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6 特別な力の秘密

 6 特別な力の秘密



 試験当日。水谷は精神を病んでしまい、学校を休んでいる為、鏡夜は一人で学校を目指していた。

 商店街を歩く足取りはかなり重い。鏡夜は前日、血反吐を吐く程、机に噛り付いて勉強した。

 それでも勉強内容が頭に入ってこなかった。あれだけ勉強を重ねたのに身に付かないのだ。

 元々、持ち得るスペックと潜在能力が低いのであろう。

 それでも鏡夜は真面目に十時間勉強した。それでも報われないのは分かっていた。

 だけど、鏡夜は諦めなかった。余りの才覚の無さに何度も挫けそうになった。

 しかし、鏡夜は日々、努力を重ねている。糧になるのを信じて。


 ――報われるとかそういう話ではない。


 そうだ。報われるとかの話しではないのだ。

 少しでも大事な妹たちを守れる力が身に付くのならば、努力は決して惜しまない。

 守る者がいるだけ自分は幸せ者なのだ。彼らを守るのに全力を捧げるだけだ。

 全身全霊……それを旗印に掲げる鏡夜の意志は誰よりも強く、強固なものだった。

 対する天才の妹は、イケメン彼氏の新九郎とデートと言う余裕ぶりである。

 本来ならば、嫉妬心を煽られる妹の行為であるが、それよりも心配の方が強かった。

 鏡花の特別な力は何か大きな代償があるのでは、と言うのが兄、鏡夜の読みだ。

 鏡夜の鋭い読みは大概当たる。そう、鏡夜に才覚はまるでないが、読みだけは抜群に優れているのだ。


 ――ならば、不本意だが奴と接触するしかあるまい。


 卓越した読みで鏡花の力の代償があるのに気付いた鏡夜はとある人物と接触する事にした。

 しかし、今日は試験日で学校全体が、殺伐とした様相を呈している。

 その人物は鏡夜の一学年下の後輩で、軍略ゲーム部の部長……その名は霊王院才れいおういんさい

 何でも、闇払い師と言う、御祓いを生業とした特殊極まりない家系に生まれた少女。

 鏡夜は鋭い読みを持つことから、彼女に軍略ゲーム部に入らないかと誘われていたが断ってきた。

 バスケ部の控えのシューティングガードを務める鏡夜。彼は何よりもバスケが好きなのだ。

 鏡花の身を案じながらも当日の試験を終えた鏡夜は理科室の隣にある部室を訪ねた。

 バスケ部の練習があるが、少し遅れても構わない……大事な妹の為ならば。

 部室の中は薄暗く閑散としていた。窓も締め切っており、陰鬱とした空気を漂わせている。

 それに何より、部員がいない。軍略ゲームが、流行っていないことを端的に表していた。


「才、君に相談したいことがある。聞いてくれるか?」


 鏡夜はテーブルと椅子に腰かけて、無表情で何やら駒を動かしている才に視線を向けた。

 長い黒髪を後ろで結んだ長身の少女……彼女が霊王院才。闇払い師の卵か。


「貴方が来ると分かっていました。他でもない、妹君である鏡花様の事ですね?」


「ああ、俺の読みでは鏡花には闇の力が宿っている。それを祓ってほしい」


 鏡夜は一つ下の後輩に深く頭を下げた。果たして彼女は協力してくれるだろうか。

 何か交換条件みたいなのを提示してくる可能性があった。

 霊王院才……この少女は何処となく不気味だ。年相応の少女に見えない。


「流石は鏡夜様……卓越した読みは衰えてはいないようですね。

 確かに鏡花様は闇の力が宿っている。他者の心を読み、記憶すらも解析する『闇の女神』が。

 私も鏡花様の闇の女神を祓う機会を伺っていましたが、中々機会が巡っては来なかった」


 才は無表情で淡々と述べる。少女の語り口が、不気味だ。

 やはり、闇払い師と言う特異な家系に生まれたが故のものだろうか。

 しかし、才は協力してくれるような口振りである。鏡夜は心の中でガッツポーズをした。


「ならば、協力をお願いしたい。鏡花の特別な力を無くさなければ……」


「貴方の懸念通り、闇の力は強力……故に大きな代償があるのです。

 闇の女神は鏡花様に特別な力を授けた代わりに生命エネルギーを吸い取っている。

 鏡花様はこのままでは恐らく長くはもたないでしょう」


 才の言葉に鏡夜は絶句する。やはり、恐れていた通りであった。

 鏡花は最近、体調を崩し、体力も低下傾向にある。一番身近な兄であるから分かる事だ。

 ならば、一刻を争う。鏡花に宿る闇の女神とやらを祓わなければ……。


「才、君が頼りだ。妹を救うのに力を貸して欲しい」


 鏡夜は唯一人の妹の為に目の前の少女に頭を下げた。

 上級生が下級生に頭を下げる。上級生の威厳が損なわれる行為であるが、他でもない妹の為だ。

 妹を救えるためならば、幾らでも頭を下げよう。


「良いでしょう……力をお貸しします。ですが一つ条件と言うとおかしいですけど」


 案の定、才は条件を提示する構えを見せている。

 条件などどうでもいい、妹を救えるのならば可能な限り叶えよう。

 一刻を争うのだ。妹は試験後に体調を崩す。試験が終わった今、妹の安否が心配だ。


「何が望みだ。可能な限り、何でも望みは叶えよう。言ってみるがいい」


 真剣な面持ちで鏡夜が言うと、才は立ち上がり、鏡夜の胸に飛び込んだ。

 唖然呆然とする鏡夜……しかし、何処か愛おしい彼女を優しく受け止めた。


「鏡夜様……貴方の抜群の読みの鋭さに惚れました。

 貴方は自分を卑下し、日頃から凡庸だと思っていますが、その抜群の読みは天性のものです。

 生まれる時代が、幾百年前ならば優れた軍師となるでしょう」


 才は手放しで鏡夜を褒め称えた。初めてだった。ここまで敬意を表されるのは。

 鏡夜は周囲から、そして両親からも凡庸なのを咎められ、苦い思いをしてきた。

 自分の余りの才覚の無さに鏡夜は絶望を噛み締めるように生きてきた。

 それでも努力は怠らなかった。試験前は十時間勉強を費やした。

 でも、勉強した内容が頭に入ってこず、今回も赤点は免れない程に凡庸であった。

 そんな自分を目の前の少女は……それを想い、鏡夜は突如として目頭が熱くなった。

 自分を評価している人間も少なからずいる事に鏡夜は涙せずにはいられなかった。


「才、ありがとう……妹を救うのに協力してくれて」


「はい、鏡花様を一刻も早くお救いしなければ」


「ああ」


 心強い味方を得た鏡夜は必ず鏡花を救うと誓い、才と共に軍略ゲーム部を後にした。

読んでくださり誠にありがとうございます。

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