特等席を求めて
夏祭りもそこそこに満喫し、後は祭りのトリにして夏の風物詩、打ち上げ花火を皆で観る事になった。
祭りに参加していた他の人達もぞろぞろと先程俺達が話をしていた河原の方へと歩いていく。
今から河原の方へ向かって、俺達8人がゆっくりと花火を鑑賞を出来るスペースを確保できるのだろうかと、考えていた時、俺はジュリオくんから声を掛けられた。
「あの……平さん、僕、花火を観るのに良さそうな場所知ってますよ。」
「おっ、それは何処だい?」
ジュリオくんは「それは、ですね」と河原とは真反対の方向を指差した。
「あそこに、古い神社があるんです。そこの境内とか、どうでしょうか。」
ジュリオくんのその言葉に、彼の姉である角さんも「なるほど」と頷いた。
「確かにあそこなら良さげじゃない?ちょっと坂と階段を登らなきゃだけど。」
そう言えば、ジュリジュリ姉弟の家はこの辺りだったな。その神社は地域住民ならではの穴場なのだろう。
花火会場の河原からは少し距離が離れているが、花火鑑賞スポットとしては、ゆっくりと観られて良いかもしれない。
「うん。じゃあ、ジュリオくん。案内、お願いできるかい?」
「は…はい!」
うむ。これまた晴れやかな良い笑顔。もしかして、俺って子供に好かれ易かかったりするのかな?
花火を通じて、ジュリオくんと芹ちゃんも仲良くなれるといいな。
「おぉい、穴山。」
「あ?何だ、壮太?」
俺が呼ぶと、穴山は砂川さんとの話を打ち切ってこちらへ寄って来る。
また砂川さんに睨まれそうだな……と思ったが、どうやら今回は大丈夫だったらしい。
「穴山。お前、ジュリオくん達を連れて、神社まで先に行っといてくれないか?」
「神社?まぁ、いいけど、壮太はどうすんだよ?」
「俺は人数分の飲み物を買ってから行く。」
俺と穴山の話を聞いていた砂川さんがこちらへ近づいて来て、口を開いた。
「別に、平くんが全員分用意しなくても、各自で用意すればいいじゃない。」
砂川さんの言葉に、穴山も「だよな〜」と相槌を打った。
俺は密かに砂川さんの足元を見る。やはり、下駄の緒ずれだったようで、足の甲に俺が渡した絆創膏が貼られていた。今日のメンバーで、角さん以外の女性陣は皆、浴衣を着て来ている。
飲み物を買うつもりの自販機までは、それなりの距離がある為、彼女達を歩かせる事に気が引けるのだ。
俺の視線に気が付いたのか、砂川さんは溜息を吐いた。
「……平くんって、お人好しだと言われない?」
「平くんが“お人好し”と言われているかどうかは分かりませんが……“良い人(結婚相手として)”とは言われていますよ。主に私から……ふふっ。」
突然、背後から現れ、話に参加してきた橋爪さんが、音もなく俺の隣に並ぶ。
(び…びっくりした。真後ろに立っていたとは……。)
隣に並んだ橋爪さんに微笑みかけると、彼女はニコリと笑顔を返してくれた。くれたのだが……何か……黒い?
「壮太は昔から良い奴よ!何たって、私とは幼馴染だからね。壮太の事なら大抵の事は知ってるわよ。」
今度は美織が現れて、橋爪さんとは反対側の隣に並ぶ。……お前も背後にいたの?
無駄にドヤ顔で周りを威圧する美織と、黒い笑みを湛えた橋爪さんが対峙し、それに気圧された砂川さんがたじろいだ。
また……また、この謎の圧力か!
(助けてぇ〜、芹ちゃん!)
俺が無垢なる笑顔の癒やしを求めて芹ちゃんを探すが、彼女の姿は何処にも見当たらない。
「マズい!芹ちゃんが――
「私はここだよ。お兄ちゃん。」
俺が「見当たらない」と言う前に、芹ちゃんが自ら姿を表した。俺の股の間から。
「私はずっと、ずーっと、お兄ちゃんと一緒だよ。」
芹ちゃんはそう言って、俺にギュッと抱き付いていた。
そんな芹ちゃんの頭を「はぐれて無くて良かった」と撫でながら、俺は思う。
(何か……芹ちゃんから発される圧力……強くなってない?)
俺の背中に、冷たいものが伝った。
次回は恒例?のネトラレリスク診断回となります。
壮太のNTR理論がまた展開されてしまう……。
ほぼ書き上がっているので、できれば今日中に投稿したいところです。