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10 新たな予兆

 10 新たな予兆



 ――商店街区画外の高架下のバスケ場。鏡花が闇の力を失って、一か月が過ぎた。

 鏡花の精神攻撃を受けた鏡樹は病院に搬送されたが命に別状はないとのことで安堵した。

 あの後、目が覚めて才覚を失った鏡花は意外にも冷静に受け止めていた。

 そして鏡夜や鏡樹を含め、周りの人間に謝罪をして回った。

 そんな鏡花を周りには非難する声もあったが、真摯な振る舞いに好印象と取る者が多かった。

 新九郎とは別れる事となったが、その中の一人、水谷は鏡花を受け入れた。

 鏡花に暴言を吐かれた水谷は本人も反省しているが、和解した。

 水谷はあの後、部活の皆に謝って退部届を出した。今は近所のストリートバスケ場で練習に励んでいる。

 喜ばしいことがある。水谷の影響で、鏡花がバスケを始めたのだ。

 最初は難色を示した鏡夜であったが、鏡花にやらして見せたら意外とセンスがあった。

 そして、今日、水谷と三人でバスケをする約束をして今に至る。

 バスケ場は高架下にあり、多くの若者がバスケの試合や練習をしている。

 鏡夜はスタメンの座を勝ち取るつもりで、水谷と切磋琢磨している。


「鏡夜、来いよ! 負けたらジュース奢りな!」


「望むところだ!」


「兄さん、頑張って!」


 青々とした夏空の下、鏡夜は水谷と一対一の勝負を仕掛ける。

 初手は鏡夜だった。鏡夜は体格差を考慮して低いドリブルで水谷を一気に抜こうとする。

 それを水谷はフィジカルの強さを生かして止めようとするが、緩急を付けたドリブルで抜いた。

 そしてそのままシュート。今日の勝負は鏡夜の勝利となった。


「今度は私も水谷先輩と勝負させて!」


「おう! 望むところだ!」


 鏡花の無邪気な挑戦に水谷は気軽にOKと返事した。

 これで良かったのだ。特別な才覚など要らない、何事においても真摯な姿勢で臨むのが何よりなのだ。

 鏡夜は一対一に楽しそうに興じる二人を遠目に見て笑顔を綻ばせた。

 平穏な日常を取り戻したのも束の間だった。携帯が鳴る。才からの連絡だ。


『相談事があります。軍略ゲーム部の部室で待って居ます』


 才からの連絡を受けた鏡夜は彼らを伴って、学校の軍略ゲーム部に赴いた。

 水谷も鏡花も不穏な気配に何か思う所があるようだ。

 あの一件から、妹の鏡花は才を慕うようになった。自分も才には全幅の信頼を置いている。

 彼女の悩みには寄り添ってあげたい。彼女を労わる気持ちに嘘偽りなど無い。

 軍略ゲーム部は相変わらず閑散としており陰鬱とした空間だ。

 薄暗い部屋に煌々と灯りがともされている。眼が悪くなってしまうぞ。

 才の眼鏡姿は見たいとは思うが、それとこれとは別だ。


「鏡夜様、それに水谷先輩や鏡花様まで……御足労おかけしました」


 才は礼儀正しい。年下の小娘である鏡花に対してでさえ、敬語を使う。

 彼女の姿勢は素晴らしいと思うし、他人を敬う言動は見習いたいものがある。

 円卓の中心に座す、才……それに伴って各々が席に座る。中々に趣向が凝らされている。


「単刀直入に言うが、何があった? 俺達を呼ぶと言う事は火急の事態を告げるのでは?」


 鋭い卓越した読みを持つ鏡夜は確信を突く。才はフーと息を吐いて頷いた。


「流石は鏡夜様、その通りでございます。実は私は太平洋に浮かぶ絶海の孤島……闇島の生まれなのです」


 才が吐露した言葉を鏡夜達は受け止める。闇島……闇が深い島であろうか。

 元々、闇払い師と言う特殊な家系に生まれた才。生まれた場所まで特殊とは感慨深い。


「闇島を治める母に呼び出されたのです。

 闇払い師の家系なのは父方で、霊王院の血脈は既に私しかいないそうです。

 ちなみに母も凄く特殊な人間で、俄かには信じ難いので話しにくいですけど」


 鏡夜は概ね理解した。つまり、才は闇島へ行くことになるのだ。

 しかし、一人で行くのが不安なので、同行を願いたいと言う事なのであろう。

 闇島に行くか問われれば当然、鏡夜の答えはイエスである。才には妹の事で助けられた恩義がある。


「俺も才に付いていく。才には恩義があるし、可愛い後輩だからだ」


 真っ先に鏡夜は同行することを示した。


「俺も行くぜ! 恩義はないが、友達が困っているのは見過ごせないぜ」


 水谷も同行するみたいだ。水谷が同行すると聞いて鏡夜は目を輝かせた。

 大柄な水谷は護衛にもなるし、何より頼りになりそうなのだ。


「私も行く! 霊王院先輩がいなかったら私は道を踏み外していたかもしれない。

 それに霊王院先輩とはもっと話したいことが沢山あるの!」


 鏡花も行くと言い出した。鏡花の性格から、同行することは既に読んでいたが、ちょっと不安だ。

 年端の行かない女の子が、不気味極まりない島へと行って大丈夫なのか。

 しかし、言っても聞かない事は承知しているので、最早止めなかった。

 この三人が、才の護衛としてついていくしかあるまい。鏡夜は護衛と聞いて格好つけた。


「皆様、ありがとうございます。とても心強いです。

 私一人で行くのは不安だったのは本当です。夏休みに日程を組みましょう」


 才は深々とお辞儀をして、感謝の意を添える。鏡夜は冒険にワクワクと胸を躍らせた。

 闇島……どんな島だろうと夢想する。兎に角、才を守り抜くことが肝要だ。

 護衛は三人で足りるだろうか、と鏡夜は考える。ダメ元で新九郎にも声を掛けることにした。

 新九郎にスマホで連絡を入れた鏡夜。すぐに返事が返って来た。

 と同時に新九郎も速攻で部室に顔を出し、五人が互いに顔を見合わせる。


「鏡夜からの連絡で飛んできた。霊王院……僕も闇島には興味があるが、敢えて僕は残る」


 新九郎は敢えて残ることを選んだ。鏡夜はすぐさま読みの力を働かせ、新九郎の真意を読み取る。

 彼の狙いは簡単だ。闇島という危険極まりない島への潜入には外部からのサポートが必須。

 外部から、自分たちをサポートする役目を果たそうとしているのだ。


「新九郎、敢えて残ることを選んだのは外部から俺達をサポートする為だな?」


 鏡夜は真っ直ぐに視線を投げかけながら、新九郎に問いただした。


「その通りだ。僕は外部から君たちをサポートするよ」


 新九郎はそれに応えるように頷く。

 正直、新九郎が同行しないのは痛手だが、外部からサポートしてくれるのはありがたい。

 今の時代はスマホがあるのだ。容易に連絡は取れるし、助けも呼べる。

 彼ならば適切な助言をしてくれるだろう。とても心強かった。


「有難うございます。橘先輩! 凄く心強いです」


 普段は感情が着薄の彼女も手放しで喜び。深々と頭を下げた。

 結局、鏡夜、鏡花、水谷が、才と共に同行し、外部から新九郎がサポートする布陣を整えた。

 闇島では何が待ち受けているのであろうか。鏡夜は半ば楽しみだった。

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