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異世界転生の天人族《ハイランダー》〜異世界の山奥で悠々自適なスローライフ〜  作者: SIGMA・The・REVENANT
第一章・第三話:賑やかな日常
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かき氷と緊急事態

 春の陽気がだんだんと影を潜め、木々の新緑も更に若々しくなる。


 つまりは夏が来た!


 とは言ってもここは山奥なので麓の町と比べれば気温はそれ程暑くは無い。


 そもそも俺には〝即時環境適応〟というスキルがあり、暑かろうが寒かろうが普通にいる事が出来る。


 つまり俺には四季というものは何ら関係がない話というわけで……。


 しかし俺以外の三人はもれなく薄着となっており、正に夏を全身で感じているという感じだ。



「暑いですね〜……」


「溶けちゃいそうです……」


「本当に暑いわねぇ……そこにいる人が薄着になってくれると、少し涼しく感じるのだけれど」



 そう言って抗議の目を向けてくるヨミ。


 そんな事を言ってもスキルによる効果なのだから仕方がないと思うんよ?



「〝心頭滅却すれば火もまた涼し〟とも言うだろ?」


「それは貴方の故郷での話でしょ。暑い時は暑い、寒い時は寒い、だから普通はその季節に合った服装をするのよ」



 ド正論ですな、これは。


 ヨミからしてみれば夏だと言うのに服装が変わらない俺は、相当変わっている人間なのだろう。


 しかしこのままうだられていられては稽古どころでは無いので、何かしらの対策は整えておくことにしよう。


 前世でも熱中症や日射病はかなり危険視されていたしな。


 なので俺はキッチンへと向かい、イチゴ、砂糖、そしてレモンを三人分用意し始めた。



「何を作るの?」


「ん〜?夏に食べると美味いもの」


「それは楽しみだわ」



 ヨミは俺が作った前世での料理を食べてからと言うものの、すっかりそれの虜になっていた。


 前にフレンチトーストを作ってやったら夢中で食べてたっけな。


 さて……先ずはレモンを搾りレモン汁を作り、その後に耐熱容器にイチゴ、砂糖、レモン汁を入れひたすら混ぜる。


 その後に混ぜたものに熱を与え加熱し、更に混ぜる。


 また加熱して、今度は粗熱が取れるまで混ぜる。


 それを終えたら10分間冷やして完成。


 そう……今作っていたのは夏の風物詩であるかき氷用のシロップである。


 ヨミ、セイン、イヴが見ている中、今度は魔法で氷塊を生み出し、風の魔法でそれを刻んでゆく。


 その際に、ただ乱雑に刻むのでは無く、薄くスライスするように刻んでゆくのが肝である。


 刻まれた氷は先に用意していた三人分のガラス小鉢へと均等に振り分けられていった。


 最後に小鉢に山盛りになった氷の上に先程作ったシロップをかけてやれば、俺お手製の〝イチゴのかき氷〟の完成だ。



「出来たの?」


「出来たが、まぁまだもうちょい待ってろ」



 俺はそう言うと今度は桶を三つ用意し、そこに魔法で水を張り更に小さな氷を入れて少しだけ冷やす。


 それを終えてから三人に声をかけた。



「お前らこっちに来てみろ」


「「「……?」」」



 疑問符を浮かべながら俺の所へと来た三人は氷水が張られた桶とかき氷を見つめている。



「先ずは裸足になってこの桶の中に入れてみろ」



 俺に促され裸足になって桶に足を入れる三人。


 その冷たさに驚いていたものの、それだけでも涼んだのかそのままくつろぎ始める。



「はい、次にこれを食べな」



 そう言って三人にかき氷とスプーンを手渡す。


 それぞれに一口食べた三人はその美味しさに幸福感を顕にしていた。



「「「美味しい!!」」」


「そうかそうか、そいつァ良かった。そいつは〝かき氷〟って言ってな、夏には欠かせない食べ物だ。くれぐれも注意しとくが、決してがっついたりするなよ?」



 などと言った矢先から三人はがっつき、かき氷特有のあの〝キーン〟という痛みに悶絶していた。


 何やってんだか……。



「でも、これだと外も中も涼しくなりますね!」



 セインが頭を抑えながらもそう言った。


 今度は風鈴を作って引っ掛けとくのもいいかもしれない。


 味で涼しみ、体で涼しみ、そして音で涼しむ……うむ、日本特有の風情と言うものだな。


