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山奥でのスローライフが始まりました

 雲の上から落下した俺、大和武尊(ヤマトタケル)はそのまま地面に激突した────という事はなく、目を開けるとそこは見知らぬ天井が見えていた。


 ゆっくりと起き上がってみれば、前世で使っていたものとは違う、かなり上質だと思われるベッドの上。


 周りは必要な家具が揃えられているらしく、壁は丸太を積み上げたような感じになっている。


 ふと窓の外に目を向けてみれば、一面木々で覆われており、確かに俺が願った通り山奥に建てられた家の中のようだった。


 前世でもこんな風に子鳥のさえずりが聞こえては来なかったな。


 一階に降りてみれば調理台などもあり、外に出て家を確認すれば、山小屋というよりコテージかログハウスのような家であった。



「ここまでしてくれたとは、ありがたいな」



 そう感想を漏らし、そして転生前に天照大神が言っていたことを思い出す。



「そういや服装は自分がイメージした通りになってるって言ってたな……」



 一階に全身が見れる大きな鏡が置かれていたので、その前に立って確認してみると、そこにはフードを被り、口元を布で覆った俺が映し出されていた。


 見ようによっては暗殺者のように見えるし、上着が迷彩柄なので軍人にも見える。



「まぁ、人は来なさそうな所だし、別にいいか」



 そう呟き視線を移すと、一振の刀と弓矢が置かれているのが見えた。


 刀を手に取り見てみると、急に俺の脳裏に走馬灯のように様々な情報が流れ込んできた。


 感覚的に言えば速読をしているかのような感じだった。



「〝都牟刈(ツムガリ)〟……これがこの刀の名前か?」



 形状から見て日本刀の種類の一つである太刀のようだが、確か〝都牟刈〟という名は日本神話に出てくる草薙剣の別称だったような気が……。


 まさかここでも俺の名前に関連する武器の名前とは……。


 とりあえず都牟刈を腰に差し、弓と矢筒を背負って外へと出る。


 そして少し離れた場所へと向かい、今から行うのは武器の性能確認である。


 都牟刈の斬れ味などは勿論だが、天照大神が口にしていた〝矢が尽きない矢筒〟の真偽も確かめたい。


 いや、別に疑っている訳では無いが、異世界転生などという非現実的なものとは皆無の世界で育ったので、どうしてもあと一歩信じることが出来ないのである。



「先ずは都牟刈からだな」



 都牟刈を鞘から抜き、目の前の大木に向かって振り下ろす。


 まさかとは思うが、樹齢ウン百年もありそうな大木がたった一太刀で切り倒せるはずがない。


 そう思っていた時が、俺にもありました。



「────嘘だろ……」



 目の前で横滑りしながら倒れてゆく大木……。


 斬ってみた感触はなく、素振りをしたら切れたみたいに抵抗なく切り倒してしまった。


 かなりの斬れ味らしい……。



「今のは試し斬りのつもりで軽く振っただけだったが……全力で振ったらどうなるんだ?」



 焦りながら手に握られている都牟刈を凝視する俺。


 そして全力で振った場合のことを想像すると、背筋に冷たいものが走り、ゾワッと鳥肌が立った。

 

 ちなみに矢筒は確かに何度撃っても矢が無くなることは無かったよ……けれど都牟刈の事で頭いっぱいで正直そこまで記憶に残ってない。


 ともかく矢が無くならないのならば仮令狩りで外しまくっても矢が尽きる心配は無いな。


 という事で今度は食材調達へと向かう。


 なんてこった……。


 皆、聞いてくれ!


