裏切りの結晶
すみません!今回は胸糞描写が満載です。コメディーなのに!汗
芹ちゃん関係の話を進めるには、どうしても避けられないエピソードだったので……。
本当に申し訳ないです。
救済措置?と致しまして、苦手な方は、後書きまで飛ばして下さい。
そちらへ今話の要約を書きますので、そこだけ読んでいただければ問題ないです!
夏休みのある日、道野辺芹は母親へとそれを強請った。
「スマートフォンが欲しい……?」
その言葉に道野辺翠は驚き、少し眉を釣り上げた。
芹が何かを要求する事自体が珍しい上に、それがスマートフォン――コミュニケーションツールであるという事を翠は意外に感じたのだ。
芹は現在、小学四年生。実際、同級生にも自分のスマートフォンを持つ者はいるが、あまり友人が多くないであろう芹がスマートフォンを欲しがる理由が翠には解らなかった。
先日、芹が下着を買うお金が欲しいと言い出した時、翠は自分の財布から一万円札を4枚取り出し、芹へと渡した。
子供の買い物へ持たせる金銭としては、4万円はあまりにも多過ぎる額ではあるが、翠はそれを惜しいとも、過剰とも考えなかった。それは、娘を甘やかしているからという理由ではなく、翠にとって、芹へ金銭を渡すという行為は、贈与するという意味ではなく、本来の持ち主に返すという意味であるからだ。
だが、スマートフォンの場合、下着のように金銭だけ与えられても購入する事はできない。それは、芹が未成年である為、保護者の同意無しに利用契約ができないからだ。
「お金なら、いくらでもあげるわ。」
翠は芹へとそう告げた。
翠は未成年の芹が一人でスマートフォンを購入する事ができない事を当然、知ってはいたが、それを芹へ指摘しようとは思わなかった。自分が干渉すべき問題では無いと考えているからだ。
「……私、一人じゃ買えないから。」
芹は俯いたまま、母である翠へそう呟いた。
「……お父さんにお願いしてみなさい。」
「あの人は、パパじゃない!」
突然、声を荒げた芹が翠を睨みつける。だが、その瞳を見ても、翠は全くの無表情であった。
「じゃあ、諦めなさい。」
「………。」
憎々しげな表情のまま、踵を返した実の娘の背中を一瞥した翠は「ふぅ」と溜息を吐いた。
今日は家に居ないが、翠には彼氏がいる。そして、その彼氏と近い内に籍を入れて、結婚……いや、再婚するつもりではいるが、現在、芹にとって、翠の彼氏は“お父さん”では無く、芹の言う“パパ”こそが、芹の父親である。……法律上は。
道野辺芹――道野辺翠とその配偶者であり、故人の道野辺柾の娘。ただ、それは法律上そうであるというだけで、柾と芹に遺伝的な共通点はない。つまり、生物学的に二人は他人であるのだ。
そして、生物学的な意味での、芹の父親は……翠の彼氏、土屋修司である。
翠と修司が知り合った切欠は二人が通う学園の文化祭だった。当時、ギタリストを夢見ていて、学園では軽音部に所属していた修司は、文化祭でバンド演奏をして、学園中を沸かせた。
所謂、ヴィジュアル系バンドであった、修司達のバンドは物珍しさらから一躍、学園中の話題の中心となった。
修司は浮かれていた。ちやほやされる事が快感であった。そして、何より……学園一の美少女と名高い、翠と付き合える事になったからだ。
とあるクラスが学園における様々な分野でのランキングを作り、それを文化祭の出し物として、模造紙へまとめて掲載した。
そのランキング表において、美少女ランキングの一位を飾ったのが翠であった。
修司のバンド演奏を聴いてファンになった翠は修司へ告白し、二人は恋人同士となった。
当時の翠は確信していた。修司ならば、きっと有名なミュージシャンになるであろうと。だが、その道は険しく困難なものであり、数々のオーディションに落選し続けた修司は、その鬱憤を晴らす為、夜遊びをするようになり、素行の悪い連中とつるむようになっていった。そして、学園にも滅多に登校しなくなった修司は留年し、やがて自主退学をする事となった。
その頃になると、翠の修司へ感じていた恋心も冷めてゆき……二人は別れた。
翠が芹の“パパ”となる道野辺柾と知り合ったのはその後だ。
大学への進学を希望していた翠であったが、修司と付き合うようになって、成績は著しく落ちており、志望大学への進学を危ぶまれていた中、翠へ勉強を教えたのが柾であったのだ。
ワイルドな修司とは違い、真面目で落ち着いた柾に新鮮味を感じた翠は、徐々に柾へ惹かれていき、同じ大学へ進学すると同時に二人は付き合い始めた。
翠は優しく真面目で、自分に尽くしてくれる柾に不満などなかった。だが、大学卒業を控えたある日、翠はかつての恋人である修司と出会い……再び恋に堕ちた。
柾との関係は順風満帆であったが、翠はそこには刺激を感じられなかった。
故に翠は自分へ刺激を与えてくれる存在である修司を眩しく感じた。これが自分の望んでいた刺激なのだと歓喜した。
修司はインディーズでバンド活動をしながら、ヨウツーバーをしていた。
それに対して、柾は中堅企業への就職が既に内定しており、将来性という意味においては何の問題もなかったが、柾と居ても翠の欲す刺激的な出来事は起こらないであろうと思えた。
翠は柾に罪悪感を感じつつも、修司と関係をもった。そして、修司の子を妊娠した。それが、道野辺芹である。
経済力の無い修司に大黒柱となって、家庭を支える能力はない。
故に翠は大学卒業と同時に柾と結婚する事を決め……今に至る。
(まーくん……ごめん。)
翠は後悔していた。柾を裏切り、修司との子を彼に育てさせるという、最低の行いをした事を。そして、柾が死んで、翠は初めて気が付いたのだ。誰が最も大切であったかを。
(……ホント、遅すぎよね。妻としても母親としても最低だわ。)
翠は自身が最低である事を理解していた。だが、翠はそれでも誰かに縋らずには生きてはいけない弱い生き物であった。例え、それが――
「お〜い、翠ぃ……パチンコ行きてーから、金、貸してくんね?」
未だ夢に現を抜かし、働くこともしない駄目な男であったとしても。
NTRが苦手な方への、今話の要約です。
むか〜し、むかし、あるところに翠さんと柾さんという夫婦がいました。
二人の間には芹ちゃんという女の子が生まれますが、なんと、その子と柾さんは血が繋がっておりませんでした。
芹ちゃんは柾さんを父と慕っていましたが、芹ちゃんの本当の父親は土屋修司というチャラ男。
そうです……芹ちゃんの母親である翠さんは、托卵女子だったのです!
翠さんは柾さんが亡くなった後、後悔しましたが、弱さ故に修司とズルズル関係を保ち続けていましたとさ……めでたし、めでた……くない!!
托卵はエグいですよ……本当に。




