自慢の娘は歪に笑う
薄暗い部屋の中でスマートフォンの明かりが、その美しい顔を照らしていた。
「プラネタリウム……ね。」
坂梨美織はスマートフォンにインストールされているGPSアプリで平壮太の居場所を突き止め、その美しい顔を歪に顰めた。
「誰と一緒なのかな?……陰湿根暗女?それとも、あの品の無い黒ギャル?それとも……。」
薄暗い自室の中、美織は苦虫を噛み潰したような表情でスマートフォンの画面を睨む。
先日、壮太の兄、勇太が勤める防犯グッズ専門店で美織と壮太が遭遇した際、壮太はそれを只の偶然だと考えたようだが、それは間違いである。
美織は暇さえあれば、スマートフォンで壮太の現在地を確認しているのだ。壮太が何処へ出掛けようと、美織は直ぐに把握する事ができた。
「壮太……私達、ずっと一緒だよね……エヘヘッ。」
壮太と美織は幼馴染であり、家族ぐるみでの付き合いもある。つまり、美織は壮太の家族から、ある程度の信望を受けている立場にあるのだ。
壮太が風呂に入っている間に、彼の自室へ入ったとしても、壮太の家族がそれを咎める事など無かった。
「壮太……壮太、壮太、壮太……好き!大好き!」
薄暗い部屋の中、カーテンの隙間から射す光が机の上を照らしている。
机の上には写真立てが置いてあり、その中では中学生活最後の日の美織と壮太が笑っていた。
ちなみに何故、美織が壮太のスマートフォンにGPSアプリをインストール出来たのか。
それは、壮太のスマートフォンのロックパスコードが美織の誕生日の日付になっていたからだ。
壮太としては、パスコードを美織の誕生日に設定した事に深い意味は無かった。単純に、家族の生年月日だと予測される恐れがある為、親しい知人の誕生日を設定しようと考えた結果、美織の生年月日を採用したに過ぎなかった。だが、美織はそうは考えない。
「やっぱり……壮太は私の事、好きなんだね。私の壮太……だよね。」
美織は愛おしそうに自分のスマートフォンを撫でる。
美織のスマートフォンのロックパスコードは壮太の生年月日に設定してあるのだ。つまり、理由こそ違えど、美織と壮太は互いの生年月日をパスコードとして採用している事になる。
「相思相愛……って事でいいよね。エヘッ……エヘヘヘッ……。」
美織が顔を綻ばすと同時に、部屋をノックする音が響いた。
「美織、お昼ご飯よって……ひっ!?」
美織の母が昼食の準備を終え、娘である美織を呼びに彼女の部屋へ向かえば、電気の点いてない部屋の中にはスマートフォンの明かりで顔を照らされ、歪な笑みを浮かべた娘の顔があった。
「み…美織、電気くらい点けなさい!」
叱咤する母に「ごめんなさい」と謝りつつも、美織の瞳は暗闇の中、爛々と光っていた。
「ねぇ……お母さん。」
不意に呼ばれ、美織の母はビクリと肩を竦める。
「私が大学生になったら、壮太と同棲する予定だって事、お父さんに話してくれた?」
下から覗き込むように娘の顔が、母の眼前に現れる。
薄暗い闇の中、ノーモーションで不敵な笑みを浮かべた娘の顔が現れ、美織の母は悲鳴を上げそうになり、慌てて自分の手で口を塞ぐ。
美織の母は、最近の娘の変化に戸惑っていた。
親の贔屓目抜きにしても容姿端麗で、成績も優秀な娘である美織。
美織は坂梨夫妻にとっては自慢の娘であり、学園でも人気者である。だが、ここ最近の美織は益々美しさを増す一方、その瞳には狂喜の色を灯しているように母には思えた。
(壮太くんなら、反対はしないけど……。)
美織の母が壮太へ抱いている印象は悪くない。彼が礼儀正しく誠実な少年であり、努力家である事も知っているからだ。だが、母はある懸念を抱いていた。
(同棲する予定って……壮太くんの同意を得ているのかしら?)
母から見ても、壮太と美織はお互いを大切に想い合っているようには見える。だが、その方向性と熱量には明確な違いがあるようにしか思えなかったのだ。
「あ……、それと、お母さん。私、午後から出掛けるから。」
「え…ええ。分かったわ。」
母は密かに頭を抱えた。
ママが可愛そう!笑




