鍛治屋にて
「あのさぁ、俺らも暇じゃねぇのよ?だからさっさと決めてくんねぇかな?つっても選択肢は一つしかねぇけどな」
ヨミと別れチンピラ三人組の後をついてきた俺だったが、まぁやはりと言うかあの三人はアカネに対し何やら交渉をしているようだった。
いや……あの三人の態度からするに交渉ではなく脅迫と言った方が良さそうか。
「私に出来る事なら何でもします!だから親方を返してください!」
「それならさっさとここから立ち退きな」
「それだけは!それだけは勘弁して下さい!ここは親方が頑張って開いた工房なんです!ここを失ったら……親方は……」
「うるせぇ!立ち退かねぇんならお前の大切な親方がこの世からいなくなるだけだってのはテメェでも分かってんだろ!さっさとこの書類にサインして出ていけや!」
あ〜……あの三人はもしかしなくても地上げ屋かぁ。
どんな理由かは知らんが、どうやら鍛治屋がある土地を欲しいらしいな。
そうこうしている内に遠くから数人の声が聞こえ、あの三人もそれが聞こえたのか舌打ちをしてその場から去ろうとする。
「チッ……次来た時に駄々を捏ねるようなら、こっちも出るとこ出るからな!」
そう捨て台詞を吐いて立ち去ってゆく三人。
物陰に隠れて様子を伺っていた俺の前を横切りどこかへと行ってしまう。
そして入れ替わりで二人の憲兵らしき人達が鍛治屋の中へと入っていった。
先程はどちらも声が大きかったので聞き取れたが、今回は互いに声が小さくよく聞き取れない。
ところどころ〝いい加減〟だの〝迷惑〟だの聞こえてきたが、それはどちらも憲兵の声であった。
そしてその憲兵も店を後にする。
「とても面倒な事になってるようね?」
思わず口から心臓が飛び出るかと思った。
あげそうになる悲鳴を飲み込みながら、俺は背後にいるヨミに声をかける。
「なんでここにいる?先に帰っててくれと言ったはずだが?」
「貴方の嘘なんてお見通しよ。それよりもどんな状況なの?」
「地上げ屋連中に鍛治屋の親方が捕まっているらしく、それを人質にこの店の立ち退きを強要されてるって状況だな」
「どうして地上げ屋がこの土地を?」
「それは知らん」
俺はそう言うと立ち上がり、そして店内で俯いているアカネに声をかけた。
「随分とお困りのようだな?」
「ひゃあっ?!えっ、あっ、貴方は!!」
「すまねぇな。ちっと話を聞いちまった。それでどうするつもりなんだ?店を手放すのか?」
「そんなわけないじゃない!」
「でもそうすると親方がヤバいんだろ?」
「それはそう……だけど……」
はてさて困ったもんだな。
俺としてはこの町に唯一ある鍛治屋が無くなると非常に困る。
「さっき憲兵が来てったが、助けを求めたのか?」
俺の問いに首を横へと振るアカネ。
そしてポツリとこんな事を話し始めた。
「憲兵達は何もしてくれない……だってこの土地を欲しがってるのは有名な貴族様なんだもん」
「貴族がわざわざこの土地を欲してるなんて変わってんな?」
「話によるとこの土地に豊富な資源があるらしくて……」
(嘘だな)
俺は直ぐにそう思った。
もしその〝豊富な資源〟とやらがあるならば、ここだけでなく町全体を欲するのが普通だろう。
しかし見たところ町はこの鍛治屋のように地上げ屋に脅されているようには見えない。
となると別の理由があるのだろう。
「相手が貴族だから憲兵も動かねぇのか」
「さっきも〝いい加減に迷惑だからさっさと言う通りにした方がいい〟って言われちゃった」
なんだそりゃ?
町の人達を守るべき憲兵がそんな事を言うなんてただ事ではない。
これは憲兵達は既に買収されていると推測しておいた方がいいな。
「どうしよう……私、親方を取り返したい。でも、この工房も手離したくない……」
アカネはそう言うとカウンターに突っ伏して泣いてしまった。
それを悲痛な面持ちで見つめるヨミ。
やれやれ、あまり面倒事には首を突っ込みたくはねぇが、しかしここで見捨てるのも寝覚めが悪い。
「つまり親方を取り返せばいいんだろ?」
「無理よ!だってアイツらは悪名高いマフィアの連中よ?」
「心配するな。そんな奴ら俺の敵じゃねぇよ」
などとカッコつけてみるが、しかし俺はそいつらの居場所を知らない。
しかし居場所を特定させる方法はいくらでもある。
俺はおもむろに店の外へと出ると、周囲を見渡し口笛を鳴らした。
すると周囲からかなりの数のカラスが集まり俺の前へと降り立つ。
そしてその内の一羽が前へと出て挨拶をしてきた。
『初めまして天人族様。某はこの町に住むカラス達を纏めているものに御座います。今回、貴方様が我々を呼んだと思いこうして馳せ参じた次第であります』
流暢にそう話すリーダー格のカラスは俺の言葉を今か今かと待っているようだった。
「その通りだ。察しがいいな?実はちょっと頼まれて欲しい事があるんだよ」
『ほほぅ?承りましょう』
「助かる。ちなみにお前らはここで金髪の男を筆頭とした三人組がこの店に来ていたのは知ってるか?」
『もちろん。この目でしかと見ておりました』
「なら話が早い。そいつらの後を追って居場所を突き止めろ。出来るか?」
『愚問ですな。その位のこと、我々の手にかかれば朝飯前ですな』
そのカラスはそう言うと手下達を率いてその場から飛び去って行った。
その光景をヨミは慣れたのか無反応であったが、アカネはポカンと口を開けていたのだった。
そうして俺はカラス達の報告を待ちつつ、親方奪還の為の作戦を練るのであった。




