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単独行動が好き

大変お待たせしました。

 それは、俺達が水族館に入館して、10分程度が経過した時だった。


「ねぇ、壮太くん。常石先生の姿が見えないのだけれど……。」


 砂川さんの声に振り返ってみれば、確かに常石先生の姿が見当たらない。


「確かに、居ないね……って言うか、最初からいなかった説は?」


「いえ、入って直ぐの回遊水槽までは一緒にいたはずだわ……。」


 プラネタリウムで偶然会って以降、何故か俺達のWデートに同行しようとする常石先生。

 水族館までの道程を同行したが、一緒に見て回る約束をしている訳ではない為、先生が突然、別行動を取ったとしても何ら不思議はない。まぁ、別行動を取るのなら、一声掛けてくれよ……とは思うが。



「普通にトイレじゃね?」


 デリカシーに欠ける発言だが、俺も穴山の言う通り、常石先生が単にトイレへ行っただけという可能性が高いと思う。

 用を足しに行く際、常石先生がわざわざ俺達へそれを報告する義務は無いし、それ以外の用事で別行動を取っているとしても、しばらくしたら勝手に戻ってくるだろうと、俺達はさして気に留めることもなく、次の水槽へと移動を始めた。




「そう言えば、橋爪さ――んぉう?!」


 ふと、橋爪さんの姿も見当たらない事に気が付き、振り返ると、視界一杯に橋爪さんの微笑みが飛び込んできた。

 接触を回避する為、俺は慌てて上体を反らす。


(危なっ!あと少しで唇が触れそうなほどの超至近距離だった……。)


 どうやら、橋爪さんはピッタリと俺の後ろを歩いていたようで、位置的に俺の死角に入っていた為に居る事に気が付けなかったようだ。


 今日の橋爪さんはヒールサンダルを履いている為、身長が底上げされている。もし、彼女が偶然上を向いている時に、俺が腰を屈めたまま振り返ったら、先ほどのよう(未遂だったが)に唇同士が接触してしまう恐れがある。

 アクシデントのような形で橋爪さんの唇を奪ってしまったら、流石に申し訳が無いので、次から振り返る時には気をつけないとな……。




 次に俺達が訪れた水槽の中では、人魚と称される動物、ジュゴンがゆったりと泳いでいた。

 ジュゴンの泳ぐ水槽まで移動する際、三階のプールでイルカショーをやっている事を知った美織が、ショーを見に行きたがったが、常石先生が直ぐに戻ってくる可能性もあった為、俺達は先に一階と二階を見て回る事にした。


「ジュゴンって、のんびりとした(つら)してんだなぁ。」


 水槽内を泳ぐジュゴンをしげしげと眺めながら呟いた穴山の言葉を受けて、俺もジュゴンへと視線を送る。


「……だな。俺も実物を見るのは初めてだ。ポケ○ンでは知ってたけど。」


 ポケ○ンと実物ではジュゴンの印象がかなり異なる。

 比較的シャープで美しい外見をしているポケ○ンのジュゴンに対して、実物のジュゴンはずんぐりとした愛嬌のある風貌をしていた。


「なぁ、美織はどう思――ぅん?」


 カバやアザラシなどのぽってりとしたシルエットを持つ動物が好きな美織に、ジュゴンを見た感想を訊こうと隣を向けば、そこには美織はおらず、代わりに俺を見つめてニコリと微笑む橋爪さんがいた。


(あ…あれ?美織は……?)


 周りを見渡すが、美織の姿は見当たらない。……もしや、イルカショーが見たくて、一人で三階へ行ったのか?


「平くん、ちょっと……。」


 橋爪さんから手招きをされて、近づくと彼女が小声で囁いてきた。


「穴山さんと砂川さんを二人きりにしてあげては如何でしょう。(小声)」


 耳元で囁かれ、またアヘ顔を晒してしまいそうになるのを気力で堪える。

 こんなところでアヘ顔を晒したら、きっとジュゴン達も驚き竦みあがってしまうはずだ。


「……そう言えば、今日は二人のデートをフォローしに来たんだった……。確かにそろそろ頃合いかもね。二人っきりにしてあげよう。(小声)」


 俺が橋爪さんの耳元に口を寄せて喋ると、彼女はブルッと身を震わせた。


「あ……ふぅ……。」

(平くんの息で……私、もう……!)


「橋爪さん……?」


 目尻を弛ませて、蕩けたような視線を向けてきた橋爪さんだったが、コホンと咳払いをした後、威儀を正して頷いた。


「私にお任せ下さい。……必ず、完遂させてみせますので。」


 完遂という仰々しい言葉に頭を傾げた俺だったが、折角なので、ここは橋爪さんに任せる事にした。




 橋爪さんの指示通り、俺は穴山達と別れて一人、三階へ上がる事にした。


 三階には美織がいるかもしれないと思ったが、彼女の姿は見当たらない。

 もしかして、一人でイルカショーに参加したのだろうか?


 イルカショーを開催しているプールはスタジアムのような構造になっており、最大800人が座れる大規模なものらしい。

 もし、美織が一人でイルカショーを観賞しに行っていたとして、見つけ出す事ができるだろうか?


(とりあえず、覗いてみるか。)


 イルカショーを開催しているプールへと向かおうとした時だった。


「あら?平くん?」


「常石先生?」


 何故か三階にいた常石先生と俺が、ばったり出会した。

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― 新着の感想 ―
[一言] アヘ顔系主人公だったことを今更思い出しましたが、伝染系だったとはつゆ知らず…
[一言] 作品とは関係ありませんが、 ノクターン発のゾンビ広告、多方面で 玩具にされ過ぎじゃないですかね? 尚こちらのネタを作者様が書いてる この小説で見たいかもwwww 野郎がアナヤマン、JKの…
[一言] あ、危なかった…… アヘ顔の弱点が橋爪さんにバレてしまったら、執拗に攻め立てられた隙に、既成事実に踏み切りそうですよね(笑) いまのところ、連れ合いが徐々に始末されていく、ホラー展開のごと…
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