15 それぞれの想い2
お待たせしました。一気に完結まで投稿します。
15 それぞれの想い2
鏡花と才が親睦を深めている間、鏡夜は水谷を誘って宿泊施設に隣接している体育館にいた。
神族達の長、白狐が粋な計らいをしてくれた。
バスケが好きだと言ったら、簡単に魔法で用意してくれた。
神族達は何でもできる魔法を使えると鏡夜は気付いていたが、体育館まで用意してくれるとは。
神族の魔法は凄い。仮にも神様なのであるから当然と言えば当然だが。
「鏡夜、一対一やろうぜ」
バスケットボールを持ちながら、水谷は190cmの恵まれた身体で鏡夜を見下ろした。
音村鏡夜……バスケ部の控えのシューティングガード。
小学校からバスケを始めているのにスタメンを取れない落ちこぼれ、と周囲は評価する。
水谷は中学からバスケを始めたが、すぐに鏡夜を抜かしてしまった。
そして順調に上達して、スタメンの座を勝ち取った。鏡夜とは裏腹にスタープレイヤーである。
だが、水谷はバスケ部キャプテンであり、学校きっての天才、橘新九郎に嫉妬し、反則をして退部した。
それだけの才覚を持ちながら、反則行為をしてまで勝とうとしていたのだ。
根底にあったのは他でもない、超美少女である鏡花を独占していた事への単純な嫉妬。
水谷の敗因はまだまだ伸びしろがあったのだから、次期を待って十分な成長を遂げてから挑めばよかった。
読みが鋭い鏡夜からしたらお粗末な結果である。それで水谷はバスケ部を追われた。
真に追勿体ない事であるが、身から出た錆び……言うなれば自業自得である。
自業自得……鏡夜はこの言葉が嫌いであった。自分のやったことが災いとして自分に返って来る。
人は行動を起こす時にちゃんと考えてから決断して事を起こす。
それが、間違っていても自分で決断したのだから後悔はないはずなのである。
だから鏡夜は水谷の事を非難しない。人が決断して行った行動に貴賤は無いのだから。
「水谷、俺の努力の成果を見せてやる! シュート力では負けない!」
鏡夜は構える。咄嗟にとったディフェンスの動作である。
それを面白いとばかりに、水谷はボールを持ち、回転させたドライブで抜こうとする。
ドライブなど、高度な技をいつの間にか水谷は身に着けていた。
ダンクシュートとレイアップが持ち味の彼にドライブまで加わった。
一触即発の空気に体育館の隅で見守る本田も汗を滴らせている。
鏡夜が、抜かせはしないと油断なく制しようとしたが、水谷はフェイントを織り交ぜ一気に抜き去る。
そのまま水谷はリングまで走る。足が長い水谷の方が、走力で短足の鏡夜を上回る。
身体能力で分が悪い鏡夜では、水谷は最早止められない怪物だ。
水谷はゴール前でジャンプ。難なくダンクシュートを決める。
「水谷……やはり、お前は怪物だよ。ドライブなんて何時の間にか身に着けて凄いよ」
感嘆の笑みを綻ばせて水谷を素直に賞賛した。本当に水谷は凄い選手になった。
バスケ部を退部したのが悔やまれる。今の彼ならば新九郎にだって勝ち筋はあっただろう。
「ああ、俺はまだまだ成長の余地はある。もっと上手くなってプロになる!」
水谷は目を輝かせて、内に秘めた夢を鏡夜に語って、鏡夜に手を差し出す。
鏡夜はその手を取り、握手を交わす。水谷の手はがっしりとしてバスケ選手の手だ。
バスケットボールを掴めるほどの手の長さ……対して鏡夜の手はバスケットボールを掴むことは出来ない。
そもそも背が低いからダンクシュートなど夢のまた夢……。
負けたことはショックだが、打ちのめされる程ではない。
――島から帰ったら、一層練習に励まないと……。
鏡夜は才覚が無く、小学生から始めた得意のバスケですらスタメンに成れない。
だが、鏡夜は努力を諦めない。何処かで実を結ぶ可能性が一パーセントでも残っていると考えているから。
それに努力したからこそレギュラーに成れたのだ。例えスタメンではなくても鏡夜は試合には一応出場できる。
高い判断力の高さと読み、努力に裏打ちされたシュート力等が監督から評価されていた。
その後、二人は本田からタオルとスポーツドリンクを手渡されてバスケを終えた。