 夏の間は毎日こうしてやってもいいかもしれないな。



「冷たい水桶。冷たくて美味しいかき氷。これは身も引き締まるわね」


「暑さも吹き飛びそうです!」


「この夏は頑張れそうですねっ!」


「じゃあ稽古始めるか?」


「「「もう少しだけ、こうしてたい……」」」


「だらけんのかい」



 前言撤回……今後は週に一回ほどにしておこう。






 ────────────────────────






 その日の午後は更に気温が高くなったが、俺達は構わず稽古へと勤しんでいた。


 今日は俺が二人の相手をする番であり、セインの攻撃に対処しながらもたまにイヴへと攻撃をする。


 この数日で二人の動きはだいぶ洗練されてきていた。


 セインが俺を相手にしている間にイヴが支援魔法を放ち、俺がイヴを攻撃するとすかさずセインがイヴを守る。


 またイヴも支援魔法だけでなく攻撃魔法で俺に攻撃するようにもなった。


 しかもその間はセインが防御に徹するという切り替えの速さが抜群に上がっている。


 ふむ……そろそろ二人には魔物、もしくは魔獣と戦わせてもいいかもしれない。


 とは言ってもまだ下級相手になるだろうが……。


 そんな矢先、不意に山が騒がしいような気がして動きを止める。



「どうかしましたか?」


「いや……ちょっとな」



 空を見てみれば、それまでは知らなかったがカラスを始めとした山の鳥達が飛び回っている。


 セインとイヴもそれを見て目を丸くしていた。


 そのタイミングで家の中にいたヨミが駆け寄ってくる。



「タケル!凄い数の鳥達が……」


「あぁ、こっちも今気づいた」



 ギャアギャアと鳴き続けるカラス達……三人には聞こえないが、唯一言葉が聞き取れる俺にはカラス達が何を言っているのかが分かった。



『奴ガ来ル!』


『逃ゲロ!逃ゲロ!』


(奴……?逃げろ……?いったい何から逃げて……────っ!)



 そこで俺は危険な気配を感じそちらへと顔を向ける。


 どうやらヨミも感じ取ったようで俺と同じ方向を目視していた。


 するとバキッバキッという草根を掻き分け踏み歩く音が聞こえたかと思うと、そこから身体が岩に覆われた一本角の獣が姿を現した。



「ジ……〝岩突獣(ジャガーノート)〟……しかも〝一角犀(モノホーン)〟……」



 顔を引き攣らせながらそんな言葉を零すヨミ。


 俺から見れば完全にサイなのだが、この世界の住人である彼女から見れば奴は相当ヤバい魔獣なのだろう。


 その岩突獣は完全にこちらを見据えており、鼻息を荒らげながら後ろ足をその場で数回蹴り上げている。


 明らかに突撃してくるつもりなのだろう。


 俺は三人を守るように前へと出ると、都牟刈を鞘へと納め居合の構えをとる。



「タケル、相手はS級の魔獣よ!いくら貴方でも無茶よ!!」


「ここで逃げたところで無事じゃ済まねぇだろ。どうせ無事で済まねぇのなら、せめてお前ら三人は守り抜いた方がなんぼかマシだ」



 突撃をしてくる岩突獣……俺は絶好のタイミングで都牟刈を抜き放ち、奴の角を斬り飛ばすつもりで振り抜いた。


 だが……。



 ガキンッ────



「────っ!」



 なんと、奴の角は俺の都牟刈を受け止め、それどころか奴の突進力の強さに俺は五歩後ろへと押し返されてしまった。


 なんとか五歩後ろくらいで耐えたが、どうにも予想よりヤバい状況だな……何せ奴の突進力が強すぎてここから動くことが出来ねぇ。



「ヨミ!二人を安全な場所に連れてけ!」


「タケルは?!」


「この状況で俺が動けると思うか?いいからさっさと行け!」


「わ、分かった!」


「タケルさん!僕も────」


「来るんじゃねぇ!」


「どうしてですか?!」


「ヨミの話を聞いてなかったのか!コイツぁS級の魔獣だ……お前らが相手するにはまだ早すぎる!だからさっさとヨミと一緒に避難しろ!」



 セインはどうしても俺の援護に来たがっていたが、ヨミに引きずられるようにして安全な場所へと連れていかれる。


 俺はそれを見送ったあと、目の前の岩突獣に向かってこう言った。



「テメェ……相当な力自慢らしいが、この俺と敵対した事を後悔させてやるよ」



 状況は劣勢……しかし俺の後ろにはヨミ達がいる。


 俺はこの状況に苦い顔をしながらも、必ずコイツを倒す事を決意したのだった。


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