」
「レイヴンに御座います」
呆然と佇む俺達四人の前で、これまた四人の男女が跪いて挨拶を述べている。
その全員が人ではなく、翼を持つ者、狼の耳と尻尾を持つ者、そして熊のような巨体で毛むくじゃらな者。
それらは口々に聞き覚えのある名前を口にしていた。
そう……彼らは俺が名前をつけてやったあの動物達であった。
「どういう事だ……?」
混乱の中、俺はたったそれだけの言葉しか口に出来なかったのだった。




