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2 妹の天才性

 2 妹の天才性



 兄妹は部屋の一室で、火花を散らしていた。やっているのは今時のテレビゲームではなくオセロだ。

 家は余り裕福ではなく、テレビゲームなど持ってはいない。意外と貧しいのだ。

 そこで鏡夜は愕然と項垂れていた。オセロの盤面は全て黒で埋め尽くされている。

 妹の鏡花の完全勝利。妹は大天才に相違ない。妹は全ての返しのパターンを全て頭に入れている。

 それ故に、鏡花に勝てるものなど存在しようが無いのだ。これが妹の天才性。

 鏡夜は末恐ろしくあった。ここまでの才覚の極致……最早、妹は神の領域に踏み込もうとしている。

 何故なのだ。何故、同じ兄弟でここまでの差が生じるというのだ。

 苦虫を噛み締めるのを堪えながら鏡夜は黒で埋め尽くされた盤面を見て蒼白の表情を浮かべる。

 対する妹は無邪気に微笑んでいる。何なのだ。この余裕は……同じ兄妹でもここまで優劣が付こうとは。


「鏡花……お前は天才の中の天才だ」


 素直に妹を賞賛した。妹は将来、歴史に名を残すことになるであろう。

 それは確実に起こる。妹は天才の枠を超え、傑物に相違ない。

 正に天に寵愛された一握り中の一撮みの存在だと認める他なかった。


「そうよ。私は天才……私より優れた人間などいないわ。神に愛された至高の存在よ」


 鏡花の左の薄い桃色の瞳が妖しく光、一瞬、鏡夜は自分の心が覗かれたような感覚に苛まれる。

 妹の眼が、自分の心の内を読む……いや、覗いている。

 途轍もない嫌な感覚だった。妹が恐ろしくなってしまった。これは妹の天才性と関連があるのか。

 まだ確証はないが、妹は心の内を読めるのではないか。

 その可能性に鏡夜は気付き始めた。だが、確証が無いのであくまでも憶測にすぎない。

 もし、この妹の持つ才覚が、相手の心を覗く力だとしたら、明らかに不正だ。

 何故なら鏡花自身の努力の成果では無いからだ。特別な能力に頼り切っていたことになる。

 当然、許されるわけがない。兄として妹を正しい道へと進ませなければならない。


「鏡花、お前はその才覚を使って何を成し遂げる?」


 毅然とした態度で鏡花を問い詰める。鏡花は兄の突然の質問にも全く驚いていない。

 まるで、その質問を待っていましたとばかりに耳を傾けている。


「日本のトップに立って、兄さんに楽をさせてあげたいから、才覚は思う存分使うわ」


 妹は無邪気な笑みを浮かべて平然と言った。鏡花は思いの外、兄想いであった。

 それはそれで嬉しいが、こんな小娘が日本のトップに立つ。到底理解が出来なかった。

 確かに鏡花は天才。総理大臣など最年少で成れるポテンシャルを秘めている。


「そうか。兄としてお前が誇らしくなるよ」


 気付いた時には鏡夜は偽りの言葉を選んではいた。全く、誇らしくなどない。

 精一杯頑張っている自分より、イケメン彼氏とデートし放題の怠惰な妹など必要ない。

 明らかに鏡花は不正をしている。しかし、その手段が分からないのだ。


「兄さん、今日は有難う。天才の私のサンドバッグになってくれて」


 鏡花はオセロの結果に満足したような言い回しで無邪気に言った。

 鏡夜は深く追求するのをやめて、自分の部屋に戻った。

 妹は何か重大な不正をしている。その根拠がもう一つ、鏡花は運動が苦手。

 真の天才ならば運動など造作もない。それなのに鏡花は鈍臭い所がある。

 何故なのだろう。あれだけの天才なのに運動が苦手と言うのはあり得るのだろうか。

 否……ありえない。鏡花は絶対に不正をしている。

 妹が勉強をしている姿など、見たことが無いからだ。

 単に物覚えが良いのか、そんな筈はない。少しは誰でも予習はしているだろう。

 それに妹は試験の後に良く調子を崩す。それは顕著にみられる。


「鏡花は、心を覗く力を持っているかもしれない」


 自室でベッドにゴロンと横になりながら、結論を述べた。

 しかし、確証がない。証明など出来るのだろうか。だが、絶対に証拠を見つけなければ。

 一つの結論に達して、鏡夜は深く考えすぎて、疲れてそのまま目を閉じて寝てしまった。

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