 俺はどうやら動物の声が分かるらしい。


 というのも直ぐに獲物である鹿なのかトナカイなのか分からない動物を見つけたんだが、いざ弓を構えた時に気づかれてしまった。


 鹿に見られた途端、俺の頭の中で〝人間?!やだ、殺されちゃう!〟という声が響いた。


 その後も出会う動物全て、いざ矢で射ろうとすると声が響いてくる。


 確か前世で動物と話せる医者を題材にした映画があったが、気分はそんな感じだ。


 まぁここは正にファンタジーと言える異世界なので、そんな事は別に珍しくもないだろうが、一つ困るのはこのままでは肉を調達出来ないという事だ。


 肉は人が生きる上で必要な栄養素があるというのは勿論、人としてやはり肉は食べたくなってしまうものだ。


 というかこの様子だと魚や鳥も駄目そうだな。


 俺はそう判断すると、とぼとぼと帰路についた。


 しかし、いったいなぜ動物の言葉が分かるのだろうか?


 天照大神に動物と話せるようなチートは望んでなかったはずなのだが……。


 そこで俺は自分の今のステータスがどのようなものか確認していないことに気がついた。


 異世界転生したなら直ぐにステータスを確認するのは定石なのだが、現実で起こるとは思ってなかったソレに思わず舞い上がっていたようだ。


 なので家に戻ってからお茶を片手にステータスを確認することにした。



(まさか茶葉や急須、湯呑みまであるとは思わなかった。至れり尽くせりだなホント)



 目の前で茶柱を立てているお茶を見てそう思いながら、俺はステータスを開いてみた。



(ステータス)



 そう念じると、確かに目の前に何やら色々と書かれた資料のようなものが、ホログラムのように浮かび上がった。


 そしてソレに目を通した俺は、思わず口に含んでいたお茶を盛大に噴き出してしまうのだった。



 〈大和武尊(タケル・ヤマト)


 種族:天人族(ハイランダー)

 性別:男性

 年齢:15

 職業:隠者(ハーミット)

 体力:9999+

 魔力:9999+

 攻撃力:9999+

 防御力:9999+

 〈保有能力(スキル)

 ・全言語翻訳

 ・剣術:Lv.100

 ・弓術:Lv.100

 ・不撓不屈:即時環境適応、各種ダメージ無効、状態異常無効

 ・万能

 ・全世界知識(アーカイブ)

 ・気配探知

 ・魔力探知

 ・隠形

 ・神天眼



「なんだこりゃァァァァ??!」



 転生したてでは絶対にありえないステータス────


 このステータスはゲームでいえば何回も周回し、カンストにカンストを重ねた場合のものと同じような感じになっていたのである。



「いやいやいや!これは流石にありえねぇだろ?!俺は魔王を倒す勇者か何かか???」



 当然ながら俺にそんなつもりは無い。


 俺はあくまでもこの山奥で悠々自適なスローライフを送りたいだけなのだから。


 というかスキルのひとつ〝全言語翻訳〟……もしかしてだが、動物の言葉が分かるのはこのスキルによるものか?


 だとしたら傍迷惑過ぎる!!!!


 俺はこの世界の全ての国の人達の言葉が分かるようにして欲しかっただけなのだが、どうやら天照大神はやり過ぎたらしい。



「クソぉぉぉ!そのせいで肉を調達出来ねぇじゃねぇかァァァ!」



 あの女神様……もしまた会った時には一発ド突いてやる!!!!



「────へくちっ!」



 どこかで可愛らしいクシャミが聞こえてきた気がするが、とりあえず俺のステータスは〝ここまで求めてない!〟ってくらいにトンデモ状態ってのは理解した。


 でも中には本気で助かるスキルもあった。


 その一つが〝全世界知識(アーカイブ)〟というものだ。


 これはこの世界のありとあらゆる知識はもちろんのこと、前世の世界の知識さえも求めれば直ぐに出てくるというものだった。


 小説とかで出てくる〝鑑定〟の能力も兼ね備えていると言った方がいいだろう。


 だからこそ都牟刈の事も分かったし、狩りの時に見た鹿が〝尖角鹿(ニードルディア)〟という名前であるというのも知れたのである。


 まぁ他にもトンデモスキルがいくつかあるが、これは後々どのようなものか分かることだろう。


 特に〝万能〟なんて、何に対して万能なのかも理解出来んしな。



(あっ……と言うかこの〝隠形〟ってスキルを上手く使えば、気づかれることなく獲物を仕留める事が出来るんじゃねぇか?)



