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17 創造院(創造院一刀斎)

 17 創造院家(創造院一刀斎)



 東京の富裕層が集まる区画に日本の実質上の王族と言われる創造院家の邸宅がある。

 余りには華美な外観は他の富裕層とは一線を画する。

 屋敷の華美な装飾品と調度品が絶妙に配置されている書斎に白髪頭の一人の老人がゆったりとしたソファに座っていた。

 創造院家とは総資産五百兆円にも及び、政財界にも進出する程の超名門の貴族である。

 裏で日本を操っているために余り表ざたにされていない名家ではあるが、貴族中の貴族である。

 しかし、輝かしい栄光ばかりではなかった。一世代前に起きた御家騒動からの粛清。

 それは筆舌にし難い。多くの犠牲者が出た。創造院家の血が多く流れ、血脈が途切れる寸前となった。

 御家騒動を乗り切った老いた現当主は既に騒動で息子や娘を全員失っていた。

 しこたまこさえた血統書付きの子供たち……現当主創造院一刀斎そうぞういんいっとうさいは嘆き悲しんだ。

 だが、粛清を敢行した自分への負い目がありながら、血脈が途切れるのを不安に感じた一刀斎は、メイドに子を産ませた。

 一刀斎は再び、子を量産する為に創造院家に仕えるメイドを集めさせた。

 その中で顔が良いのを選び、新たな子を手に入れることが出来た。

 生まれてきたのは娘であった。それも只の娘ではない。闇の力を持って生まれてきた特別な娘だ。

 一刀斎は闇の力について知っていた。創造院家の者ならば知り得た事である。

 闇の力とは闇の女神が生まれてきた子供の片方の瞳に憑りつき、特別な能力を授かるというものだった。

 そして最強の闇の力を持つ者が、闇島に鎮座する霊王院雲仙……通称、雲仙姫だと言う事である。

 一刀斎は信心深いことで知られる。日本を守護する雲仙姫に傾倒する程であった。

 娘が闇の力を得たと言う事で嬉しい反面、些か不安面もあった。

 それは闇の力は生命力の消費が激しい。所謂、闇の力に魅入られた者は雲仙姫以外、短命という。

 だが、一刀斎は娘に十分な才覚を吸わせてから雲仙姫に闇払いしてもらう算段を立てていた。

 懸念は消えたが、まだ気になることがあった。娘は闇の力のせいで孤独だった。

 自分は超名門の姫君……気軽に何でも話が出来る存在に飢えていた。


 ――血脈を繋げることだけを考えてきたツケが回ってきたようじゃ。


 血で血を洗う御家騒動を唯一生き残った創造院一刀斎……御年六十八歳である。

 彼は全ての親族を失いながら生き残った。生き延びる執念は凄まじく。

 しこたまこさえた血統書付きの子供たちがお家騒動で全滅。

 その焦りから十四年前にメイドに手を出し、子供を半ば強引に造った。

 そして程なくして娘が生まれた。可愛い娘だった。

 天姫あまきと名付け、眼の中に入れても痛くない程に可愛い。

 大勢の子供を一挙に失った反動故か、とても可愛がった。だが、娘は誰にも心を開かなかった。

 いや、開かなかったのではない。見下していたのだ。愚劣な輩を……。

 友達も一人も出来ない有様。しかし、闇の力のお蔭で全てを完璧にこなす才媛として欲しいままにしていた。


「天姫の闇の力は他者の才覚を奪う力。通称『簒奪の女神』」


 随分危険な力を与えられたものだ。他者の才覚を無制限に奪い、自らの糧にする。

 天姫は簒奪の力で才覚を奪いに奪い、あっと言う間に完全無欠の姫君として社交界に知れ渡った。

 いつしか天姫は簒奪の力を使う必要性も無くなってしまった。

 何故ならば、最早、全ての学業、スポーツ、趣味などを極めるまで至ったからだ。


「我ながら恐るべき娘じゃ……じゃが、創造院家の当主としてはそれぐらいの力は必要かもしれぬ」


 ワインのグラスを手に取ると顔の良いメイドが並々とワインをグラスに注ぎ込む。

 それをグイっと飲み干してグラスをテーブルに置いた。

 待ち人はもうすぐやってくるだろうか。一刀斎は一人の人物と会談の場を設けた。

 書斎だが、広々として会談にも文句なしに使える。待ち人は何を隠そう日本国の新たなる守護神。

 前代の雲仙姫は役目を終え、次代の者に神移ししたという。

 その時だった。扉が開き、表情の窺い知れぬ白銀の仮面を付けて黒のスーツを着た青年が姿を現した。

 奇妙な出で立ちだった。誠実そうな佇まい……そして仮面をしている為に表情が読めない。


「お初にお目にかかります。私の名は音村鏡夜……日本国の守護神であり、闇払い師でもあります」


 鏡夜と名乗った青年は深々とお辞儀をする。貴族の礼とは違うが、中々に礼の正しさが伺える。

 悪い青年ではない。渡航困難な闇島に行って雲仙姫から神の力を授かったというのも頷く。


「君が……いや、貴方様が鏡夜様でしたか。噂はお聞きしていますよ」


「それでは今日はここで御暇させていただきます」


「御冗談を……娘に会ってもらいたいのです」


「いや、娘さんの闇を祓うのは簡単です。ですが、娘さんとは信頼関係を築かないといけないのでね。

 下準備が必要なのですよ。少しずつ距離を縮めなければいけない。私だって忙しい。

 今日は一刀斎さんへの御挨拶だけ……これから妹とバスケの練習するのですよ。

 中学は退学したのですがね。僕にだって家族がいるし……今日の所は顔合わせだけで」


 そう言い終えると煌びやかな光に包まれて音村鏡夜は消失した。

 瞬間移動という奴だろうか……守護神様にも妹がいるとか、家族もいる。

 自分と何ら変わらないじゃないかと、フッと一刀斎は自嘲して光に飲まれて消えていくのを見守った。

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