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12 雲仙姫様

遅くなりまして申し訳ございません。

 12 雲仙姫様



 鏡夜達一行は島の中心部に位置する神の社に続く石段を上っている。

 日頃からバスケで鍛えられている一行は難なく石段を上るが、唯一運動部ではない才は息を切らしている。

 特別な力を有していても、体力だけは一行の中では劣っていた。


「才、大丈夫か?」


「ええ、すみません。鏡夜様」


 鏡夜は足取りが重い才を庇ってさり気無く彼女の手を握る。

 普段、無表情の才は顔を赤らめて、その手を強く掴む。彼女と比べれば才覚が全くない鏡夜。

 だが、何故か自分はこの少女に好かれていた。特別な彼女が、どういう訳か好意を寄せてくれるのだ。

 それは飛び上がる程、嬉しかった。こんな可愛い子から、慕われるのは悪い気分ではない。

 それだけに絶対に才を守ると鏡夜は心から誓った。

 いや、才だけではない。鏡花や水谷……それに本田も全て守る。この命に代えても……。


 ――才覚の無い、十人並みな俺は本当にいい仲間を得た。


 その喜びを噛み締めて石段を登っていく。自分には勿体ない大事な仲間だ。

 一人も欠けて欲しくない。自分が犠牲になっても最早良い……彼らを守れるのならば。


 ――才……一度、君とデートしたかったな。


 陰キャラで十人並みの鏡夜はモテたことなど一度も無い。

 妹はあんなに美少女なのに何故、自分の容姿は良くて十人並みなのだろう。

 容姿も才覚も無い自分は人の十倍努力しなければならないと課して頑張って来た。

 そんな自分を好きだと言ってくれた才を命がけで守るのは当然の事であった。


「鏡夜様の優しさが凄く伝わってきます。ですが、自分も大事にしてください」


 才は息を切らしながら石段を登り、鏡夜に忠告した。

 まるで心の内を見透かすような才の言葉に鏡夜は胸を詰まらせる。


「霊王院先輩! もっと兄に言ってやってください!

