とある家族の休日
誤字報告くださった方、ありがとうございました!
すみません。今話は短いです。
壮太達が隣町でプラネタリウムを鑑賞していた頃、角姉弟は自宅の庭でバーベキューをする為、その準備をしていた。
家族仲の良い角家では、度々行われるバーベキューだが、今日はいつもより少し豪華な食材が並んでいる。
角姉弟の姉、角樹里亜が手際良く調理を進めるところを、弟の角樹里王は申し訳なさそうに眺めていた。
「ごめん、お姉ちゃん……。」
沈んだ声で呟く弟へ視線を送った樹里亜は、やれやれと肩を竦め、彼がその手に持つ皿へ焼きたての肉を放り込んだ。
「いいから、アンタは沢山食べて、早く足を治しなって。」
樹里王は先日、田んぼの用水路へと転落し、その足首を捻挫している為、松葉杖を突いて歩く事を余儀なくされている。その足を案じ、今日のバーベキューの食材は少し奮発されており、準備は樹里亜が一人で行っていたのだ。
ちなみに、樹里亜の父母はあまり料理が得意ではない為、角家の料理当番は日替わりで祖母と樹里亜が担う事になっている。
昼間から酒を煽る父と祖父を尻目に、樹里亜はせっせと肉や野菜を焼いていく。
「ところで……その、平くんとやらと樹里亜は付き合っとるのか?」
突然、父が発した言葉に、肉を取り落としそうになる樹里亜。
「はぁ!?マジで何なの、いきなり?」
酒が入っている為か、赤ら顔でニヤつく父親を一瞥し、その隣で焼け具合の良さそうな肉を選んでいる母親へ目線を向ければ、母は「ごめん、言っちゃった」と舌を出した。
先日の夏祭りの夜に樹里王が暴漢に襲われそうになった事、それを助けたのが一緒に祭りへ参加していたクラスメイトであった事を樹里亜は家族に話している。その際、角家の母親はそのクラスメイトへ樹里亜が特別な感情を抱いている事を看破し、彼女に問い詰めたところ、根負けした樹里亜がそれを認めたのであった。
(お母さん……勝手にお父さんへ言うとか、マジありえなぃんだけどっ!?)
樹里亜は抗議の視線を母親へ送るが、母は素知らぬ顔で肉を頬張るだけであった。
角家の父は大らかな人柄だ。樹里亜が壮太と付き合っていようが、それに口を出す事はないのだが、寧ろ、別の意味では口を出す可能性が高かった。
角家は農業を営んでいる。祖父母と父は農家で、母はソフトウェアエンジニアである。そして、子供は二人でその内の一人、樹里王は母と同じコンピュータ関係の仕事を志望していた。
要するに角家の父は跡取りが欲しいと考えているのだ。
それが息子を窮地から救った逞しい青年であり、樹里亜も慕う人格者であるとなれば、農家の跡取り兼、娘の婿として適任であると思えたのだ。
「お姉ちゃん、平さんと付き合うの?」
つぶらな瞳で見上げてくる弟を見て、樹里亜はニタリと口角を上げる。
「もしかして……アタシと平が付き合ったら、その隙に芹ちゃんゲットだぜ!……とか思ってる系?」
「お…思ってないよ!」
実際、樹里王はもう道野辺芹への恋慕を諦めていた。
その理由は芹が壮太を想う気持ちが樹里王の想像を遥かに凌駕しており、自分がその間に入り込めるとはとても思えなかった事と、平壮太という人物への憧れが、彼の胸に抱いた恋慕の情を塗り潰してしまった為だ。
(僕も平さんみたいに……そして、いつか隣に……。)
姉の揶揄うような瞳から樹里王が目を背けた時だった。彼の瞳に角家の前を横切る小さな人影が映った。
(今のって……道野辺さん?)
芹ちゃんに何かが……?




