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お兄ちゃんと過ごす時間

芹ちゃん回想編の続きです。

【道野辺芹】


 あの日、公園でお兄ちゃんと出逢ってから、私の生活は色を取り戻したかのように鮮やかに輝き出した。


 学校が終われば、いつもの公園でお兄ちゃんを待つ。以前は寂しさしか感じていなかったママの帰りを待つ時間が、今では待ち遠しくて仕方がない。

 担任の先生からも「道野辺さん、最近明るくなったわね」と言われたが、たぶんその通りなのだと思う。パパの事を思い出すと、未だに涙が溢れてくるけど、お兄ちゃんが一緒に居てくれるなら、泣いたって大丈夫。


 ――きっと、パパは近くで芹を見守ってくれている。


 以前は只の気休めだと一蹴した言葉が、今は不思議な実感となって私を支えてくれている気がするから。



「芹ちゃん、お待たせっ」


 お兄ちゃんが手を振りながら、公園の入り口から駆け寄って来る。……また世界が彩られてゆく。




 それからも私とお兄ちゃんは、放課後の一時を一緒に過ごした。

 気が付けば私はお兄ちゃんが大好きになっていて、会えない時間の切なさに耐えるのが辛くなっていた。


『はい、これ。心配だから持ってて』


 そんなある日、お兄ちゃんが私にプレゼントをくれた。

 プレゼントは防犯ブザーで、お兄ちゃんが私の身を案じて渡してくれた物だった。


『芹ちゃんは可愛いから用心しないとね』


 ……好き!


 私を本心から心配してくれる人がいる事、それが嬉しくて嬉しくて、私はまたお兄ちゃんが好きになってしまった。

 これ以上好きになっちゃたら、私、どうなっちゃうんだろう……。


 その晩から、私は写真立ての中で笑うパパに「おやすみ」の挨拶をした後は、お兄ちゃんから貰った防犯ブザーを枕元へ置いて眠る事にした。




 夏休みに入る直前、私はお兄ちゃんと夏祭りへ行く約束をした。

 夏休みに入れば、流石に毎日はお兄ちゃんと会えなくなってしまうけど、その分、沢山遊んで大切な思い出を作るのだと、私は躍起になっていた。


 そんな夏休みに入って直ぐの日、私はお兄ちゃんへ買い物に付き合って欲しいとお願いをした。

 二つ返事で「いいよ」と言ってくれたお兄ちゃん、大好き!

 きっと最高の初デートになる。私はそう確信していたのに――



(お兄ちゃん、誰なの? その女の子達……)


 約束の日、お兄ちゃんをいつもの公園で待っていたら、何故か()()()()()がくっ着いて来た。

 お兄ちゃんの幼馴染を自称する女性と、友人を自称する女性。いずれも驚くほど綺麗な女性達だったけど、何というか……気味の悪いオーラを纏っているように感じられた。

 それにお兄ちゃんを見る瞳が、まるで獲物を狙う肉食獣のようにギラギラとしている。


 ……駄目。お兄ちゃんは私とデートするんだから。

 私は自分がお兄ちゃんの()()である事を見せ付けようと、いつも以上にお兄ちゃんへ密着する。

 ふと、そんな自分を俯瞰した私は、こんなに独占欲を剥き出しにして、呆れられないかな――と、お兄ちゃんを見上げれば、そこには変わらず私を慈しむような、優しい笑みがあった。


 お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん……好き、大好きだよ。



 そして迎えた夏祭り。先日のお買い物デートで購入した浴衣に身を包んだ私は、お兄ちゃんと一緒に屋台を見て回る。

 そんな楽しい夏祭りの中、屋台で買ってもらったリンゴ飴を噛る私の頭へ、お兄ちゃんの温かい手が添えられた。


「は…はぅ……?!お兄ちゃん……好き」(小声)


 お兄ちゃんが好き過ぎて辛い。幸せ過ぎて怖くなる。

 いつも優しく微笑んでくれるお兄ちゃんと、これからもずっと一緒にいたい。思えばこの時、私は既にお兄ちゃんへ依存し始めていたのだろう。


 

 途中、お兄ちゃんの事を変質者だと誤解した角くんと一悶着あったけど、楽しい時間が過ぎていった。

 パパが亡くなって以降、こんなに楽しい時を過ごした事はなかった。


 お兄ちゃんの周りに綺麗な女性が多い事だけが気に入らないけど……贅沢は言えない。本来、私はお兄ちゃんの隣を歩けるような立場ではないのだから。

 お兄ちゃんが赤の他人である私を気に掛けてくれる理由はきっと同情。でも、それでも私は構わない。


 同情なんていらない――そんな言葉を吐き捨てられる人は、本当の暗闇を知らない人なのだと思う。

 例え同情だったとしても、それは紛れもなく優しさなんだ。私へその優しさを向けてくれるだけで感謝すべきなんだ。……だから、これ以上を望んではいけない。



 お兄ちゃんからの優しさを享受する度、私は甘い幸せを噛み締めながらも、胸が締め付けられるような切なさを感じていた。

ラスト一本、芹ちゃん回が続きます。

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