 その事に気づき早速実践────しかし動物の声は隠形スキルを使おうと否応なく聞こえてくるもので、しかも見つけたのが偶然親子だったばかりに、どうしても殺すのが躊躇われてしまった。


 仲良く俺の前から去ってゆく尖角鹿の親子……それを見つめ、俺は深くため息をついた。


 すると頭上から何者かの視線を感じ、見上げてみるとそこには一羽の梟と一匹のリスが俺を見ながら首を傾げていた。



『何故、あの人間は矢を撃たなかったのだろう?』


『上手く当てられるか不安だったんじゃない?』



 好き勝手言ってくれる……。


 俺はリスの言葉にカチンときて、思わず梟とリスに向かって声を荒らげてしまった。



「あんな仲の良さそうな親子を射るのは流石に可哀想だと思ったんだよ、悪いか!!」


『────!?』



 俺にそう言われ見るからに驚く梟とリス。


 すると梟が何かを考え、そして俺の前へと降りたってきた。



『いやはや、まさか私共の言葉が分かる人間に出会うとは……先程は失礼な事を言ってしまい申し訳なかった』



 なんか畏まってそう言われるとこちらの方が申し訳なくなってくる。



「いや、別にいいって……俺もこの世界に来て動物と話せるなんて思いもしなかったからさ」


『なんと!?貴方様は稀人(マレビト)様であったか!』


「稀人?」



 梟の言葉に俺は復唱しながら疑問符を浮かべた。


 すると親切なことに梟はその〝稀人〟とやらについて詳しく説明してくれたのだった。



『稀人とは、別の世界からこの世界に来た者のことを言うのですよ。稀人様が言うには〝転生〟とか〝転移〟とか、そういった事でこの世界へとやって来た方のことを指すのですよ。しかし我々と話せる稀人は未だかつておりませんでしたな』



