やはり貴様の仕業か
俺も含めて8人という大所帯になったメンバーは、少し落ち着いて話でもしようかと、夏祭り会場である広場から、近くの河原へと移動する事になった。
何故か俺から離れようとしない芹ちゃんと手を繋いで歩く。
何気なく後ろを振り向くと、意気消沈したジュリジュリ弟こと、ジュリオくんが姉の角さんから慰められ(揶揄われ)つつ着いて来ている。
「芹ちゃん、ジュリオくんにさっき、何て言ったの?」
先程の件が気になって尋ねても、芹ちゃんは「何でもないよ」と微笑むだけ。
何だろう……最近の芹ちゃんは以前と雰囲気が変わってきている。謎の凄みが感じられるようになった。
凄みと言えば、橋爪さんもだ。
物静かな文学少女という印象だった橋爪さんだが、時折見せる笑顔が……まぁ、何だ?上手く言えないけど、ヤバい感じがする。
そもそも、橋爪さんが夏祭りに参加するとは思っていなかった。
彼女は隣町からこの街の学園に通っている。この街の住人ではないのだ。
つまり今日、橋爪さんが此処にいるという事は、彼女はこの夏祭りに参加する為にわざわざ隣町から電車でやって来たという事になる。
祭り……というか、彼女は賑やかなところが苦手なイメージだったのだが、何故だ?
そして、美織も美織で何かがオカシイ。
幼馴染として、俺は彼女の事なら大抵の事を知っているつもりだったが、ここ最近の美織も橋爪さん同様にヤバい感じがする。
我ながら語彙力に乏しいとは思うが、彼女達からは、言葉にできない謎の圧力を感じるのだ。
この前の買い物以降、さらにその圧力が強まったように感じる。
問題なのはその圧力を今、俺の隣を歩く小さな少女からも感じるという事だ。
(芹ちゃ〜ん、どうしちゃったんだい?お兄ちゃん、ちょっと怖いぞ〜!)
俺が心の中で芹ちゃんにそう訴えかけると、こちらを見て微笑む彼女からギュッと手を握られた。
それがまるで「逃さないよ」と言われているようで、俺は内心、冷たいものを感じる。
圧と言えば、野球部のマネージャー兼、穴山の彼女である砂川さん。
彼女からはまた別の圧を感じる。というか、ぶっちゃけ、俺は彼女から嫌われているようだ。
女児下着を買いに行った件から、○リコンだと思われているのか?
それもあるだろうが、原因は別だろう。
何せ、初対面の時から砂川さんは俺に対して嫌悪感を顕にしていたのだ。
(もしかして……。)
俺は、前を歩く穴山を呼び止める。
「おい、穴山。」
「ん?」
こちらを振り返る穴山に手招きすると、穴山は歩くペースを落として、俺の隣に並んだ。
その際、穴山の隣を歩いていた砂川さんから睨まれたのは気の所為ではないだろう。地味に悲しい。
俺は隣に並んだ穴山の耳元へ小声で話しかける。
「なぁ……この前のゲイ疑惑、誤解解いたんだよな?」
「あぁ、勿論解いたぜ!愛の力でな。」
うわぁ〜うぜぇ顔してやがる。流石は野……は、関係ないな。今回は。
「じゃあさ、何で俺、砂川さんに嫌われてるんだ?」
俺の問いに「う〜ん」と考え込む素振りを見せた穴山が、ポンッと手を叩き、俺の耳に顔を寄せる。
「たぶん……あれだ。この前、お前がくれた忠告を瑞穂に話したからじゃないか?ほら、野球部のマネージャーがゲスな部員達に輪姦され――
「あへぇあ?!」
くそっ!またやられた!穴山めぇ……。
俺が耳弱い事を知ってて、わざと耳元で囁くように話しているだろう!油断ならん無自覚間男めが!
危うく、芹ちゃんの前でアヘ顔を晒してしまうところだったではないか。
だが、理由は解った。やっぱ、穴山の仕業だったか。
穴山はあろうことか砂川さんに、この前、俺が穴山に対して行った警告の内容をそのまま砂川さんに告げたらしい。俺の言葉として。
砂川さんからしてみれば、怒るのも当然かもしれない。
何せ、見ず知らずの男から一方的に寝取られ堕ち宣告を受けたようなものだからな。しかも、絶賛熱愛中?の彼氏伝手に。おのれ、穴山ぁ……。
(こりゃ……嫌われるのも無理ないわ。)
肩を落とす俺の袖を小さな手がくいくいと引く。
「何だい?芹ちゃん。」
芹ちゃんの黒曜石のような瞳が、俺の瞳の奥を覗く。
「お兄ちゃんは……穴山さん?の彼女さんに嫌われたくないの?」
あ……会話、聞こえちゃってたか。まぁ、別に問題ないけど。
……で、実際どうなんだろうか。俺が砂川さんに嫌われたとして――
「うーん。嫌われても別に問題ないかな。全然、平気だよ。」
俺が安心させるように微笑みながらそう答えると、芹ちゃんはほっとしたような表情を見せた後、「お兄ちゃん、ちょっと屈んで」と可愛らしくお願いをしてきた。
何だろうかと、俺が膝を屈めて、芹ちゃんと目線を合わせた時だった――
ヌルリと何か柔らかいものが俺の耳に入ってきて――
「あへぇ?!」
気が付いた時、俺は白目を剥き、アヘ顔を晒したまま、ダブルピースをしていた。
(えっ?!舌?耳舐めされた?)
驚いて芹ちゃんへと向き直る俺に、彼女はこう告げた。
「お兄ちゃんには私がいるからね。他の女の子は……イラナイ、ヨネ?」
順調に芹ちゃんが病みつつある中、次はお待ちかね?ジュリオくんのターンです。