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異世界転生の天人族《ハイランダー》〜異世界の山奥で悠々自適なスローライフ〜  作者: SIGMA・The・REVENANT
第一章・第三話:賑やかな日常
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岩突獣

 互いに一進一退もなく完全な膠着状態……しかしそれを破ったのは俺であった。


 岩突獣の角を抑えている都牟刈を持つ手を捻り奴の突進をいなす。


 岩突獣はそのまま体勢を崩すかと思えば、直ぐに前脚で踏ん張り、ズシンという足音をたてながらこちらへと向きを変えた。


 どうやら完全に俺を標的と定めたようで、その狙いがヨミ達に向かなかったことに安堵する。



「さて……かかってこいよ木偶の坊」



 そんな挑発が効いたのか、岩突獣の目が興奮した際の特有の血走りが入る。


 一旦息をついたからか、俺は岩突獣の左目が潰れていることに気づいた。



(誰か奴の左目を潰したのか?いや、他の魔獣との戦いでついたかもしれねぇな)



 とにかく片目が潰れているのならば付け入る隙は十分にある。


 魔獣にも共通しているのかは分からないが、多分、距離感は上手く掴めていないだろう。


 俺は試しに右側……つまり岩突獣の左目方向へと移動してみる。


 異常な速さでこちらを向いた。


 これで確信した……奴の死角は左側だ。


 俺は都牟刈を構えると縮地で奴の左側へと移動する。


 一瞬にして俺が姿を消した事で岩突獣は俺を完全に見失い、キョロキョロと周囲を見渡し始める。



「ここだマヌケ!」



 そう言いながら都牟刈を振り抜いたが、〝ガチン〟という嫌な感触が拳から腕へと伝う。


 都牟刈は〝神話級(ゴッズ)〟というランクの武器である……前に巨大な岩石を真っ二つにした事もあった。


 そんな都牟刈を持ってしても岩突獣の身体に纏った岩に傷をつける程度であった。



「チッ……予想よりも硬いな……」



 そう悪態をついた時だった。


 突然、どこからかヨミの声が聞こえてきた。



「タケル!そいつ希少種よ!体を覆ってるのは岩じゃなくて神金(ミスリル)という鉱石なの!だからそいつは〝岩突獣〟じゃなくてその希少種の〝神金突────」



 声がした方には何故かヨミの姿があり、こちらに向かって何やら叫んでいる。


 だが俺はそれを気にしている余裕などなく、彼女を見るなり突進していった岩突獣を止める為に動き出していたのだった。


 しかし……。



 ドサッ────



 無情にもヨミは俺の目の前で岩突獣に撥ね飛ばされ、声を出すことなく地面へと落下した。



「ヨミ……おいヨミ!!」



 声をかけるも返事はなく、抱き起こすも力なくぐったりとしていた。


 そんなことはお構い無しに岩突獣は更にこちらへと突進してきたので、俺はヨミを抱えながらそれを避けて森の中へと身を隠す。


 そして彼女を木の根元に座らせると急いで〝治癒(ヒール)〟をかけた。


 本当は〝完全治癒〟をかけてやりたかったが、今はそんな余裕は無い。


 せめて自力で逃げられるくらいには回復させないと……。


 だがヨミは依然として目を覚まさず、俺は徐々に焦りを感じ始めていた。



(やっぱ完全治癒をかけるか……いや、だが完全治癒は治癒よりも時間がかかるし……だが治癒をかけ続けている時間も無────)



 突然、俺の身体を巨大な衝撃が襲った。


 吹き飛ばされる中、目をつけるとそこには岩突獣の姿が……どうやら木々を薙ぎ倒しながらここまで来たようだった。



(クソがっ────)



