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13 試練と一時の幸せ

 13 試練と一時の幸せ



 雲仙姫の強引な纏め方で、五人は社を後にして彼女の忠実な下僕である白狐の案内で、宿泊所に案内された。

 和を基調とした豪華な宿泊所だった。庭師によって手入れされた庭園もある。

 何か修学旅行みたいな雰囲気であった。それはそれで良い気がする。

 それに雲仙姫のあの様子だとそんなに恐ろしい人には見えない。

 そんなことを想っていると、白狐が口を開いた。


「雲仙姫様はあのような砕けた一面を持っておられますが、恐ろしい一面もございます。

 あの御方の言葉通り、不興を買った九人の人間の男は何れも悲惨な最期を遂げています。

 ゆめゆめ油断なされぬよう。才様の御父君も同様にございます」


 白狐は神族たちを後ろに率いながら、それだけ言うと退出した。

 最後尾の仮面を被った線の細い中背の少年のような神族が、「温泉の用意がございます」と言った。

 温泉と聞いて一同は目を輝かせる。こうなればタダで高級旅館として豪遊してしまおう。

 鏡花と才と別れて着替えを持って水谷と本田と共に温泉に向かう前にまたも鋭い読みを働かせた。


 ――もしかして、才の不興を買ったらヤバいんじゃなかろうか?


 それを想って才を怒らせるようなことは絶対にしないと固く誓った。

 温泉は格別であった。今まで仲間連れて温泉など、陰キャラだった鏡夜には夢のようであった。

 天然石で作られた贅を凝らした最高級の温泉。こんな広い温泉を男三人で独占できるのだ。

 破格の待遇に三人は喜びに打ち震えた。温泉に浸かりながら、日々の疲れを癒した。


「スゲー開放感だぜ! 鏡夜! 本田さん!」


 水谷は大いにはしゃぐ。本田も良い人だし、最高の仲間である。

 鏡花も今頃、女風呂で才と色んな話が出来ているだろう。

 才覚を失った鏡花には良き支えが必要であった。鏡花は才を尊敬する先輩として見ている。

 それを才も知っているため、可愛い後輩として面倒を見ている。

 素晴らしい……此方は此方で、しなければならないことがある。

 本田は完全防水PCを取り出して準備する。画面に新九郎が映し出されていた。


「やあ、鏡夜、そして水谷! 最高級の温泉とは良いじゃないか。

 僕も行けばよかったかなあ。闇島に付いて調べたけど、一つ情報が得られた。

 神々が支配する闇島の存在を知っているのは上流階級の上位一パーセント以下だ。

 本当の一握りの一部の名家だけのみにその存在が知られている。

 例えば創造院家……国の実質の王家の血脈とも言われている貴い家だ。

 しかし、この家の何より凄いのは正統な後継者となられるのが、まだ十代のお嬢様……創造院天姫そうぞういんあまきだ。

 凄まじい御姫様だよ。まあ、まず僕等じゃ一生御目に掛かれないから安心して良いよ。

 それ以外の情報は得られなかった。折角の温泉に水を差して悪かったね」


 長々と調べた情報を言うと、画面は消えた。流石は新九郎だと鏡夜は手放しで称賛した。

 創造院天姫……いつか巡り合うのであろうか。

 それは無いと断じた新九郎だが、鏡夜は何故か、いつの日か出会うのではないかと予感がしてならなかった。

 それが杞憂であるならば、それはそれで良いが、鏡夜がこの試練を突破すれば何れ……。

 守護神になどなりたくはない。自分はおろか、鏡花にもそして才にもなって欲しくはない。

 千年間も、この島で生きるなど人柱に他ならない。無益な苦行でしかない。

 だが、不思議と安心感があった。才や鏡花、水谷、そして本田とならば乗り越えていけると信じていた。

 温泉から出た鏡夜達は宛がわれた部屋で鏡花と才と合流した。

 そして部屋のテーブルに豪華な料理が沢山振る舞われた。

 海の幸山の幸……どれも豪華だ。素晴らしい盛り付け、どれも美味しかった。

 新九郎にも食べさせてやりたいぐらいだった。そして夜、満天の星空をムードに五人は談笑して過ごした。

 鏡夜は才に勇気を持って自ら声を掛ける。才は鏡夜から誘われて嬉しそうにする。


「才……良ければ、外を歩こう。腹を割って話したいこともある」


 鏡夜は才と心の底から語らいたかった。二人だけで……。


「はい、鏡夜様……私も鏡夜様ともっと語らいたい。時間はそんなに残されていないのですから」


 その才の声音は何処か弾んでいるようにも見え、何処か物悲しそうであった。

 二人は神族が用意した宿泊施設を出た。道は奇麗に舗装されている。神族達は魔法でも使えるのか。

 宿泊施設から覗ける小高い丘の上に到着した。夜空は満天の星空……中々にムードがある。


「才、単刀直入に言うが、新たな守護神になるのは俺だ」


 真っ直ぐと才の眼を真剣な面持ちで見据える。才は覚悟しているようにフーと息を吐いた。


「ええ、分かっております。間違いなく新たな守護神となるのは鏡夜様でしょう」


 才の諦めたような眼を見て鏡夜は思わず黙ってしまい、言葉が出なかった。


「……」


 才も当然覚悟をしていた。やはり、才は傑物の類だ。鏡夜と同じレベルで先が読める。

 軍略ゲーム部の部長の面目躍如である。闇払い師としての側面もある彼女は色々な顔を持つ。

 鏡夜は意を決したように言葉をおもむろに開いた。


「俺の眼には既に全員が帰還する未来が見えている。安心しろ。

 読みの鋭さが唯一の強みの俺が、全員の帰還が既に読めているのだ。俺を信じろ」


 その安心させる一言に才は安堵の息を漏らし、鏡夜の胸に飛び込んだ。

 それを愛おしそうに鏡夜は抱きしめた。鏡夜は才を努めて安心させるように言葉を選んだ。

 無論、鏡夜は無策ではない。全員の帰還までの道筋がはっきりと見えているのだ。

 絶対に全員を守って帰還して見せる。少々手荒いことをするが、仲間を守る為ならば厭わない。

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