 兄さんは自分を犠牲にしてでも皆を守るとか考えているに違いないです。

 昔から、自分を大事にしない人なのです。兄さんは自分の存在を否定して生きている人」


 鏡花は才に説明するように言った。妹にも見破られてしまった。

 だが、今更自分の生き方を変える気は更々なかった。自己犠牲が、鏡夜の信条なのだ。

 そんなことを言っている内に頂上に降り立ち、朱に彩られた鳥居を潜る。

 境内に立っていたのは体育座りをして空中に浮かぶ女だった。

 才と同じく長い髪を後ろで結び、白を基調とした巫女服を着ている。

 才と瓜二つの容姿……まるで双子のように何もかも才と同様であった。


「才! あれが君の母親か? 随分と若々しい親ではないか」


 鏡夜は率直な感想を述べた。十四歳の娘を持つ母親にしては幾ら何でも若すぎる。

 二十代……下手すると十代に見えるかもしれない。


「本当だぜ! 随分と若い……一体、年は幾つだ!?」


 水谷も唖然とする。一行は余りにも若い、才の母親に驚愕せざるを得ない。

 それに空中に浮遊するように浮かんでいるのは何のトリックだろう。

 才の母親だけあって、やはり想定していたように不思議な力を持つようだ。


「我が名は霊王院雲仙。千年の時を生きる日本国の守護神である。

 気軽に雲仙姫うんぜんひめと呼ぶことを許す。白狐、娘とお連れの方の先導ご苦労、下がってよいぞ」


 雲仙姫は自身の下僕である白狐に労いの言葉を掛ける。

 そこまで悪い人物ではなさそうだが、千年の時を生きるというのは本当だろうか。

 やはり、闇の力が関係してそうである。雲仙姫は不思議なオーラを纏っている。


「お久しぶりです。母様。私は何故呼び出されたのですか?」


 才が一歩前に進み出て、一礼した。正に分身のようにこの母娘は似ている。


「お前を呼び出したのは、他でもない、『神移し』の時を間もなく行うからだ。

 説明しよう。私は日本国の守護の為に千年の時を生きてきた。

 最強の闇の力を有する私は千年の寿命と日本列島に守護の結界を施す力を持つ。

 この闇の力は千年後に自分が決めた者に譲らなければならない。

 それを『神移し』という。間もなく私の寿命は尽きる。だから後継者を用意しなければならない」


 雲仙姫はゆっくりと述べた。何故か、その視線は鏡夜の方をチラチラと見ていた。

 それを鏡夜は不思議に思った。自分は唯の付き添いだというのに。

 しかし、雲仙姫は美人だった。才と瓜二つの容姿……余り見つめないで欲しかった。

 しかし、スケールの大きい話だ。要は神の力を娘である才に譲るというのだろう。

 その場合、才はこの島で暮らさないといけないのだろうか。才と会えなくなるのは大きな痛手だ。


「お前達を見渡して私は思った。この中で見所があるのは三人。

 我が娘、才。闇の力を持っていたという鏡花。そして、娘の想い人である鏡夜様だ」


 雲仙姫は鏡夜達一行を見渡して静かに言った。

 何故か、鏡花や自分まで候補に入るとは思わなかった。

 それに何故、自分にだけ様を付けるのだろう。そんな偉い人間ではない。

 雲仙姫の言葉を受けて鏡夜は考える。千年の寿命など全く欲しくはない。

 いつまでも若く生きていられるメリットがあるのはイケメンや美人だけだ。

 自分のような者が千年も生きるのは苦痛でしかない。

 隣で呆然とする鏡花を横目で見る。幾ら、鏡花のような美少女でも千年もこの島で暮らすのは酷と言えよう。

 それは才にも言える事だ。才とて千年の寿命は持て余すに違いない。

 どうするべきか、と考えても鏡夜の頭では考えるのが限界であった。

 こういう時に凡才に生まれた自分を呪った。もし、ここに新九郎が居れば……鏡夜は悔やむ。

 新九郎ならばどうするか。新九郎を連れてくればよかったと、頭の中は新九郎でいっぱいだった。


「雲仙姫! どうするつもりだ! 誰を後継者にするというのだ!?」


 鏡夜は皆を庇うように立ち、雲仙姫に食って掛かる。


「鏡夜様、そんなに興奮しないでください。声を荒げる気持ちは分かるが。

 私は三人を試すつもりだ。課題を与え、それについての回答で正解の者を後継者にする」


 雲仙姫は課題を与えると言い出した。鏡夜はまたも様付けで呼ばれて戸惑った。

 才と言い、この親子は一体自分をどうしたいのだろう。様付けで呼ばれてもちっとも嬉しくなかった。


「では課題を与える。とある世界での話……絶大な力で世界を支配しようとする悪が存在した。

 悪は支配を拡大していく、そんな時、その悪を討ち滅ぼす鍵を握った子供が存在した。

 その子供を犠牲にすれば悪を倒せると知った正義の味方はとある選択肢をした」


 雲仙姫は課題の内容を厳かな佇まいで語った。一同は戦慄を覚える。

 どう選択すれば良いか分からない問題だからだ。だが、鏡夜だけは答えを知ってしまった。


 ――そんなの簡単じゃないか。


 鏡夜には皆を見渡して呆然とした。何で皆は難解な表情を造るのだ。

 この中で最も、才覚の無い凡才である鏡夜であったが、不思議な面持ちで戸惑う。


「やはり、鏡夜様には答えが分かっていましたか。

 この問題は最も優しい心を持つ者しか解けぬ……興ざめだ。結果の知れた課題など興味はないがな。

 鏡夜様は娘の想い人でもあると同時に私の想い人でもある。

 私は千年に渡る生涯で九人の人間の男と結ばれたが、皆が私の不興を買い、悲惨な末路を遂げた」


 それを聞き、鏡夜はゾッとした。何とおぞましい。自分も悲惨な末路を遂げるのか、と。


「その心配は及びませんよ。鏡夜様は私が最も心を揺さぶられた御方。

 その御方に対しての礼儀はあります。命の心配をしなくても良い」


 雲仙姫は恍惚として言った。それを彼女の娘である才が咎めた。


「鏡夜様は私の物。母様は離れて下さい。許しませんよ」


 親子で火花を散らす光景を見て、鏡夜はまたもや、戸惑い複雑な表情をする。


 ――この親子は全く、何なのだ。俺の何処に魅力があるというのだ。


 鏡夜は不思議そうな顔をして親子の牽制のしあいを見つめていた。

 雲仙姫は自分を殺す気が無いかもしれないと淡い期待を抱いたが、そんなのは分からない。

 この親子はどうみても凡庸な自分を何故好いてくれるのか、と不思議で堪らなかった。


「雲仙姫。残念だが、俺の心は……才にある」


 恥ずかしがりながら、鏡夜は正直な気持ちを吐き出した。

 このシリアスな局面において告白みたいなことをするとは思いもよらなかった。

 読みの鋭い鏡夜でも自分の行動が読めなかった。才は赤らめて顔を手で覆い隠す。

 かなり面倒な局面だ。今は課題に向き合うシリアスな局面であるのに。


「……私が自分の娘に負けた? 日本国の守護神である私が、こんな小娘如きに……!」


 負けたとか、今日が初対面だろ、と鏡夜は言いたかった。


「……場が変な雰囲気になってしまった。日本国の守護神である体裁が取れん。

 課題の期限は明後日の夕刻とする。それまでに答えを用意して現れよ」


 雲仙姫は嫉妬の涙を流して強引に纏めた。何という親子であろうか。

 才も、何時かは雲仙姫みたいになるのは何か嫌だった。でも雲仙姫様は滅茶苦茶美人である。

 性格、気性抜きにすれば断トツで可愛い。スマホで写真撮っておけばよかったと鏡夜は後で後悔した。

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