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現世も寝取られに満ちている

すみません! 少し間が空きました。

 スマートフォンを握る俺の手は小刻みに震えていた。


 俺が先程、砂川さんに掛けた電話へ、彼女は妙に息を弾ませながら出た。息が弾んでいる理由は「少し運動をしていただけだから」と言う。

 こ…これって、やっぱりアレだよな……。


 穴山へ別れを告げ、水族館から姿を消した砂川さん。彼女が今まで何処で誰と何をしていたのか……?

 想像に難くはないだろう。


 やるせなさが全身を襲い、スマートフォンを落としそうになってしまう。


(穴山……お前、遂に寝取られちまったんだな……)


 親友の恋路が辿り着いた末、その結末へ同情し、今度、ラーメンでも奢ってあげようと思っていた俺の耳に、今度は聞き慣れたソプラノボイスが響いてきた。


「もしもし、壮太ぁ~?」


「え……? 美織……?」


 声の主は長年一緒に過ごして来た幼馴染、坂梨美織であった。

 砂川さんへ掛けた電話に美織が出るという事は、彼女達は一緒に行動しているという事、つまりそれは――


(嘘……だろ?)


 めまいにも似た感覚に襲われ、危うく膝を突きそうになった俺は、とっさにフーっと息を吐く。


 呼吸はストレスを和らげる効果がある。

 ロシア発祥の武術“システマ”では、呼吸を正常に保つ事が如何なる状況においても適切な対応を取る為に必要な基本原則として挙げているくらい重要なものだ。

 フー、フー……よし、お乳……いや、落ち着いて来たぞ。


 依然として手は震えているが、先程よりは冷静さを取り戻したように感じる。

 俺は改めて電話の向こうにいる幼馴染へ声を掛ける。


「美織、もう水族館には居ないんだな?」


「うん」


「そうか……。ちなみに、美織は今、何処に?」


「えっ?! ど…何処って……えーっと……」


 口籠る美織。電話越しなので表情を伺う事は出来ないが、相当に狼狽えているように思える。


 その狼狽え様……そうか、ホテル。ホテルなんだな……?


「そ…それよりも、壮太は何処?」


「……俺は角さんの家だ。芹ちゃんが体調を崩して角さん家へ運ばれたと連絡を受けたからな」


「あ、そうなんだ。それで……」


 何やら得心がいったように呟く美織の声に、俺は首を傾げる。

 まるで美織は俺が角さんの家にいる事を事前に知っていたかのような……いや、そんな訳はないか。



 それよりも重要なのは、美織の身に何が起こったのかだ。

 美織は俺にとって友人であり大切な幼馴染ではあるが、恋人関係にある訳ではない為、寝取られたという表現を使う事に語弊はあるが、間男(ネトリスト)の毒牙に掛かってしまった可能性が高い。


 一体、いつの間に?


 付き合いの浅い砂川さんはどうなのか分からないが、美織に関しては親しい異性の影は無かったはずだ。それは日頃から調査済みである。

 ならば、今日という日を狙い、周到に張られた(ネトラップ)に絡めとられたのか?


 その可能性も低いだろう。何せ美織が今日、俺達と出掛けている事は偶然出先で会ったからで、謂わばイレギュラーな事態な為、ネトリスト側としても予測が困難であったはずだ。



 では、今日初めて出会ったネトリストに堕とされた可能性はあるだろうか?


 薄暗い水族館に潜んでいた絶倫オラオラ系ネトリストとエンカウントし、そのままお持ち帰りされたケースだ。


 美織や砂川さんがそうであるのかは分からないが、女性の中にはネトラレ願望を持っている人が少なからずいるらしい。

 男性向けNTR作品においては主人公の想い人が他の男から寝取られる展開が大多数である事に対し、女性向けNTR作品では、女性主人公自身が強引なイケメンから寝取られる展開が多くある。

 つまり、男性が持つネトラレ願望は自身の恋人や妻が寝取られるという被虐的な展開を快感へと昇華させる事を期待する心理であり、女性が持つネトラレ願望の場合は自分自身が奪われる事への期待……所謂、被支配欲求がベースになっていると考えられるのだ。


 勿論、一概には言えないが、イケメンから強引に迫られたい。壊れるほどに愛され、奪われたい……そういった願望を持つ女性は案外多いのかもしれない。



(美織、お前もか……)


 落胆し、肩を落とす俺だったが、ハッとして顔を上げる。


「なぁ、美織……もしかして、橋爪さんも一緒なのか?」


「えっ、橋爪さん? う…うん、一緒だけど……それがどうしたの?」


 お…終わった。全てが終わってしまった。

 何故だ?何が悪かった?


 橋爪さんを今日のWデートに誘ったのは俺だ。つまり俺には今日一日、彼女の安全を約束する義務があったはずだ。


(ごめん、橋爪さん……)


 美織の態度から察して、どうやら彼女達はネトリストから強引に拉致された感じではないだろう。

 快楽追及の為、率先して着いて行ったのかもしれない。又は最初は強引に迫られたが、この数時間で快楽を刷り込まれ、既に寝取られ堕ち(ネトラレフォール)したか……。


 いずれにせよ、もう俺には手の施しようが無い。

 寝取られる前なら兎も角、寝取られた後に救う事はほぼ不可能なのだ。一度刷り込まれた強烈な快楽は更なる快楽を求める貪欲さとなる。それはまるで、快楽に支配されし奴隷の如く。



「あまり、遅くならない内に帰れよ? ……おじさんとおばさんも心配するからな」


 その後、放心状態のまま会話を交わしたが、何を話したのかは覚えていない。

 彼女達はネトラレリスクフル。ネトラレリスクの塊だ。

 更に今日はそんな地雷(ネトラレリスクフル)な美少女達が三人一緒なのだから、ネトラレリスクの相乗効果によって“寝取られ(ネトラレ)に染まりし終末世界(・アポカリプス)”が勃発したのだろう。


 ああ……現世(うつしよ)も寝取られに満ちている……。

壮太、半泣き。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そこに行けばどんな女子もネトラレると言うよ 誰も皆行きたがらないがすぐそこにある世界 その世の名はネトラレ・アポカリスプ 少女を襲うディストピア どうしたら逃れられるのだろう 教えて欲しい…
[一言] 勝手に寝取られ認定された三人wwww
[良い点] 久々の更新でしたが、初端から飛ばしてて笑い不可避でした。 もはや、壮太の妄想ネトーリーは失礼レベル(いや、最初からか 笑)。 >(穴山……お前、遂に寝取られちまったんだな……) ↑ お前…
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