 つまり動物と話せる稀人は俺だけって事らしい。



「まぁお陰で肉を食える見込みは無くなったみてぇだけどな」


『別に気にしなくてもいいですぞ?我々、動物達の世界では人間に殺され、食べられてしまうのも食物連鎖の一環だと理解しておりますゆえ』


(たくま)しすぎんだろ……」



 そう言われても流石に罪悪感が酷い。


 その事を梟に伝えると、梟はナイスタイミングとでも言うようにこんな頼み事をしてきた。



『でしたら私共のお願いを聞いてくれませんか?』


「願い事?」


『別に難しい事ではありませんよ。ただ魔獣を倒して欲しいだけなのです』


「魔獣?」



 梟曰く、魔獣とはその名の通り魔力を持った獣であり、動物が少なからず知恵や理性を持っているのに対し、魔獣はその理性とやらを持ち合わせていないのだという。



『奴らは欲望のままに生きておりますからな。お陰で餌となる木の実も草花も奴らに食い散らかされ、挙句には餌となってしまったものもおる程です』


「だから倒して欲しいと?倒したところで俺に何のメリットがあるんだ?」


『貴方はこの世界に来たばかりのようなのでご存知無いかと思いますが、実は魔獣の肉は動物の肉よりもかなり美味らしいのですよ』


「そうなのか?」


『はい、人間の間ではかなり有名でして。しかも奴らの体内には〝魔石〟とやらがありまして、これは魔法に関してとても便利なものと聞いております』


「つまり俺が魔獣とやらを倒せば、肉どころか魔石も手に入り、対してお前達は平穏に暮らせるって訳か」


『その通りにございます』



 う〜ん……確かにそれならばウィンウィンな話と言えよう。


 それに動物よりも美味な肉を持つ魔獣という事実に心惹かれている俺がいる。


 まぁ罪悪感を抱いたまま普通の動物を狩るより、そっちの方が気持ち的には楽か……。



「じゃあ案内してくれると助かる」


『お易い御用です』



 そう言って羽ばたき飛んでゆく梟。


 低空飛行をしてくれているのでついて行くのは簡単だった。


 そうして案内されて辿り着いた場所は様々な果物らしき果実が沢山なっている木々に囲まれた、僅かに開けた場所であった。


 草むらに隠れながら梟と共に様子を伺うと、その開けた場所の中央に、見るからにヤバそうな雰囲気をまとった一匹の獣が我が物顔で丸くなっていた。



『あれは〝砕牙獣(セイバートゥース)〟と申しまして……最近になってここを占領している魔獣なのです。お陰でここいらの動物達はあの果物を食べることが出来ずにいるのですよ。ここにしか実っていない果実しか食べぬ動物もいるというのに……』


「その動物はどうしてるんだ?」


『先日、その動物の子供が餓死致しました……親も、他の子供達も飢餓に苦しんでおります』


「じゃあ奴を倒せば解決出来るんだな?」


『その通りにございますれば』


「分かった。いっちょやったるか」



 俺はそう言うと草むらから出て、悠然と砕牙獣の前へと姿を現した。


 それを見ていた梟は驚き何やら言ってくるが、要はさっさとコイツを片付ければいいだけの話だろ?


 俺の気配を感じ、途端に威嚇し始める砕牙獣。


 だが、俺は不思議と恐怖を抱かず、何か高揚とした気分に陥っていた。


 まさに〝ワクワク〟といった感じだろう。


 試しに威嚇射撃のつもりで弓を構え矢を放つ。


 驚くことに砕牙獣はその大きな図体からは想像出来ない機敏な動きで矢をかわした。


 そしてそのまま俺を食い殺そうと襲ってくる。



『ニンゲン。コロス!クイツクス!』



 カタコトでしかも分かりやすい思考だった。


 なるほど……これなら別に殺したとしても罪悪感は無いな。


 正当防衛だ、正当防衛。



「食い殺されるかってーの」



 俺は弓を真上に放り投げ、直ぐに都牟刈を抜き放って砕牙獣へと斬り付ける。


 しかし砕牙獣は機敏な動きでそれらをかわしては直ぐに攻撃へと転じてくる。


 厄介だな……。



「ならコイツはどうだ?」



 果実の木ではない普通の木の根元に三角形の切込みを入れ、その部分を蹴り飛ばす。


 すると切込みの部分だけが蹴り飛ばされ、その方向……つまり砕牙獣のいる所へと倒れてゆく。


 それを見た砕牙獣は直ぐに右へと避け、俺はそんな奴の方へと横薙ぎに都牟刈を振り抜いた。


 真上へと飛び上がって回避した砕牙獣は俺を見ながらニヤリと笑った。


 だが残念だったな……テメェのその動きすら俺が誘導したに過ぎないんだよ。


 俺は直ぐに飛び出すと、落ちてきた弓をキャッチし、そして素早く弓を引いた。


 未だ空中にいる砕牙獣はそれを見て目を見開いていたが、もう遅い。



「余裕ぶっこいてっからそうなるんだよ、バーカ」



 最後にそう言って渾身の力で引いた矢を放った。


 放たれた矢は真っ直ぐに……まさに引き寄せられるように砕牙獣の眉間へと撃ち込まれ、砕牙獣はそのまま絶命し地面へと落下した。


 俺はまだ油断する事無く慎重に砕牙獣へと近づくと、都牟刈で奴の首を斬り落とした。


 これにより砕牙獣は俺の手で始末されたのだった。



『お見事!!!!』



 梟が賞賛の声をあげる。


 よく見ればいつの間にいたのか、様々な動物達も俺の前に倒れ伏している砕牙獣を見て歓喜の声をあげていた。


 中には俺に近寄り、お礼を言いながら身を擦り寄せて来る動物までいた。


 仮令動物とはいえ、感謝されるのはかなり心地良い。


 俺は勝利を得たアスリートが観客達の歓声に応えるように、都牟刈を高々と掲げたのであった。


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