ボーガンを作る
湖の最高位精霊ヴィヴィアンと出会った翌日の事、俺は自身の弓に改造を施していた。
理由はこの弓をヨミ専用にする為だ。
彼女は弓の使い手だという話を聞いた俺だが、しかし天照大神から貰った矢筒と同じ物を作ろうとして、それが不可能だと知った。
全世界知識を用いてでもこの矢筒の仕組みを解析することが出来なかったのである。
しかし矢というものは消耗品……まさか戦闘中に矢を回収するなんて事は出来ようもなく、完全に行き詰まっていた俺はヨミが自ら魔法が使えるという話を聞いていたのを思い出した。
なのでこの弓の強度を高め、魔石を装着し、また〝付与魔法〟で様々な効果を付け足してゆく。
付与するのは〝具現〟に〝錬成〟、〝射撃〟、それに〝命中率上昇〟に〝魔力高速伝達〟も付与。
これにより矢を用いらず、ヨミの魔法が矢の形となって放たれるようになるのである。
しかも〝魔力高速伝達〟によりスムーズに魔力を流し込む事が可能で、〝命中率上昇〟もつけているので精度が上がるようになる。
それに魔石に〝装弾〟という魔法を付与しているので、ここに魔法の矢をストックし、一気に放つことが出来るのである。
我ながらかなりの弓が出来上がったのではなかろうか?
これをヨミに渡したら、彼女はその弓を凝視しながら〝伝説級武器……〟と呟いていた。
その際に弓を持つ手が震えていたように見えたのは気のせいだろうか?
さて……ヨミ専用の弓を作り終えたら、今度は俺専用の弓を作る。
しかしただの弓では面白くないので、思い切ってボーガンを作ることにした。
弓部分から槓杆部や引き金までを一から作る事になるので大変ではあるが、いざ完成した時の事を思い浮かべると不思議とやる気が沸き起こってきた。
時が経つのも忘れて、夢中でボーガンの制作に励んでいると、突然頬に冷たい感触が走る。
そちらに顔を向けてみると冷えた麦茶が入ったコップがあり、それはヨミが持ってきたものだと知る。
「いくら呼んでも反応が無かったから、それ程までに集中してたのね?でもそろそろお昼の時間よ?」
「うぉ?!もうそんな時間だったのか」
「本当に、余程集中してたのね」
困った感じで微笑むヨミに、俺は恥ずかしげに頬をかいた。
「それにしても今度は何を作ってるの?まさかまたあんなに凄い弓と同じようなものじゃないでしょうね?」
「ただのボーガンだよ」
「ボーガン……でも貴方が〝ただの〟ってつけると、どうしても信用出来ないわね」
「なんでだよ?本当に普通のボーガンだから信用も何もないだろ?」
「さっき作った弓を見てからもう一度言って欲しいわね……」
いや、まぁ……確かにヨミの弓は気合い入れ過ぎて作ったけどさぁ、それはヨミ専用だからで、ボーガンに関してはそこまで気合いを入れてはいない……つもりだ……たぶん……。
「目が泳いでるわよ?」
「うるせぇな。それよりも早く昼飯作ろうぜ?」
「もう出来てるわよ。ずっと〝お昼はどっち作る?〟って聞いても何も答えないんだもの。痺れを切らして作ってしまったわ」
「マジか、すまん!」
「いいわよ別に。料理するの好きだし、なんならこれからずっと作ってあげるわよ」
「なんかプロポーズの言葉みてぇだな」
ボソッとそう呟いたその言葉が聞こえてしまっていたのか、ヨミは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
「そんな事を言う人にはあげません」
「げっ……勘弁してくれ」
「ふーんだ」
「本当に悪かったよ。だから機嫌直してくれ」
「ム〜……まぁいいわ。それじゃあ食べましょうか?」
「そうだな」
本当に前世では無かったやり取り。
二人で席についた横では、ウォルフが〝犬どころか狼さえも食えんな〟と言っていたが、それは無視することにしたのだった。
そして昼食を取り、軽く休んだ後に制作の再開。
一気に仕上げへと入り、試行錯誤の末ようやくボーガンが完成した。
一応、魔石も使い〝飛距離強化〟と〝螺旋回転〟を付与。
ちなみに偶然知ったのだが、俺がそのようなボーガンを作った際に、矢筒の中の矢の鏃がドリルのように螺旋を描いていた。
完成したボーガンと矢筒を手に外へと出て試し撃ちしてみると、巨大な大木を易々と貫通した。
その事に目が飛び出るほど驚き、横で見ていたヨミは口をあんぐりさせていた。
「タケル……貴方はいったい何と戦うためにそれを作ったの?」
「俺も分からなくなってきた……」
結論……このボーガンはヤバい。
こいつは本当にもしもの際にしか使うまいと、心に誓ったのだった。
まぁ都牟刈もヤバいっちゃヤバい代物だけどな。
とりあえずは遠距離用武器が出来たという事で良しとしておこう。
ちなみに貫通していった矢が、後に家から数キロ先で見つかったのは別の話である。




