君に決めた
穴山と砂川さんが帰った後、俺は自室でぼんやりと窓の外を眺めながら、先ほど穴山へ提案したWデートについての考えを巡らせていた。
親友とその彼女の為、一肌脱ごうと企画したはいいが、そもそも俺に彼女ができた事など無く、デートの経験も当然無い。
そう考えれば、俺よりは経験豊富な穴山を、恋愛初心者の俺がフォローしようとするというのも、また妙な話ではあるのだが……まぁ、自分から言い出した事だ。最善を尽くそう。
当面の問題になるのは、誰をデートに誘うかという事だ。
デートとして成立させる為には、いつ、どこに、誰と行くかという三つの要項を満たす必要がある。つまり、Wデートの為に急拵えの彼女を用意する必要があるのだ。
そこで候補に上がる人物その一。
俺の幼馴染で、学園では上位カーストに在る坂梨美織だ。明るい性格で、俺とも親しく、気の置けない関係にある彼女ならば、デート相手としても最適な選択肢ではあるのだが、今回は敬遠すべきだと考えている。
何故なら、穴山は以前、美織へ好意を抱いていた事があり、彼女に告白してフラレた事があるからだ。
さすがにデートの相手を美織に頼む事は無神経であると言えるだろう。
次に同じクラスの角さんだが、今回は彼女も敬遠したい。
夏祭りの日、俺は角さんから、俺達が初めて出逢った日の話を聞かされた。その結果、夏休み前に角さんから受けた告白が、罠や嘘告白などの悪戯では無い可能性が出てきたのだ。
良く見れば、角さんも十分に美少女だ。友達以上の関係になる事は避けたい。
他に候補になり得るのが、同じクラスの陽キャ女子達だが……転校が決まっている現状で、デートに誘うのもどうかという問題がある。
デートという名目で出掛ける以上、芹ちゃんを連れまわすわけにも行かない。それに、小学生をデートの相手に選ぶという事は、俺へ掛けられている○リコン疑惑を肯定したようなものだ。
ジュリオくんは足を捻挫している上に、そもそも男性だから、いくら可愛くても無し!
消去法で選んだ結果、俺はデート相手を橋爪さんへお願いする事にした。
物静かで理知的な彼女であれば、妙な関係へ発展する可能性もないだろうし、当然、間違いだって起こる事はないであろう。
夏祭りの日、橋爪さんが俺の事を〝良い人”と言ってくれた事からも、彼女が俺を恋愛対象として見てはいない事が分かっている。
恋愛において、良い人は、友達止まり……論を俟たない、歴然たる事実であろう。(情報ソース:兄貴が隠し持っている少女漫画)
それに、今回のデート先は水族館かプラネタリウムになる予定だ。
普通に出歩いているが、俺は拳と肋を骨折しているのだ。体調的な問題で、遊園地やボーリングなどの運動施設、カラオケなどでのデートが困難である事から、水族館かプラネタリウムの二択となった。
その二択であれば、基本的には静かな場所だし、騒がしいところが苦手な橋爪さんも容認してくる可能性がある。
勿論、デート先云々の前に、橋爪さんが俺達と出掛ける事自体を嫌がる可能性もあるが、俺はダメ元で彼女のスマートフォンへと電話を掛けてみる事にした。
「もしもし!平くんですか?」
「う…うん。俺だけど……。」
ワンコールで電話に出た橋爪さんの意外な反射神経の良さに驚きつつも、俺は用件を伝える為に口を開いた。
「ごめん、突然。今、大じょ――
「大丈夫です!」
「そ…そっか。良かった。それで、明後日なんだけど、空いて――
「空いてます!」
「お…おぅ。じゃあさ、俺と一緒に――
「デートですか?!デートですよねっ?行きます!是が非でも!」
すべての言葉を喰い気味に返され、唖然とする俺の耳に「フフフ、楽しみです」と怪しく笑う橋爪さんの声がスマートフォン越しに響く。
その後、俺は橋爪さんへ当日の詳細な段取りを伝えた。
「……という事で、明後日、よろしくね。」
「はい。こちらこそ。あ……最後に、平くん……今回の件は私を選んでくれたと考えても良いのですよね?」
「え…選んだ……?まぁ、ある意味では、そういう事になるのかな??」
「フフフ……何という事でしょう……フフッ……フフフフフッ……。」
(やはり……やはり、私達は結ばれる運命だったという事ですね!坂梨美織も、道野辺芹も……最近、周りを飛び回っていて鬱陶しい角樹里亜も……申し訳ございませんが“ざまぁ”させていただきますね。)
何やら怪しげな笑い声を上げる橋爪さんとの通話を終えた俺は、次に穴山へと電話を掛け、当日の最終的な段取りを決めた。
壮太の中で、橋爪さんは清楚な文学少女(内向的)という評価なのですが……。汗




