武器の作成と兄妹について
数日が経ち、セインの動きはだいぶマシになってきた。
なので今日から実戦形式での稽古へと入る。
とは言ってもいつものように俺とだと変化が無いので、今日はヨミにセインの相手をして貰っている。
では俺は何をしているのか?
俺は今、ヨミを相手にしているセインとイヴの動きを見ながら、あいつらの為に武器と杖を作っていた。
今回の〝ヨミVSセイン、イヴ〟の一対二形式にしたのは、二人の連携やパーティーを組んだ際の立ち回りについて学んでもらう為だ。
セインが前衛、イヴが後方支援というスタンダードな役割をしているが、やはりまだ上手く連携が取れていない。
それとヨミ……いきなり後方支援役であるイヴを狙い続けるスタンスを取るな。
流石に二人が可哀想だ。
「ちょっと休憩にするわね?」
「「はぁい……」」
息すらあがっていないヨミに対し、ヘトヘトでその場に座り込んでしまうセインとイヴ。
まぁヨミはクビになる前はS級冒険者だったそうなので、それを相手にするのは大変か。
「お前、容赦ねぇのな?」
「知らないの?本気の戦闘は日々の鍛錬よりも強くなれるのよ?」
「だとしてもセインは振り回されてただけだろう……初日からこれじゃあ二人にはキツすぎるってーの」
「あら?貴方にしては随分と優しいじゃない?」
「何事にも段階ってのがあるんだよ。ただ疲れるだけの訓練じゃ、得られるのは体力だけだ」
「私を鍛えてくれた人からは〝習うより慣れろ〟って教わったけれど」
「よし、そいつにゲンコツくらわせてやる」
大切なのは数よりも質なのだ。
丁寧に教えてやればそれだけ早く学習するし、後々自ら工夫する事が出来るしな。
「人にものを教えるって難しいのね」
「それだけでも理解してくれたのなら十分だよ」
さて……お喋りはここまでにして、さっさと二人専用の武器を作ってやるとしよう。
今回はまだ子供である二人でも十分に使いやすいものを作ることにしている。
もし二人がここを去る時には、餞別としてまた新たに作ってやることにしよう。
先ずはセインの剣からだ。
イヴに買いに行ってもらった剣の樋部分に全世界知識で調べた精霊文字を彫り込んでゆく。
そして鍔に穴を開けそこに球体に加工した魔石をはめ込む。
こうする事でセインが魔力を込めれば魔石を通じてこの精霊文字に流し込まれ、セインが使用した魔法をスムーズに剣に纏わせる事が出来る。
また、もし剣を奪われたとしても他の奴に使われないようにする為、〝拒絶〟の魔法も細工しておく。
こうすればセイン以外の奴がこの剣を使おうとしても、何かしらの拒絶反応が出る仕組みだ。
この細工はイヴの杖にも施しておく。
一方、そのイヴ専用の杖には前日にユグドラシルから譲り受けた〝宿り木〟という木の枝を加工し、ここにも精霊文字と魔石を施す。
〝聖女〟という事で杖のデザインは十字架にしておいた。
一応、ヨミに完成した剣と杖を確認してもらう。
「う〜ん……上級寄りの中級武器と言ったところかしらね」
良かった……これでまた〝伝説級〟であったら、またヨミからお小言を食らう羽目になっていたかもしれん。
そう心の中でホッと胸を撫で下ろす俺にヨミがこんな事を聞いてくる。
「これは今すぐ渡すの?」
「いいや、まだ基礎の基礎も出来てねぇから、基礎が出来るようになってからだな。ゆくゆくは魔獣相手に戦って貰おうと思ってるし」
「魔獣を!!?」
〝魔獣〟という単語を出すやヨミが目をカッと開いて俺を見てくる。
そして烈火の如く俺に詰め寄り抗議をし始めた。
「本気?!あの子達はまだ子供よ!そんな危険な目に遭わせるなんてどういうつもりなの?!」
モンスターペアレントかコイツは?
まるで子を持つ母のように捲し立ててくるヨミに、俺は呆れながら諭し始める。
「お前なぁ……別に今日、明日って訳ねぇだろ。それにあの二人は今は子供でも将来の勇者と聖女だ。必ず魔獣や魔物と戦うことになる。もちろん魔族ともな。旅に出たら俺達はもう手助けなんて出来やしねぇんだぞ?テメェの身はテメェで守るしか無くなるんだよ。お前だってそうだったろ?」
「うっ……確かに……それはそう……だけど……」
チラチラとセインとイヴを見ながら何とかして反論しようとしているヨミだったが、どうやら言葉は見つからなかったようだ。
〝あ〜〟とか〝う〜〟とか言ったあと、それから何かを言うことは無かった。
「分かるよ?お前の言いたいことも。我が子のようなアイツらに危険な目に自ら飛び込んで行って欲しくない……だがなっちまったもんは俺達じゃどうやっても覆らねぇ。それはアイツら自身も覚悟してるはずだ」
「でも……」
「はぁ〜……あのな?俺達に出来ることは、せめてアイツらが無事でいられるように今のうちから出来る限り手助けしてやる事なんだよ。そして勇者と聖女として旅立つ時に背中を押してやることだ」
「……」
俺の話に悲しい顔で二人を見つめるヨミ。
しかしたった数日でここまで情が移るとは……いや、それは俺もだな。
俺もアイツらを危険な目に遭わせたくはないし、今も年頃のように友人達と遊び回り、馬鹿なことをして楽しい毎日を送ってほしいとも思っている。
まぁ……それは叶わぬ願望なのだろうがな。
「ヨミさん!また稽古の続きお願いします!」
「呼んでるぞ?」
「うん……行ってくるわ」
二人に呼ばれそちらへと向かうヨミ。
俺はそんな彼女の事を見送りながら、セインとイヴの将来について考え込むのであった。




