11 闇島へ
11 闇島へ
待ちに待った夏休みが遂に到来した。
鏡夜はリュックに食料と海外製の身長サプリを詰め込んで出発した。
闇島への渡航は至難の業だった。旅行で行ける島ではないので、自前の船がいる。
太平洋側の島で、東京湾から船で相当長い時間かけて行かなければならない。
当然、船など無いが、新九郎の親が所有する大型クルーザーが借りられた。
船舶免許など持っている筈がないが、船舶免許を持つ人員を彼の家から借りる事になる。
何とか船の問題は解決したが、闇島近海は海が荒ぶるかのように大いに荒れる。
才が言うには沈没する船が後を絶たない魔の海域らしい。渡航するのも命がけだ。
「辿り着けるかどうか不安だが……」
大型クルーザーに乗り込むとき、鏡夜は不安を吐露した。
だが、それでも行かなければならない。才には並々ならぬ恩義があるのだ。
絶対に彼女を守り切って見せる。鏡夜は固く誓う。それは他の面々も同様であろう。
「鏡夜様、鏡花様、水谷先輩、よろしくお願いします」
才は三人に頭を下げて、クルーザーに乗り込んだ。
髪型はいつもどおり、長い黒髪を後ろで結んでいるが、いつもの学生服ではなく、白を基調とした巫女服を着ている。
その姿は神秘的で目を見張る程であった。やはり、才には特別な何かがある。
「兄さんと旅ができるなんて嬉しい」
鏡花が兄、鏡夜に飛びつきながら喜々とした表情で言った。
闇の女神を祓われた鏡花は才覚を全て失ったが、それでも挫けてはいない。
そんな可愛い妹の頭を優しく撫でた。鏡花は大好きな兄に撫でられて恍惚とする。
「皆で才を守り抜こうぜ!」
水谷が大柄な体躯を縮こませてクルーザーに乗り込みながら頼もしい言葉を掛けた。
この中で誰よりも頼りになるのは水谷であろう。鏡夜はこの面子ならば不安など無いと思い直した。
「私は大型クルーザーを操舵します本田瀬人と申します。新九郎様から仰せつかっております」
サングラスを掛けた黒服の男が、お辞儀をする。恐らく新九郎が用意した護衛なのだろう。
流石は新進気鋭の会社を経営する橘家の黒服……良い船を持っている。
こうして五人を乗せた大型クルーザーは出発する。
長い時を駆けて魔の海域を無事に通過。ラッキーであった。海は荒れてなく穏やか。
何と運がいいというのだろう。拍子抜けするほどに呆気なく闇島が見えてきた。素晴らしい見事な景観の島である。
自然豊かな島で人工物が殆どない。船着き場に到着すると、五人は闇島へと降り立った。
「お待ちしておりました。霊王院才様とお連れの方。
我が名は白狐……偉大なる霊王院雲仙様の忠実なる下僕でございます」
白い仮面を被った紳士的な人物がお辞儀をして鏡夜達を招き入れる。
その後ろで同様に怪しげな仮面を被った者達が総出で出迎えてくれた。
何となく神聖的でもあり、不気味な人たちだ。全員仮面を被っているため表情が伺えない。
相手の表情から思惑や意図を読み取るのに長けている鏡夜は自らの強みが全く生かせない。
「何だ!? この不気味な集団は! 新九郎様の御学友を愚弄するな!」
真っ先に反応したのは黒服の本田だった。本田は拳銃を取り出して銃口を白狐に向けた。
「愚かな……人間風情が、良かろう。我ら神族の力を示す好機。撃って見るがいい」
白狐は構える。その構えには一切隙が無い。だが、拳銃の威力を知らない田舎者を本田は嘲笑する。
「フハハハッ! 神族だと!? 笑止千万! 俺は神などを崇める酔狂ではない!
撃つぞ! こんな得体の知れない集団がいる島で、御学友たちを危険に晒すわけにはいかない!
御学友の皆さま、下がっていてください! 威嚇射撃をします!」
本田は嘲笑いながら、白狐の足元に威嚇射撃をする。
銃声が木霊した刹那――白狐が銃弾を素手で掴み、それを弾いて本田の右腕に貫通させる。
「「「本田さん!」」」
鏡夜達は本田に駆け寄り、負傷した右腕を痛める彼を心配する。
本田は悪くはない。自分たちを守る為に威嚇射撃をしたのだ。彼には使命感がある。
そんな彼を冒涜する者は例え神であろうと許さない、と鏡夜は思った。
「本田さんは悪くはない! 本田さんを愚弄するな!
貴方達は一体何なのだ!? お前達の親玉である霊王院雲仙とはそれ程に偉いのか!?
俺から見れば、部下に襲わせといて自分は安全な所にいる霊王院雲仙こそ卑怯者だ」
本田の流血した腕を簡易的な治療をする鏡花。それを守るように鏡夜が立ちはだかる。
「鏡夜様……失礼しました。ご無礼をお許しください。
その人間が余りにも愚劣だったので、我ら神族の力を示したかったのです。
霊王院雲仙……通称、雲仙姫様は神の社の奥深くに存在します。すぐにご案内します」
白狐が傅くように鏡夜に謝罪すると、不思議な輝きと共に本田の傷口は瞬く間に塞がり、完治する。
やはり、彼らは才と同様に不思議な力があると鏡夜はこの時、確信を強めた。
新たなる冒険がスタートします。