訪れし者達・その2
「そういえばタケルの職業って何なの?」
「職業?」
七大最高位精霊達が来た翌日、ヨミがいきなりそんな事を聞いてきた。
この世界での〝職業〟とは、前世での仕事の種類という意味ではなく、役職的な意味を持っている。
確か俺の職業は〝隠者〟だったが、それを答える前にヨミが自分の職業を話し始める。
「ちなみに私は〝戦乙女〟よ。世界に13種類しかない〝特殊職〟の一つなの」
ヨミ曰く〝特殊職〟とは、その他の職業の特性を兼ね備えた職業なのだそうだ。
例えば彼女の〝戦乙女〟は剣士や槍士、弓士、そして魔導師の特性があり、その他には聖騎士や盾士などの特性を兼ね備えた〝守護騎士〟などがあるらしい。
となると俺の〝隠者〟はどういった職業なのか……全世界知識で調べてみると、なんと〝隠者〟も特殊職の一つで、暗殺者や精霊術師、魔導師、賢者などといった職業の特性を兼ね備えているらしい。
もしかしたら精霊に好かれるのはこれも要因の一つなのかもしれないな。
「そうなのか。俺は〝隠者〟だな」
「貴方も特殊職なの?!まさかここに二人の特殊職持ちがいるなんて凄い偶然ね」
「そんなに珍しいことなのか?」
「だって世界中でたった13人しかいない職業よ?同じ場所にいるなんて世界がひっくり返るくらいの事なんだから」
ヨミの話を聞くとそれは良い事なのかと不安に思ってしまう。
何か良くないことが起きたりとかしないよな?
「でもそうするととても納得するわ。どうりで気配を消すのが上手だったり、姿を消したりする事が出来るのは当然ね」
「なるほど……それらのスキルは隠者の職業によるものか」
「そうね。何かしらの職業になると、それに関するスキルを得るものなのよ。けれど……」
「けれど?」
途端に何やら考え込むヨミ。
俺が訝しげに訊ねると、彼女は俺の職業についてこんな話を聞かせてくれた。
「最後に隠者の職業に就いた人は、およそ300年も前だと聞いているわ。それ以降は隠者の職業持ちの人は現れてないの。だから貴方の存在を知ったら世界各国のトップがこぞって貴方を勧誘しに来ると思うわ」
「うげ……」
考えただけでも面倒な話である。
せっかくのスローライフなのに、政府のいざこざに巻き込まれるのだけは勘弁したい。
「そんなに見なくても言わないわよ。はぁ……まったく、天人族で隠者だなんて、数千年に一度の逸材よ貴方」
「俺もまさか自分自身がそんな稀少な存在だという自覚は無かったな」
「そうね……しかも七大最高位精霊と契約もしているのだから尚更よ。もしこの事が知られたら貴方、たぶん勇者パーティーに参加させられるわね」
「めんどくせぇ〜……」
まったく、天照大神はとんだ存在に転生させてくれたものだ。
まぁしかし、自ら口にしなければ何も起きないだろうしな……うん、口は災いの元と言うし、余計なことは言わないでおこう。
俺はそういう事にして、決して自らの口では明かすまいと心に誓ったのだった。
しかし〝人の口に戸は立てられない〟とはよく言うもので、俺はこの後にその事を痛いほど分からせられる事となる。
と言うのも、問題が向こうの方からやって来たのである。
その日の午後にヨミとティータイムをしてくつろいでいたところ、不意に玄関につけられていた呼び鈴が鳴り響く。
出てみるとそこには二人の子供が立っていた。
二人は俺を見るや否や────
「は、初めまして!僕はセイン・ノストラーダと申します!今代の勇者です!」
「わ、私はその妹のイヴ・ノストラーダです!今代の聖女です!」
などと言い放ったので、俺はヨミに顔を向けて確認してみる。
すると彼女は、それこそ言葉にはしていたなかったが、何度も頷いていたので二人の言っている事は確かなようだった。
しかしなんたって勇者と聖女がこんな所に……。
「もしかしてタケル・ヤマトさんですか?僕達は女神アルテラ様と湖の精霊ヴィヴィアン様のお導きでここに来ました!」
「お二人からここに来たら強くなれると教わりまして……」
導かれちゃったかぁ、教わっちゃったかぁ……。
俺はヴィヴィアンと、まだ会ったことの無いアルテラという女神にゲンコツをお見舞いしてやりたい衝動に駆られる。
いや、ヴィヴィアンに関してはゲンコツ一発くらい落としても、こちらに非は無いのではないか?
「「これから、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします!!」」
セインとイヴの兄妹は俺に教わる気満々で、あまりにも目を輝かせているものだから断り難い。
ヨミに助けを求めてみるも、〝諦めなさい〟とでも言うように首を横に振られてしまった。
いや、別にいいんだけどさぁ……俺は今までで誰かに師事した経験は無い。
友人で少年野球チームのコーチをしていた奴もいたが、本人曰く人にものを教えるというのはかなり大変らしい。
どうすれば成長出来るのか?
直ぐ理解して貰えるよう、どのように分かりやすく説明するのか?
常にその事を意識して教え子達と向き合わなければならないのだと、飲みに行った際に聞いた話を脳内で思い返す。
叱咤激励────褒めたり叱ったりするタイミングも重要だとも言ってたっけな。
(あ〜……めんどくせぇ……)
そんな事を思ってみるも、もうどうにもならない状況である事は悟っている。
しかし面倒なものは面倒なのだ。
それに考えてもみろ?
もし上手く教えることか出来たとして、この兄妹は必ず俺の事を他の者達に話すだろう。
〝自分達は山奥に住むタケル・ヤマトという人物のお陰で強くなれた〟と……。
そうするとどうなるか予想するまでもない。
俺の元には強くなりたいと思っている者達が押し寄せて来る事だろう。
精霊達と同じ状況に陥るのだ。
なので一番ベストな流れとしては、この兄妹には諦めて貰って、他の奴に教えを乞うた方が良い。
しかしなぁ……こんなにも目を輝かせている子供の悲しい顔は見たくないのが人情というものである。
俺は煮詰まった頭を掻きむしり、大きなため息をついて覚悟を決めた。
「はぁ〜〜〜〜……分かったよ……だが、俺の指導は厳しいものだと思え。甘っちょろい考えなんて今この場で捨てることだ」
「はい!よろしくお願いします!!」
「どんなに厳しい修行でも頑張ってついて行きます!」
横でヨミが〝やれやれ〟という顔をして俺を見ている中、俺はこの兄妹の為のトレーニングメニューについて考えるのであった。




