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4 鏡花の秘密

 4 鏡花の秘密



 その日の夜、鏡夜は妹の部屋をノックした。今日こそ妹の不正を暴く時だ。

 暫くして、鏡花の入ってもいいとの声を聴き、鏡夜は意を決して中へと入った。

 鏡花の部屋は大量のぬいぐるみに囲われた典型的な女の子の部屋だ。

 部屋だけ見ても特に不自然な点は見当たらない。幾ら天才でも女の子なのだなと鏡夜は思った。


「兄さん、今日の事は残念だったね。それで話したいことって何?」


 鏡花はぬいぐるみの一つを抱きながら、少し動揺している。

 無理もない、実の兄から疑いの目を向けられているからだ。

 秘密を抱えているならば尚更だった。やはり、鏡花は何かを隠している。


「ああ、他でもない、お前の才覚についてだ。

 兄として長年、お前を見てきたが、その才覚の秘密が掴めなかった。

 だが、遂に謎が解けた。単刀直入に言う……鏡花、お前は相手の心を読んだり、記憶を解析することが出来る」


 鏡夜は遂に妹に長年、彼女を疑っていたことを吐露した。

 そして妹の才覚の秘密を解いたことを。鏡花は兄から疑いの目を向けられて激しく動揺している。

 しかし、妙だ。相手の心や記憶を覗く力を持つならば、鏡花は兄が疑っていることを見抜けるはず……。


「ついに兄さんは気付いてしまったのね。

 ええ、そうよ。私は相手の心と記憶を覗くことが出来るの。

 兄さんが、私を疑っていることに気付かなかったのは、慕っている兄さんの心は覗きたくなかったの。

 でも、その秘密を解いた所でどうするつもり? 私の才覚を奪うことが出来る訳でもないし」


 鏡花は開き直って、鏡夜に真実を述べた。遂に妹が認めたことに鏡夜は安堵した。

 しかし、この妹は兄、鏡夜を慕っているのは本当のようだった。

 自分の心は覗かれていないことに鏡夜は幾許かの安堵を覚える。

 だが、鏡夜の狙いはその先にあった。鏡花の持つ心を覗く力を無力化しなければ……。

 これまでに何百人の心が覗かれてきたというのだ。

 鏡花の機嫌が悪ければ、自分の心とて危うい。心や記憶を覗く力は危険だ。


「鏡花、その力は危険だ! もう他者の心を覗くのは止めろ!」


 鏡夜は力の危険性に言及する。しかし、妹は無邪気に微笑み、


「嫌よ、この力は素晴らしい力だわ! 相手の心が全て分かるのよ!

 そして相手の記憶を解析すれば、学校の試験だって、無勉強で学年一位を取れるの!

 これからも相手の心を容赦なく覗くの! 全ての愚民共はこの究極の力に首を垂れる!」


 心を覗く力をこれからも行使する事を宣言する鏡花。

 そして鏡花の左の薄い桃色の瞳が妖しく光る。鏡夜は突如として悪寒を覚える。

 鏡花の眼が、自分の心を覗いている感覚が芽生え、鏡夜は怯える。

 これが、心を覗かれた者の末路か……鏡花には絶対に知られたくない黒歴史も全て覗かれてしまった。

 鏡夜は妹が心底から恐ろしくなった。この力で鏡夜の一挙手一投足が丸わかりなのか。


「初めて本気で兄さんの心を覗いたけど、兄さんって、結構考える性格なのね。

 思考が深すぎる……何事においても考えすぎて疲れてしまう癖があるわね。

 それにとっても仲間想い……あれだけの悪事を働いた水谷先輩の身を心の底から案じている。

 正義感も人一倍強い。後、身長が低い事で悩んでいるのね。

 兄さんの身長は172cm……もう少し欲しいわね。まあ、私も身長が低いから何とも言えないけど」


 鏡花はやはり、心を読んでいた。心を全て見透かされて鏡夜は絶句する。

 覗かれた……絶対に知られてはならない事まで全てを妹に暴かれてしまった。

 そして身長が低いことで悩んでいるのが妹に知られてしまった。

 海外製の身長サプリを大量に飲んでいるのも全部お見通しという訳だ。


「止めろ! 俺の黒歴史を見るなーッ!」


 鏡夜は堪らなくなって叫んだ。鏡花は相も関わらず無邪気に微笑んでいる。


「全部見てしまったの、兄さんの全てを……」


 鏡花が満足したように言った後、弾かれたように鏡夜は自室へと戻り、悶々と項垂れていた。

 何とかして鏡花の力を無くさないと、これからも犠牲者が増えていく。

 それに兄として妹の不正を許しておくことは出来ない。それは兄としての務めだ。

 鏡夜は、心を覗かれた事で気分を悪くしてしまい、そのまま深き眠りについた。

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