表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/93

触ってもいいぜ

 自室の鏡の前で、穴山将一は唸っていた。


(う~ん……これじゃねーなぁ。)


 将一は今日、これから砂川瑞穂と初デートへ行く予定であり、そのデートで着る服を決めかねていた。


(壮太みてぇに背が高けりゃなぁ……。)


 将一の身長は169cm。高校2年生としては平均的な身長ではあるのだが、親友の壮太と比較して、7cmほど低い身長を彼は少々コンプレックスに感じていた。


 あれでも無い、これでも無いと、クローゼットから服を取り出して着てみては、鏡の前でポーズを決める。

 季節は夏。服を着込む必要など無いのだが、将一はボトムスを彼のお気に入りのスキニーパンツに決めた後、それに合わせるトップを決めかねていた。


 ふと、将一の視点が一枚のノースリーブシャツへ留まり……パッと目を見開いた。


(こ…これだぁ!)


 将一は野球部だ。日々、部活の中で投球によって鍛えられた肩の筋肉がある。この肩筋を見せつける事が出来るノースリーブこそが、将一には勝負服だと思えた。


(おし!今日は俺の肩筋で、瑞穂をメロメロにしてやんよ!)




 将一が自宅で一人ファッションショーに明け暮れている間、壮太は……腕立て伏せをしていた。


「健全な肉体にNTR無し!健全な精神にNTR無し!」


 右拳を骨折している為、左腕一本かつ、左肋骨にはヒビが入っている為、上体を完全に固定しての腕立て伏せになる。


(きっつ……!)


 気を抜いて、上半身が丸まってしまうと肋骨にダメージがいく、バランスを崩して右手を着いてしまえば、折れた拳に激痛が走る。そうならない為に壮太は腕立て伏せに全集中力を注ぐ。


「……99……100ぅうえぇい!!」


 ようやく日課の腕立て伏せ100回を終えた壮太――俺は、シャワーを浴びる為に脱衣所へ向かった。



「おい……壮太。閉めろよ。」


 脱衣所にはシャワーを浴びた兄貴、勇太がいた。

 筋骨隆々の大胸筋から滴った水が、鋼鉄の如き腹筋を伝い……お粗末なソレへと落ちる。


「てめぇ、壮太!何、笑ってやがる?!」


「うん?別に?」



 兄貴から拳骨を食らった後、俺もシャワーを浴び、デートの準備に取り掛かる。


 準備と言っても、特別な事は何もない。ただ、胸部固定帯を巻いた後に、適当なジーンズに7分袖シャツを合わせて、髪形をセットするだけだ。それなりに小綺麗に見える程度の身嗜みを整えれば問題ないだろう。

 デートと言っても、メインは穴山と砂川さんで、俺と橋爪さんはダミーのようなものだしな。


 最後に右拳へバンデージを巻いた俺は六戒を唱えた後、家を出て、待ち合わせ場所である駅へ向かった。




 駅に着けば、既に穴山が待っていた。


「おっし!被ってねぇ!」


 俺の服装を確認した穴山が謎のガッツポーズを取る。俺と服の系統が被るのがそんなに嫌なのだろか。


「……しかし、何だぁ?」


 今度は俺の体をまじまじと観察し始めた穴山。


「壮太……お前、何気に筋肉すげぇな。シャツから覗く、胸筋とか前腕とか……ゴクリ。」


「おい……穴山、近ぇから。」


 穴山が鼻息荒く、俺の筋肉を観察する。


「し…しかし、肩筋なら負けてねぇぞ!なあ、壮太、俺の肩筋触ってみてくれよ!」


「は?嫌なんだが。」


「いいじゃねぇか!なぁ、触ってくれ、さあ、さあ、さあ!」


 ノースリーブから露出している肩を触らせようと、俺の手を取り、グイグイと引っ張る穴山と、絶対に触りたくない俺との攻防が始まった。


 駅前という人通りの多い場所でやっているという事もあり、ギャラリーも増えて来ているが、そんな事は関係ない。男には引けぬ時があるのだ。


「いいから、俺のを触ってみろよ!」


「絶対に嫌だ!」


「お前のも触ってやるからさぁ!」


「いや、触んなくていーから。」


「揉んだっていいんだぜ?」


「揉んでどうすんだよ!ただ、硬いだけだろ。」


「ああ、カッチカチだぜぇ?」



「……あの。何してるの?」


 その時、ギャラリーの中から、一人の少女が歩み出て来た。穴山の彼女である砂川さんだ。


 砂川さんが俺達へ向ける白い目が痛い。


「二人って……いつもそんなにイチャイチャしてるの?」


「ィ…イチャイチャとか、してねぇし……。」


 穴山が照れながら、鼻の頭を掻く。

 おい、穴山。その態度、何かツンデレっぽくて、逆に誤解されそうだから止せ!


 こ…ここは、誤魔化すに限るっ!


「砂川さん。」


 俺が呼びかけると、砂川さんが呆れ顔のまま、こちらへ向き直った。


「今日はデニムシャツに白いフレアスカートを合わせたんだね。清楚な感じだし、すごく似合ってて、可愛いよ。」


「っ~!?」


 瞬時に真っ赤になった砂川さんが、涙目で俺を睨みつける。


(おい……穴山、お前も褒めろ。)


 俺が耳打ちすると、穴山はコクリと頷き口を開いた。


「み…瑞穂。今日のシャツとかスカートとか?清楚っぽくて、に…似合ってるぜ?」


 パクリかいっ!しかも、中途半端な褒め方だし……。

 まあ、誤魔化せたっぽいし、別にいいか。

瑞穂「っ~!?(本当に悪い男っ!)」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] もう全てが駄目な方向にノロノロ運転な感じ(ナニソレ 砂川さんは壮太に気が行ってるし アナヤマンは無自覚ホモ化してるし これからって来るヤンデレは特大の地雷だろうし 壮太ぁァァ もう面倒…
[良い点] 穴ビッチ!!そういう所だぞぃ!!(°o°) 野郎がデレても嬉しくないやい(ヤケクソ) [気になる点] 砂川さんの反応可愛過ぎないですかね? 今は壮太に対してツンデレみたいな 反応だけど、…
[良い点] >(おし!今日は俺の肩筋で、瑞穂をメロメロにしてやんよ!) ↑ むしろ壮太をメロメロにしに、かかっている件! やはり潜在的に壮太のことが大好きなんじゃないですかね? このままでは橋爪さん…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