君の偏差値が好き
結局、飲み物の買い出しは俺と角さんの二人で行く事になった。
神社の正確な場所を知っているのが、角さんとジュリオくんのみなので、必然的に二人の内のどちらかには着いて来てもらう必要があり、俺は彼女と近く自販機まで歩く事となった。
「あ……売り切れ。」
自販機に辿り着いた俺達だったが、生憎、ほどんどのジュースが売り切れで、青汁とコーヒー、お汁粉のみが現在、販売中となっていた。
「ちょっと、距離あるけど、もう一つ自販機あるよ。」
角さんにそう言われ、俺達はもう一つの自販機へと歩き出す。
「ねぇ、平。この前の話、なんだけど……。」
隣を歩く角さんが不意に話し始める。
「この前、私、平に告ったじゃん?アレって……どう思った?」
どう思った……か、何とも抽象的な質問だが、ここは正直に答えるべきか。
「陰謀かと。」
「はぁ?!イミフなんだけど!」
少しむくれた角さんから肘打ちを喰らう。普通に痛いな。
「平の周りってさ……可愛い子、多いじゃん。坂梨とか橋爪、砂川……は、穴山の彼女だからあれだけど。それでさぁ……アタシってどうなのかなって。」
いつも教室で見る角さんとは違って、少し湿っぽい雰囲気の彼女。
まぁ、分からなくは無いかな。
美織は文句なしの美少女だし、橋爪さんもかなりの美少女だ。それに、砂川さんも清楚な感じで可愛かった。その中で客観的に見て、自分がどうなのかって不安になったのだろう。
不安……これは、解消してあげる必要があるだろう。
心に憂慮があれば、そこを狡猾な間男達に付け込まれてしまう懸念があるからだ。
俺と角さんはただのクラスメイト同士という関係だが、彼女がクズ達に弄ばれる事態になる事を俺は望まない。故に、ここでの言葉選びは重要である。
角さんに自信を取り戻させる言葉……。
そもそも……だ。男性と女性では脳の発達が多少異なる。
一般的に何事も論理的に考えがちな男性と違って、女性は感情的な言い回しを好む傾向にあると考えられている。
つまり、ここで俺が角さんの魅力を分析的、相対的に評価して伝えたとしても、彼女を元気付けられる可能性はあまり高いとは思えない。無論、そこは角さんの人となりを熟知してないと、正確な判断を下す事が出来ないのだが。
暫く黙考した後、俺はあえて主観的な言葉を選んだ。
「少なくとも俺は……角さんが良いかな。」
「え……?」
角さんが“一番”とは言わない。それは相対評価だからだ。
俺の言葉を聞いた角さんは瞳を大きく見開いて、こちらへ向き直った。
……嘘は言っていないつもりだ。
ネトラレリスク的に考えて、今日のメンバーで一番偏差値が低いのは角さんだ。
俺のネトラレリスク診断では、橋爪さんがトップの87、美織が82。この二人は特別高く、超絶ネトラレリスクを誇る“地雷”だ。
次点で砂川さん。野球部マネージャーという特級危険因子持ちで、容姿にも優れているが、少し毒のある性格であり、言いたい事を我慢せずに言える人なので、あまり不満を溜め込まないタイプだと思われる。
そんな彼女のネトラレリスク偏差値は73。およそ東京大学・理科三類の入試と同等の偏差値だ。美織や橋爪さんに比べると低いものの、一般的には相当高い値だと言える。
芹ちゃんは……診断していない。流石に子供に対してネトラレリスク診断を行うのは気が引けるからな。
それでも、あえて診断するならば……美織と同等か、又は……。いや、止そう。
それで、角さんだが、彼女のネトラレリスク偏差値は概算で59くらいだろう。
よく見れば綺麗な顔をしているが、特別目を引く外見でも無く、そもそも黒ギャルという比較的安全な属性。(当社調べ)
属性別ネトラレリスクにおいて、ギャルは最下位では無いが、低い方に当たる。
属性別に比較した場合、清楚(内向的)が最もネトラレリスクが高く、ギャル(外向的)は下から数えた方が早い位置にある。(当社比による)
とはいえ、それなりの美少女であれば、ギャルも普通に間男の標的に成り得る。
故に、角さんも偏差平均値である50よりも高い、59という値をマークしているのだ。
まぁ……そもそも、JK(女子高生)という種族である時点で、容姿が並レベルであっても、ネトラレリスク偏差値は平均値の50を上回るのだが。
結論を言おう、誰かと必ず付き合う必要があるならば、俺は角さんを選ぶ。
故に先程の「角さんが良い」の台詞は、嘘偽り無しの“真”である!(証明終了)
「平……その……嬉しいよ。アタシ……。」
うむ。どうやら正解を引き当てたようだな。これにて、一件落着!
次回なのですが……一度、作中用語説明会を開きたいと思います。
読まなくても全く問題ない回なので、スルーしていただいてもOKです。