駅前の地雷
俺、穴山と砂川さんの三人はプラネタリウムのある隣町へ向かう為、電車に乗り込んだ。
「いやぁ~晴れて良かったぜ。」
穴山の言う通り、今日は晴れている。故にかなり蒸し暑いのだが、せっかくのデートで雨に降られるのは嫌なので、俺は「だな」と、穴山の言葉に同意を示した。
「壮太くん……もう、身体は大丈夫なの?」
しばらく電車に揺られていると、不意に砂川さんから、体調を慮る声が掛かった。
「うん。問題ないよ。」
俺が心配させまいと、力こぶを作って見せると、砂川さんは口元に手を当てて「クスッ」と上品に笑った。
うむ。大分、打ち解けてきたかな?
隣町の駅で降りた俺達三人は、もう一人の同行人である橋爪さんの姿を探す。
橋爪さんはプラネタリウムのある、この街に住んでいる為、今日は彼女だけ現地集合となっているのだ。
橋爪さんはすぐに見つかった。
駅舎から出て直ぐに謎の人だかりが出来ており、その中心に橋爪さんはいた。
「おい、あの娘……ヤバくね?くっそ可愛いんだが。」
「マジだ……しかも、胸デケェ。何カップあんだろう?」
「なあ、お前、声掛けてみろよ。……はっ、俺?俺には無理だ……。」
ヒソヒソと話しながら、橋爪さんを遠巻きに見ている男達を押しのけ、俺は彼女の元へ向かう。
「こんにちは、橋爪さん。」
俺が軽く手を上げながら橋爪さんの前に立つと、遠巻きに見ていた男達がざわついた。
「くそっ……やっぱ、彼氏持ちかよ。」
「彼氏どっちだ?あっちの何故かバンデージ巻いてるイケメン野郎か?それとも、如何にも野球やってそうなノースリーブの坊主頭の方か?」
「何気に、今来たボブカットの娘も可愛いぞ!ケッ……リア充共めがっ!」
周りの連中がざわつくのも解らんでもない。
今日の橋爪さんは、いつも学園で見る彼女とは違い、髪を横に流している為、その綺麗で端正な顔を完全に覗かせている。どうやら、軽くメイクもしているようで、その様はまさに美少女……文句なしの超絶美少女である。
服装も彼女の清楚な雰囲気に似合う、白を基調とした清涼感のあるワンピースを着ており、その胸元を押し上げている大きな胸が、清楚さの中に隠しきれない蠱惑さを醸し出している。
うん。ぶっちゃけると、すごく、エロ可愛い……。
穴山なんて、さっきから橋爪さんの顔と胸を交互に見て、鼻の下を伸ばしっぱなしだ。
砂川さんを放っておいて、他の娘に視線釘付けとか……。彼女から愛想を尽かされても知らねぇぞ。
「平くん、こんにちは。」
ふわりと上品な微笑みを向けてお辞儀をする橋爪さんに、周りがどよめき、俺も思わず息を呑む。
(な…なんという、ネトラレリスク……。)
解っていはいたが、橋爪さんはやはり超絶ネトラレリスクを誇る“絶対不可避たる寝取られ因果に生まれし者”に違いない!
隠れ美少女にして、巨乳属性。内向的な性格で清純な雰囲気。数々の危険因子を高いレベルで所持している上に、文学少女と来たものだ……。ネ…地雷!
橋爪さんの高すぎるネトラレリスクに戦慄しつつも、俺は何とか言葉を紡ぐ。
「今日はごめんね。突然、デートに誘っちゃって。」
「そんな……。誘ってもらえて嬉しいです、私。」
橋爪さんから真っ直ぐに瞳を見据えられ、俺は少しどぎまぎしてしまう。
彼女の笑顔を見た砂川さんも、感嘆の声を漏らした。
「綺麗……。」
砂川さんの呟きに、穴山も首をブンブンと縦に振る。
おい、穴山!そこは「でも、俺にとっては、瑞穂が一番だよ」とフォローを入れるところだぞっ!
ええい!仕方のない奴め!
「橋爪さん、髪型も服も、凄く似合ってる。いつも以上に可愛くて、本当にビックリしたよ。……勿論、砂川さんもね。」
橋爪さんを褒めつつも、砂川さんへのフォローも忘れない。
橋爪さんは頬を紅く染めて俯き、俺の腕にそっと触れた。
残念ながら、砂川さんは取って付けたようなフォローがお気に召さなかったらしく、プイッと顔を背けてしまった。何故か、彼女の頬も紅くなっているように見えるが、たぶん暑さのせいだろう。
「なぁ、壮太。俺は?」
このタイミングで謎の対抗意識を燃やす、お馬鹿な穴山へは肩パンをお見舞いしておく。
かくして、俺達は最初のデート先である、プラネタリウムへと歩を進めた。
男の友情は肩パンから!




