間男だらけの夏祭り
沈みかけの太陽を追いかけるように歩く。
夜の帳が降り始めた街は、蝉の大合唱が終わった代わりに、人々の喧騒に包まれていた。
今日はこの街が主催する夏祭りである。
逸れないように俺が芹ちゃんの手を引いて歩くと、彼女は小さな手に握り返してくる。
買ったばかりの浴衣に身を包んだ芹ちゃんが、必死にトテトテと着いてくる。普段、和服を着慣れていない為、歩き難いのだろう。
「芹ちゃん、大丈夫かい?」
「う…うん。大丈夫だよ、お兄ちゃん。」
俺は意識して小さな歩幅でゆっくりと歩くようにして、芹ちゃんに負担を掛けないようにする。
人様の子だ。決して怪我させるわけにはいかないのだ。
(しっかし、何処もかしこも……。)
間男、間男、間男!今日は間男の祭典か?ネトリスト・カーニバルなのか!?
やたらチャラ男率が高い!チャラ男率は優に5%を超えていると思われる。
チャラ男は間男、これは万人にとって既知の事実だろう。
カップルで祭りに来ていないチャラ男は100%寝取り目的だと見て間違いない!(断定)
(やべぇな……俺のネトラレーダーがギュンギュンに反応してやがる!)
俺の魂に内蔵されたネトラレーダーが、先程から警笛を鳴らし続けている。
それほど、この夏祭りは危険なのだ。間男達の言うところの、ネトリ・フィーバーは伊達じゃない!(言ってない)
夏祭りに美織や橋爪さんを誘わなくて本当に良かった。
まぁ、別に二人と俺の間には何もないはずなので、NTRもクソも無いのだが。
「ヒャッハーッ!祭り、浴衣、女!最高だぜぇ〜!」
「ほんなこっ、ほんなこっ。浴衣から覗く若い娘の素足とか項とか、堪らんばい!」
「せやけど、甚平の少年達もええんちゃう?」
「馬鹿め!夏祭りはかき氷に綿飴、女子供にうつつを抜かしている場合では無いぞ!あ……熟女ならワンチャンOK。(小声)」
すれ違いざまにチャラ男4人組の会話の内容が聞こえて来た。
なんて下劣な奴らなんだ!これだからチャラ男は撲滅せねばならない。
今度、市町村に掛け合って、チャラ男撲滅キャンペーンを推進してもらうべきか……?
そんな事を考えていると、屋台のおっさんから不意に声が掛かった。
「兄ちゃん、可愛い妹さんだね!どうだい、リンゴ飴だよ。」
ニヤニヤと芹ちゃんをみるハゲ頭のおっさん。ま…まさか――
「媚薬入りじゃないだろうな?」
「は……ビャックィリー?いや、うちのリンゴ飴はシロップでリンゴをコーティングしたオーソドックスなやつだよ。」
ふむ……。俺はおっさんの目を見る。
目が泳ぐ事も無ければ、何かを思い出すような素振りも無い。嘘では無さそうだ。
「はい、芹ちゃん。」
俺はおっさんに代金を払い、リンゴ飴を芹ちゃんに渡す。
「ありがとうお兄ちゃん!あの、お金……。」
ポーチから財布を取り出そうとする芹ちゃんの手に、俺は自分の手を添えて微笑み掛ける。
「今日は、俺に奢らせてよ。」
「で…でも、いつも奢って貰ってばかりで悪いよ……。」
うむ。実に良い子だ。礼儀正しくて、遠慮もできる。
だが、こんな良い娘こそが将来、チャラ男に……。(以下略)
――そんな事にならない為にも、今日は俺がしっかり芹ちゃんを守らねば!
「良いんだよ。俺は芹ちゃんの喜んでくれる顔を見るのが好きだから。」
「は…はぅ……?!お兄ちゃん……好き。(小声)」
良かった。芹ちゃん、喜んでくれたみたいだ。
いや、でも一応、媚薬とか睡眠薬が入っていないか、俺が毒味すべきか?
リンゴ飴にかぶり付く芹ちゃんを眺めてほっこりしていると、不意に俺のスマートフォンが振動し始めた。
「あー、もしもし。穴山か?」
「おう、俺だ俺!今、着いたから、合流しようぜ。」
電話は穴山からであった。今日は、穴山と野球部マネージャーである穴山の彼女、角家のジュリジュリ姉弟と一緒に祭りを回る事になっている。
「ああ、いいぞ。何処で合流する?」
「場所はなぁ――
俺と芹ちゃんは合流場所へ向かって歩き出した。
次回は、穴山カノとご対面!……大丈夫か、穴山くん?