 吹き飛ばされた俺は木々を薙ぎ倒し、そしてその先にあった岩壁へと激突した。


 俺が激突したことにより岩壁が崩れ始める。


 しかし幸いにも俺は生き埋めにはならず、岩壁は僅かに崩れただけのようだった。


 舞う砂埃の中、俺はあれ程までの衝撃にも関わらず、痛みもダメージも無い事に気づく。


 だがそんな事は今はどうでもいい。


 今の俺は心の奥底から湧き上がる感情により脳内が埋め尽くされていた。


 それは他でもない〝怒り〟であった。


 俺は縮地で飛び出すと一気に先程までいた場所へと戻り、そして今まさにヨミに危害を加えようとしている岩突獣の横っ腹に飛び蹴りを食らわせた。



『グモっ────!!?』



 予想以上の威力と衝撃だったのか、先程の俺のように軽々と吹っ飛んでゆく岩突獣。


 しかし俺は直ぐに追わず、ヨミを抱えて家へと戻った。


 家に着くとそこにはセインとイヴの姿があった。


 二人はヨミを抱えながら戻ってきた俺を見るなりすかさず駆け寄ってきた。



「タケルさん!あの魔獣は倒したんですか?!」


「いいやまだだ。それよりもヨミを頼む」



 会話をしながら俺はヨミをソファーへと寝かせ、そして自室へと向かいボーガンと矢筒を手に取る。



「今から奴を仕留めに行く。もしヨミが目覚めたら〝お前の分までぶっ飛ばしてやる〟と言ってたと伝えてくれ」


「は、はい……」



 セインに伝言を頼み、いざ岩突獣のもとへ……奴は消えた俺を探していたようで、先程俺が吹き飛ばされた所にいた。


 俺はボーガンに矢を込めると、奴を覆っている岩の隙間……つまり関節部に撃ち込んだ。



『ガァァァ!』



 その威力のヤバさから使うのを控えていたボーガン……その威力で岩突獣の右前脚が吹き飛ぶ。


 しかし俺はそれを気にすること無く次弾を装填した。


 それを見ていた岩突獣はボーガンのヤバさを体験したばかりからか逃げ出そうと俺に背を向け走り出す。


 だが三本脚なので上手く走れず速度も出てはいない。


 俺はそんな奴の右後ろ脚に狙いを定めて矢を放った。


 二発目の矢も見事に関節を射抜き、岩突獣はバランスを崩してその場に倒れ込む。


 そんな光景を見ても俺の怒りは収まらず、気づけば三発目、四発目を奴の左前脚、左後ろ脚へとぶち込んでいた。


 完全に動けなくなった岩突獣を前に俺はボーガンを投げ捨て、都牟刈をゆっくりと抜く。


 岩突獣は動けぬ身であっても何かしら一矢報いろうとしているのか俺を右目で睨みつけては咆哮を上げている。


 しかし俺はそれを前にしても酷く冷静で奴を見下ろしていた。



「まるで〝ふざけるな〟とでも言いたそうだな?」



 抜いた都牟刈の刃を岩突獣の首筋へとあてがう。



「いきなり出てきて、しかも俺の大切な同居人を殺しかけたのに、テメェはいったい何様だ?」



 怒りに都牟刈を握る手に力が入る。



「俺に吠えるより、この俺に喧嘩を売るという愚かな事をしでかしたテメェ自身を恨むんだな」



 俺は最後にそう言うと、岩突獣の首を思いっきり刎ね飛ばしたのだった。



 それから数分後────



 岩突獣を倒し返り血に塗れた状態で帰宅すると、玄関先にはパジャマに上着を羽織ったヨミの姿があった。


 彼女は俺を見るなり駆け寄ってこようとするも、未だ快調では無いのかよろけてしまう。


 俺はすかさず倒れそうになる彼女を抱きとめ、そして彼女が生きていることを確認するように抱きしめ、頭を撫でた。



「ごめんね……まだそんなに回復していないの」


「仕方ねぇよ、死にかけてたんだから。それよりも、あんまりくっつくと汚れるぞ?」


「ふふっ……確かに」



 〝でも、構わないわ〟……その言葉は発せられる事は無かったが、ヨミは血に塗れた俺の身体に更に密着する。


 俺が生きていることを確かめるように。


 その後、家から飛び出し駆け寄ってくるセインとイヴの姿を見ながら、俺は一気に脱力し情けない声でこう呟くのだった。



「あぁ……疲れた……」


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