14 それぞれの想い1(音村鏡花)
14 それぞれの想い1(音村鏡花)
翌日、鏡花は朝早く目が覚めた。隣で眠る兄は大きな寝息を立てている。
陽光から漏れ出でる朝の陽ざしを浴びながら窓の側のソファで慕っている才が座っていた。
「鏡花様、御目覚めですね」
才がフッと笑みを零す。その笑みに鏡花は感嘆してしまう。何と美しいのだろう。
自らも美少女だと自負する鏡花だが、才は何とも神々しい品がある。
才は鏡花の才覚を無力化させた張本人だが、鏡花は全く恨んでなかった。
才覚を無くしたことで気付けたことは沢山ある。努力することを覚えたのだ。
「霊王院先輩、先輩も朝早いですね」
「ええ、昨日はあまり眠れませんでした。自らの運命を悟ってしまって」
「霊王院先輩……」
心を読む力を失った鏡花は才の心中を読めない。何か重い覚悟をしているような面持ちだ。
それぐらい今の鏡花にも分かるのだ。才はかつての自分とは違い、本物の特別な力がある。
その全容は果てが見えないが、薄々感じていた。彼女は自分の運命が見えている。
「鏡花様、霊王院先輩ではなく、気軽に才と呼んでください」
「そんな……尊敬する先輩に呼び捨てなど……では才さん、では?」
「良いでしょう」
「じゃあ、鏡花と呼んでください」
「それは出来ません。貴女は私がお慕いしている方の妹君……。
鏡花様、良いですか。あの御方は殆どの方が見れば落ちこぼれですが、それは間違いなのです。
あの御方はこの地球上で最も素晴らしい御方……」
才は寝息を立てている鏡夜を微笑みながら見つめながら言った。
確かに才の言う通り、兄の鏡夜は素晴らしい。こんな自分を大事に思っていてくれる。
自分だけではない、皆の事を気遣える優しい心を持っている。
兄の心を覗いたことがあったが、穢れなど一切ない。
スマホで雲仙姫の写真を撮っておけばよかったと漏らしていた通り、少々美人に弱いところがあるが。
「ええ、自慢の兄です。それだけに兄を守りたい気持ちはあります。
そんな兄さんの良さを分かっている才さんは尊敬できる人です。
この島から全員揃って帰還したら、今度、才さんと遊びに出掛けたいな」
鏡花は思い切って才を誘った。姉と慕う才と遊びに出掛けられたら最高だ。
「良いですよ。私で良ければお願いします」
鏡花と才は約束を交わした。この島から全員で帰還できれば楽しいことが沢山待っている。
そうだ。皆の力があれば、この苦難も乗り越えていけると鏡花は信じていた。
それぞれの想いが交錯する闇島での試練。