その代償は
その後、駆け付けた警察から熊門という大男と、他二人の男、最初に芹ちゃんとジュリオくんを襲った男を含む全員が逮捕され、俺達は最悪の事態を免れた。
せっかくの夏祭りを台無しにしたチャラ間男達への怒りは未だ燻ってはいるが、とりあえず全員無事だったので、良しとしよう……と、言いたいところだが、穴山が少し心配だ。
どうやら、肛○付近に裂傷のような痕が出来ているらしく、穴山はしきりに尻をさすっていた。
『なぁ……壮太、もしかして、俺、気絶している間に初めてを……。』
絶望を宿した瞳でそう問いかけてきた穴山へ、俺は「大丈夫だ」と曖昧に答えた。
実際、穴山の尻に何が起こったのかは、美織や橋爪さんにも分からないらしい。
彼女達の証言では、熊門が一瞬、穴山に覆いかぶさったように見えたらしいのだが、もしそれが本当だとすると……いや、止めよう。うん、例えそうだったとしても、ノーカンだ。ノーカン。
犬に噛まれたと思って忘れるより他あるまい……。
今後、俺は穴山に優しくしてあげようと思った。
ちなみに穴山の尻以外には、砂川さんが膝に少し擦りむいた程度の傷を負い、ジュリオくんが足首を捻挫した。芹ちゃんや美織達には怪我がなく、何気に一番重症だったのは、俺だったりする。
俺は右拳と左の肋骨を骨折し、全身の打撲と瞼から出血、歯も一本折れていた。
神社での死闘の後、ボロボロになった俺の姿を見て、芹ちゃんが大泣きして困ったのだが、その話は今は置いておこう。
とりあえず、俺達は日常に戻った……つもりだったのだが――
「えーっと、退学……ですか?」
例の事件から4日後、俺と母さんは学園長に呼び出され、個人面談を受けていた。
「いやはや、学園としましても、平くんのような優秀な生徒を退学にはしたくないのですが、流石に傷害事件となりますと……その、致し方ないと申しますか……。」
学園長の言う傷害事件とは、例の事件で殴り倒した男の一人が俺を起訴した事が発端となった事件だ。
夏祭りの日、俺が怪我を負わせた人間は熊門という格闘技経験者の大男と、芹ちゃんとジュリオくんに襲いかかったチャラ男の二人だ。
その内、熊門の方は格闘技経験者である事や、明確に俺と対峙していた事で正当防衛が成立したのだが、もう一人のチャラ男の方は、ほぼ不意打ちで一方的に殴り倒した挙句に、顎骨の複雑骨折という重症を負わせた為、俺は傷害の容疑で起訴された。その結果、過剰防衛と判断され、俺は傷害罪に問われる事となったのだ。
まぁ、結局、俺が未成年である事と、状況的に情状酌量の余地ありと認められた為、厳重注意と示談金の支払いで、一応は不起訴処分という形に落ち着きそうではあるものの、流石に学園側として、何のお咎め無しとはいかなかったようだ。
「そ…そんな……。学園長先生、どうか息子を許してはいただけませんか?」
俺の退学を聞いた母さんが、学園長に退学の取り消しを懇願するが、学園長は首を縦には振らなかった。その代わりに、学園長はこう提案した。
「形の上では退学……と致しますが、私共といたしましても、平くんのような真面目で優秀な生徒の未来を暗いものにしたくは無く……ですので、事実上の転校という事で、姉妹校へ移っていただくという事でどうでしょうか?」
学園側としても、最大限の譲歩なのだろう。
俺達の通う学園は地元でも名門と知られた学校だ。流石に傷害を起こした生徒を在籍したままにしてはおけないのだろうが、表面上は退学という処理をし、実際には転校先を斡旋してくれるのであれば、俺としても折れる他ないであろう。
それに、このまま退学の取り消しを粘った結果、その弱みに付け込んだ間男連中から、母さんや美織達が狙われる可能性も否定できない。
それだけは、何としても回避せねばならないのだ。
学園長も一見、良い人そうだが、校長や教頭クラスの地位にいて、頭が薄い奴はネトリスト率が高い。(偏見)
地位や権限を使って寝取りに掛かる権威主義的間男というヤツだ。権力のある人間は危険……そう、すごく危険なのだ。
俺は出されたお茶を口に含んだ後、テーブルへそっと置き、学園長へと頭を下げる。
「解りました。退学……いや、転校の件、よろしくお願いします。」
これで、第2章は完結となります。
次章は角膜の記憶に関係する、芹とその母に焦点を当てた物語になります。
はたして、壮太と芹ちゃんは……。




